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コットンで切り抜けた危機?

「あ、美里ごめんちょっと所用で遅くなって」「良かった! 里美来てくれて」双子の美里は片割れの里美が来て嬉しそうに手を振った。
 ここは町はずれにある森の中。手前は公園になっていて休日の憩いの場だが、そのまま奥に行けば山の中に入る。
 美里はちょうど公園から森のように緑が広がる山道に向かう入口で里美を待っていた。

「あれ、スカートじゃないの。今日はパーティだからって言ったのに」
 水色のロングスカートを履いていた美里はあきれた表情で里美を見る。だが里美は悪びれた様子はない。
「そんなことよりどう。これこの前ネットで買ったオーガニックコットン。今日は5月10日でコットンの日よ」
 里美は淡いグレー色をしたコットンの服を自慢げに美里に見せる。

「まあいいわ。里美似合ってるし。実は今夜のパーティどうも胸騒ぎがするの」「美里、パーティで胸騒ぎ?」
 不思議そうな里美。美里は話をつづけた。
「実はあの、私の職場にいる美鈴ちゃんいるでしょ」
「ああ美鈴ちゃんね。最後にあったの3か月くらい前かしら。じゃあ彼女も来ているの」

「うん、だって今日は美鈴ちゃんから誘われたの。毎週この森の中にある別荘で行うパーティなんだって」
「その美鈴ちゃんは」里美は先ほどから首を小刻みに動かしながら美鈴を探す。だが彼女はみつからない。
「さっきまで一緒だったの。でも私は『ここで里美を待つから』って言って先に会場に行ってもらったわ」里美はそれを聞いて苦笑い。

「ありゃりゃ。美里ゴメンね。遅刻しちゃって」しかし美里は首を横に振る。
「いいの、ちょっと美鈴ちゃん変だだったし」「変て?」
「ここまで来るときに、私の手をやたらと握ろうとするの。それで体を近づけて何か甘える声出してさ『美里ちゃん今からのパーティ絶対に楽しいのよ』だって」

「何それ?」「だからちょっと気持ち悪さもあったから、ちょうど良かったわ。里美に感謝したいくらいよ」
 そのあと美里は白い歯を見せて笑顔になる。その後ふたりはゆっくりと歩き出す。 

 実は1時間程くらい前まで雨が降っていた。そのため路面は濡れている。だが空はすっかり晴れ上がり、雲はほとんどない。そして夕焼けの茜色の空が顔をのぞかせている。
 天気予報もこの後はずっと晴。だからふたりは折りたたみ傘を持っていたが、既にバックの中にしまっている。
「へえ洋館の別荘かあ、美鈴ちゃんてそんなお金持ちだったんだ」
「じゃないと思う。確か美鈴ちゃんは元々祥子さんに誘われたって」

「祥子、あああのド派手な子。そうかあの子とは半年以上会ってないかな」「そう派手でしょあの人。私は祥子さん、なんとなく苦手」
 美里は腕を組んで軽くため息。
「で、美鈴ちゃんが祥子さんに誘われてこのパーティに参加し始めたのが1か月くらい前。でもそれからなのよ。彼女の様子が明らかに変なの」

「どういうこと?」里美は興味深そうな表情にある。
「彼女のイメージがどんどん変わっていくの。突然派手なバッチリメイクになったのよ。それに服もそれまで少しトーンの大人しい色の服を選んでいたのに、あの日以来だわ、急に服の好みも変わったようなの。最近は原色系ばかり。今日も真っ赤で鮮やかなワンピース姿だったわ」

 ふたりは完全に山道に入った。少し薄暗いが、道路には照明がある。それ以上に、ふたりが興味をそそられたのは、雨が降った後だからだろうか? 水がたまった森の木々がしっとりとしていて、より美しく感じる。

「へえ、じゃあまるで美鈴ちゃんが祥子に合わせているみたいね」「かもね。一体何なんだろう」美里は美鈴の変化が気になって仕方がない。
「わかった。それで、なぜ彼女がそんなに変わったのか気になって」
「そう。このパーティに何か秘密があるのかなってね。そしたら彼女から私を誘ってくれたの。『絶対に楽しいから行きましょ』だって」

「へえ良かったじゃん。これで彼女の秘密がわかって」
「でもひとりじゃ不安だったの」「それで私を」
「そう、ゴメンね。でも里美がいるだけでちょっと安心したわ」同時に顔を合わせたふたりは笑顔になる。

 そのまま山道を歩き続ける。なだらかな登り坂。舗装されていて片道1車線の車道である。だから、この日美里が履いていたヒールの高い靴でも問題ない。

「たしか、あの道を右下に行くみたいね」山道に入って10分程度。分かれ道がある。
」「右下ね。そういえばこっちには、行ったことないわ。そんなところに洋館が......」
 ふたりは美鈴に教えてもらった通り右下に続く道に入る。ここはなだらかな下り坂。この道は先ほどと違って、幅が狭い。車がすれ違うのがやっとのようだ。それでも舗装されているので、歩くのに問題はなかった。
「里美、彼女がさ、そのパーティに参加し始めてからの変わりようが、あまりにもすごいのよ。それまであんなに化粧とかに興味ない子が、いつも赤い口紅をつけて、それで最近はいつも嬉しそうに笑ってるの。
 でもよく見たら彼女、目の焦点が合っていないの。何を考えているのかしら」

「わかった。それは、そのパーティの場に彼女の王子様がいるんじゃない」
「え! 王子様かぁ」美里は視線を遠くに置きながらつぶやく。
「そうよ。多分イケメンの男子がそろっているわ。美里も狙いなさいよ」

「そういうパーティ....... だったら里美、ショコライテの彼氏いるのに誘って悪いことしたかな」
「ハアハハッハ! そんなの大丈夫よ。私は参加者というより美里の付き添いだから」里美は笑った。

「この道をまっすぐ行ったところに赤い屋根の洋館あるそうよ」
 ふたりがそれから歩いて5分。大きなカーブの道をを歩いていくと、木の陰から赤い屋根の洋館が見える。
「里美、多分あれだわ」
 こうして視界が開け、洋館の全容が見えてきた。暗くなって来ているが、まだ全体が見える明るさは残っている。中は照明がついておらず、ひっそりしている。ここでいったん立ち止まるふたり。「里美なんか結構古そうね」「うん、こんなところに洋館がねえ......」

「さ、里美行くわよ」「うーん」ここで里美の表情が突然厳しくなる。「なんとなくだけど、嫌な予感」
「え! ここまで来て、何それ。変だったら10分くらい様子を見て、すぐ抜けたらいいわ。とりあえず行きましょ」
 美里は里美の腕を引っ張る。渋々里美が足を動かした。
「ああ!」突然里美が大声を出す。

 どうやら道の真ん中に長く突き出た枝があったようだ。ふたりは気にせずにそのまま歩いていた。すると里美のコットンの服が枝に引っかかってしまう。
「あ、ああ」枝から服はどうにか取れた。だが里美の表情は暗い。「コットンの服が! これ新しいのに......」
「えっと、里美多分、服は破けていないわ」
 確かに服は破けてはいない。だが雨上がり。木の枝についていた濡れているものが服の広範囲についてしまった。グレーの上から焦げ茶色した土が付着。完全に汚れてしまったようだ。

「これってさ、なんか嫌な予感が」美里はそれを見てつぶやく。「そうよね。やっぱりやめようか」「うん、里美。帰ろう」
 結局ふたりは、来た道を引き返すことにした。

 先ほどの分岐点に戻り、メインの山道に戻ったふたり。空は完全に暗くなっていた。間もなく山道の出口に差し掛かろうとすると、ライトをつけて、大きなサイレンを鳴らした車が向かって来た。

「え、パトカー?」2台のパトカーがふたりの前を通り過ぎた。「何か事件かしら。あれ、パトカー洋館のほうに向かってない」

 ふたりはそのまま家に帰った。

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「ねえ、里美見てこのニュース」美里が里美を見つけると、慌ててネットのニュース画面を見せる。里美もそれを見て目を見開いた。

 それは洋館でのパーティで行われていた衝撃の事実。実はパーティの正体は麻薬パーティ。その後は男女が入り乱れ、朝まで乱交パーティに発展するという。
「内偵調査で、麻薬が出回っている証拠をつかんだ警察が、昨夜現場を押さえたか。そして参加者全員現行犯逮捕......」 
 逮捕されたものの中には、美鈴や祥子も含まれいた。

「ということはコットンの服が」「枝に引っかからずにそのまま行ってたら!」ふたりは危機を脱出したと思い、同時に胸をなでおろすのだった。



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