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突然現れた鉄橋 第721話・1.14

 ここはある国のはずれにある岬。ここには一本の鉄橋が突然現れ、海の沖合まで伸びていた。いったいどのくらいの長さがあるのかわからない。この世界ではまだ飛行機なるものが発明されていなかった。

 そしてこの岬から広がっている海は、今まで不人踏の海と呼ばれている。この世界のはずれにある海の沖合は、未知の世界。漁師たちはもっと内側の海でのみ活動している。その内海と比べて激しい波が打ち寄せるこの海は、かつて何人かの冒険者たちが沖に向かった。だが誰ひとりとして戻って来る者はいない。

 そんな未踏の場所に、ある日突然一本の鉄橋が現れたのは10日ほど前のこと。前の日までは岬には何もなかった。それが一晩すぎて、翌朝、ほとんど音が聞こえることなく、突然何の前触れもなく現れたのだ。  

 何の音もせずに湧き出るように現れた鉄橋。いったいだれが何のために作ったのかわからない。国中が大騒ぎとなり、軍隊が10メートルほどまで進んで調査をした。だが何もわからない。ただはるか遠く点になる先までこの鉄橋が続いていることだけは確かなようだ。

「この鉄橋の先に何があるのか、調査したい」ひとりの男が立ち上がった。政府は、この男の提案に最初は難色を示す。なぜならば今まで船で沖合に出て戻ってきた者がいない。この鉄橋の先に何があるのか誰もわからないのだ。今はただこの岬に軍を常駐させ、不測の事態に備えることしかできないと思っていた。

「行ってみなければわかりませんよ。海で戻ってこなかったのは荒波に飲まれただけかもしれません。でも歩いて渡れるのならこの先に何があるのか、どこから先が進めないのか調査できます。どうか私にこの任務を」
 男はこの国で生まれ育ち、冒険家にあこがれていた。いつかこの海の沖合に出てみたい。そして初めて沖合の先を知った英雄になりたいという夢を持っていた。それがこの鉄橋である。男にとってはまたとないチャンスなのだ。

「軍からの報告では、30メートル先までを調査した結果、頑丈な鋼板でできていて、人が渡るのに問題はないとのことだな」3日前のこと、国家元首は報告を聞くと男を呼びだした。
「命の保証はないが、そなたはそれでも行くのだな」「はい」
「わかった。しかしできれば数名で調査をしたいのだが」「僕には一緒に住んでいる弟がいます。彼と一緒に行こうかと」「うーむ、それだけではな。あと3日待ってくれないか」男は国家元首の命令に従った。
「例えば、ロープを体に結ぶばせるというのは如何でしょう」男が去ったあと、元首の横にいた側近が口を開いた。元首は一言「よかろう、そうしよう」

 当日、元首の側近が2名の兵隊つれて男の前に来た。「安全のためとはいえ、僕はそんなロープなんてつけたくありません」 
「いえ、あなたの兄弟にある程度まで、こちらの兵をつけたいと考えております。この2名にロープをつけて送り届けましょう。このロープは1キロ近くありますので、そこまで行きましたら兵を戻します」

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「では行ってまいります」「必ず戻ってきてくださいね」「報告を待っているぞ」こうして男とその弟それからロープの付いた2名の兵士の4人は鉄橋を渡りだした。
 鉄橋は延々と続いている数百メートル歩いても何も変わらない。逆に岬が見えなくなり、真下を見ると荒々しい海が白波を立てている。

 やがて兵士たちが止まった。「どうやらロープが伸び切ったようです」「ということは、ここからは」「ええ、そのつもりです。しかし何も変わりませんね」左側の兵士がつぶやく。すると右側の兵士は、自分のポケットからナイフを取り出すと、自分を括り付けているロープを切ってしまった。「おい、お前、何をしている」「俺はこのふたりと一緒に先に行きたくなってきた」「おろかな、軍法会議者だ!」叫ぶ左側の兵士。後ろを向き引き返そうとしたその瞬間「ああ!」左側の兵士は右側の兵士に後ろから突き落とされてしまい、そのまま海の中に落下した。

 その一部始終を固唾をのんで見守る男と弟。残った右側の兵士は口を開いた。「正直に申し上げましょう。私は、あの国の調査に当たった工作員。私の本当の国はこの橋の先にありまして、あなたの住んでいたあの国よりもはるかに文明が進んでいます。驚くかもしれませんが、あなたの国は未開で、いまだに鎖国を続けておられていりるのですよ。我が国は交流ができないかと模索していますが、一切応答がなく、外部から侵入しようとすると無条件に攻撃をしてきます」
 男と弟は聞いたこともない話に固唾をのむばかり。

「我が国がその気になれば、あなたの国を滅ぼすことなど簡単ですが、それは我が国の人権団体が許しません。だからできるだけ平和裏に解決する道を模索しています。ご存じないかもしれませんが、毎年に多くの人が海を渡り逃げてきていました。恐らくこの洗い海あなたの国の船では多くが沈没しているでしょう」

「冒険者たちが戻れなかったのではなく。戻らなかったか」男はつぶやくと横と弟が叫んだ「だから友達が突然いなくなったんだ!」
 実はあの国では突然人が消えることがある。だが男と弟は小さいときから「悪いことをして神隠しにあった」と言われ、それを信じていた。まさか逃げているのは思わない。
「でもあなたは、どうやって入れたんですか」「それはここでは申し上げられません。あなたの国の国民に成りすませて侵入している者は、結構多くいます」
「ではこの橋は」「そうです。我が国が一夜にして架けました。我が国の調査により、あなたの国の島とは10キロあることをすでに知っていましたので、あらかじめ作ってありったもの。そのため一晩で設置できたのです。もちろん私のようにあの国にいる多くの工作員が当日の夜に、密かに取り付ける作業をしましたけどね」

「ではなぜこのようなことを?」「先ほども言いましたように、海から逃げる人がいるから、橋があれば安全に渡れるでしょう。そして」
「そして?」「今回あなたがチャレンジしたことで無事に渡れることも実証されました。さ行きましょう。私たちがこの先の国に到着すれば、その翌日にでも我が国の最新の軍隊が突撃し、あの国の国家元首と半ば脅迫しながら平和裏に交渉することになります。もう無意味な鎖国を止めさせるつもりです。そうすればこの橋は、友好の橋となるでしょう」

 男は兵士の行っていることが半分くらいしかわからなかった。それでも自分が役に立ったこと。この先新しい何かが起きるような気がして気持ちが自然と高揚した。


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シリーズ 日々掌編短編小説 721/1000

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