思い出せない夢
「......」
目が覚めた。突然意識が我に戻る。直前まで夢を見たんだろう。ここは布団の上。ベッドではなく、畳の間に敷いている。
白い布団の横には大きな窓。ドアが開けられるようになっていて、そこはテラスになっている。そこからの朝日が部屋に入り、目覚めをサポートしてくれた。
仰向けに寝ている。視線には天井がみえるが、起きたばかりなので、少し歪んでみえていた。
だけど数秒後にはハッキリと、木目調になっている天井が認識できる。
幸いなことに今日はシフト勤務が休み。だから慌てて起き上がる必要が無い。ここで昨夜見た夢が、何だったのか? 急に思いだしたくなる。
ところが見事に記憶にない。夢を見たという記憶だけはある。では一体何を見たのだろう。
記憶に残らないということは、経験上悪夢ではないはずだと直感。
いつもならそれで何の感情もないまま、体を揺り動かして起き上がる。
ところが、この日は違う。なぜか夢の内容にこだわった。
理由はわからない。無意識からのメッセージが訴えてきているよう、だから体が動かないのだ。
動かないといっても金縛りではないから動く、動かそうという気力が起きないのが正解。
さて何を見たのだろう。茫然と頭の中を捻らせて思い出そうとする。
だがどうやっても思い出せない。夢は過去の起きたことなどの記憶の断片だと聞いたことがある。だがこの日は、その「ダ」の字も出てこないのだ。
姿勢を変えようと、寝たまま左に身体を向けたり、逆に右に向けたりを繰り返して見た。
ダメだ、やはり思い出せない。
今度は枕を曲げて、少し頭を高くしてみた。そもそもそれをした意味がわからない。やっぱりだめ。
ようやく諦めがついた。日差しを浴びながら起き上り、服を着替える。朝の身支度を整えながらテレビをつけた。テレビでは今日4月21日が『民放の日』であることをアピールしている。テレビ越しから聞こえるアナウンサーによれば、1951年4月21日にラジオ16社に民放初の予備免許が与えられた日だという。
頭の中で思ったことはふたつ。「このときまだテレビ放送をしていなかった」ことと「それまでNHKしかなかったのか」である。
ちなみにテレビ放送が始まったのは、2年後の1953年かららしい。
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ローテーションの様に朝の身支度を終える。休みだからそのまま、何も考えずにテレビを見ていても良い。だけど外を見ると明るい日差しが部屋の中に入ってきていた。空は快晴。外に出たら気持ちいいことがほぼ間違いない。
「散歩に出かけてみよう」目的もないけど無性に外に出たくなり、家を出た。いつも見る風景。通勤時ならその後から続く「仕事」という名で、報酬という名の金と引き換えに、強制される時間を暗くなるまで過ごす必要がある。だがこの日はその時間から解放された一日。
いつもとは違う。歩行速度も遅い。靴を通じてアスファルト面との感触を確かめていくかのよう。普段なら気にもしない咲いている花々をゆったり眺める時間があった。よく見ると足元には雑草が生えていたが、その中で花を咲かせているものがいる。
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15分くらい目的もなく歩いたつもりだが、途中からある目的に向かっていた。目の前には少し車線の大きな幹線道路。これを渡ればその前には斜めになった緑の壁・河川敷がある。街中を歩いたり、近くの児童公園と違い、開放感がまるで違う河川敷。
今日の天気の良さなら、日差しと川から流れる心地よい風を浴びるのは最高の贅沢だ。だから何の躊躇もなくそこに向かう。
幹線道路は多くの車が行きかっている。だけど信号がないから車がないタイミングを計る必要があった。しばらく車列が続く。10台くらいが過ぎただろうか? ようやく途切れてくれた。「よし渡れる」そう思って足を踏み出したとき、突然脳裏に浮かんだもの。それは昨夜の夢。
あれだけ記憶から封印されたのに、突然頭の中で映像で再生された。
それはこうである。道を歩いていたら突然目の前に大型トラックが現れた。トラックの色は青色だったか? はっきりしない。慌てるも何もすぐに衝突。だけど夢だったからか、直後に飛ばされたように空が回るようには見えたが、痛みが全く無かった。
突然、クラクションが耳を入る。
「あっ」音の成る方向を見ると、反対方向から青いトラックが迫っているではないか。
「まさかあれは予知夢?」 トラックが何度もクラクション。ブレーキを踏んだかのような高い音も聞こえた。
慌てて、体を伸ばすようにして逃げる。
トラックは速度があまり落ちず、そのまま猛スピードで通過していった。そのときの怒涛のエンジン音。そしてすぐ横を通り過ぎたときに受けたわずかばかりの風圧が生ぬるく体にぶつかってくる。これを浴びた時前身に鳥肌が立つ。とても生きた心地がしない。
ただ幸いだったことは、逃げたのが間に合ったから、トラックにぶつかることなく無事。無傷だった。
直前に予知夢? を見たのを思い出せたからだろうか? 反対方向を確認せずに渡ろうとしたのが、まずかったのは言うまでもない。
再度左右を確認。完全に車はない。小走りに道路を渡り、河川敷に到達する。そして芝生のようになっている場所に座ってみた。目の前には川がゆっくりと流れている。空は強い日差し。雲は遠くにわずかに見られた。
まだ先ほどの危険が記憶から離れない。と同時にやがて朝のことを思い出す。
起きたとき、布団のなかでやけに昨夜の夢を思い出すのにこだわった。あのときは思い出すのが無理だったけど、直前に思い出せたから無事である。
そのときの無意識から来た何らかのメッセージ? 夢を思い出させようという「こだわり」として伝わった。だから命が救われたのかも知れない。
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シリーズ 日々掌編短編小説 456/1000
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