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月例落選 短歌編 2022年8月号

角川『短歌』が届く。真っ先に投稿歌のページをめくるのだが、特選や秀逸に選ばれている歌と選評を読んで、「そうかねぇ」と思う。半分は負け惜しみではあるのだが、あまり感心するような歌とも思えないのである。その後で、手帳を開いて控えてある自分の投稿歌を改めて眺める。投函したのは5月12日。毎年作る梅干し用の梅を発注した日だ。梅はすでに届いて、土曜日から土用干しをしている。見出しの写真は土用干し2日目、昨日の朝のもの。明日午前中に取り込んで出来上がり。去年と今年は3Lを使っているので、果肉が厚くて梅の香りが強い。

題詠のお題は「CD」。どういうつもりでこんな題にしたのか知らないが、今の時代にCDで音楽を聴く人口がどれほどいるのだろう?既に骨董品の部類になりつつあるのではないか。出題意図がわからない。わからないままに以下の3首を詠んだ。

可聴域超えた音域切り捨てしCDが捨つ音楽の神

針下ろす儀式無くなり音楽が軽くなりたるCD時代

ジャケットはレコードサイズでサマになるCDで識る大きさの妙

アナログレコードからCDに移行するとき、可聴域から外れた音域を捨てることでメモリーサイズを節約してLPレコード並みの販売価格に収まるようにしたというのは誰でも知っていると思っていた。確かに聴こえると認識できるか否かという点では、聴こえない音を記録するのは無駄なのかもしれない。しかし、人間には無意識というものがある。認識していないけれども聴覚が刺激されている状態がある。つまり、聴こえないけれど聴こえている音がある。オーディオの技術者ならそんなことは当然知っているだろうが、そこは資本原理に屈したということだろう。賃労働者だから仕方がない。

尤も、レコードは塩ビの板に溝を刻むことで音を記録し、その溝をレコード針でトレースすることで音情報を再生する。物理的に摩擦するので溝は摩耗する。つまり、何度も再生すれば録音した時の音から離れてしまう。音質の劣化が顕著になるのは25回目あたりからだという話を聞いたことがある。しかし、新品ならCDよりも原音に忠実であるということでもある。確かに身近にいた音楽好きの連中は皆一様に「CDは音が悪い」とぼやいていた。

それでも、レコードのように神経質に扱う必要がなくなったことは、特別音楽にこだわりのない圧倒的大多数にとっては福音だった。私にとっても福音で、CDが普及し始めた頃、銀座のソニービルの地下にあったハンターという中古レコード店に家にあったレコード全て持ち込んで現金化し、それで買えるだけのCDを買った記憶がある。我ながら軽薄だ。

今の勤務先が入居しているオフィスビルには、入居企業の共用施設として、コンビニやカフェや談話室のようなものがある。そのカフェと談話室を棚で仕切っていて、棚には古いレコードジャケットが並んでいる。CDが登場したとき、ジャケットはレコードのものを縮小して使用されていた。同じ写真や図柄なのに大きさが変わると随分印象が変わるものだと思った。今、改めてレコードサイズのジャケットを見ると、やっぱりいいなと思う。何がいいのかわからないが。

雑詠は以下の4首。

目覚ましと毎日違う鳥の声異なる時間異なる世界

花咲けど実の生らぬ木をこしらえる命操る快感に酔う

花咲けど実の生らぬ木に集い居る実の無き暮らし慰め合うて

老いる毎あさましき性顕れて老人ホームの午後のひととき

自分でも、素直に花を愛でる歌を詠めばよさそうなものを、とは思うのである。どういうわけか素直になれない質らしい。今、花といえば桜で、桜といえばソメイヨシノだ。そのソメイヨシノは江戸時代に染井地区に集住していた植木職人たちが接木を重ねて完成させた品種で、花は咲くが実が生らない。どうしても、その人間の側の都合に合わせて花のほうをいじることに注意が向いてしまうのである。そういう花の下で宴会をする群衆の姿がこの世界の何事かを象徴しているかのように見えてしまう。見えてしまうものはしょうがない。

因みに、万葉集の時代は花といえば梅だったそうだ。その梅は大陸から伝えられたもので、庭に梅があるということは、ちょっとした自慢の種だったらしい。

梅といえば、これらの歌を投函した日に注文した梅は6月14日の夜に届いた。その日のうちに洗って容器に収め、塩をして重石をした。重石は、ビニール袋に水を入れ、万一に備えてさらにビニール袋に入れて口を縛ったもの。梅にざっくり均等に負荷がかかり塩梅がいい。

6月14日 夜に照明の下で撮影したのでこんな色になった

3日目あたりから梅酢が上がり始め、つまり、塩により浸透圧が働いて梅の実の水分が吸い出され、その分、梅の嵩は減って10日ほどで梅の実は完全に梅酢に浸かった状態になる。そこに塩揉みをした紫蘇を入れる。

6月28日 梅の嵩がつけ始めの三分の二くらいになる

紫蘇を入れて1週間もすると梅酢が紫蘇で赤く染まる。梅もその赤い梅酢に染まる。そうしたら、天気予報を毎日眺めて、雨が3日連続で降らない日を狙って天日に干す。

7月23日 土用干し1日目

明日、梅を瓶に戻す。今年の梅干も無事に完成。ありがたいことだ。

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熊本熊
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