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春駅物語

「素敵な駅名だ」
 私は「春」という名の駅に降り立った。朱色の塗装が施された電車はしばらくすると何事もないように走り去る。私は春駅からバスに乗り換えるために下車した。それにしても駅の名前がそうだからだろう。ホームの柱はピンク色に塗られ、駅名を示す表示板も桜と梅のイラストがついている。
 電車が去ったあとホームの先から見える白梅がちょうど満開だった。思わず一枚撮影する。

 こうして私は駅の改札を出た。それにしても駅構内はとにかく春をイメージするイラストが多く、内装も薄い桜色で統一している。本当はこの駅でしばらく過ごした気にもなったが、あいにく私には予定があった。
 私はこの駅に停車する紅色のバス「ライラック号」に乗って次の目的地を目指さなければならないのだ。駅舎にぶら下がっている時計に視線を送る。バスが来るまであと10分、電車とバスが連絡していることはあらかじめ調べていたから想定内であった。駅舎を出たすぐのところにバス停がある。

 バス停でバスを待つ。目の前の歩道沿いには桜並木が続いていた。せっかくなので桜の枝を見る。枝から丸っぽい蕾(つぼみ)は出ていることを確認するが、まだ固い。「桜の時期に来たかったかなぁ」と私は思いながら蕾を眺めていると、ふと頭の中に一句浮かぶ。思わず心の中で詠んでみた。

春の駅 蕾眺めし バスを待つ

こちらの企画に参加してみました。(俳句がメインで前置きのミニ小説がおまけ)

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