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テレパシー? 第868話・6.10

「え、い、いや!」突然彼女が大声で叫んだ。「おい、どうしたんだ。急に大声で出して?」「やめて、い、嫌ああ!」彼女はなおも叫ぶ。目の前には鳥かごがあり、そこでオウムを飼っていたが、オウムが驚いた表情で大きく目を見開いている。

「おい、大声出すなよ。コイツがびっくりしているじゃないか」俺はやや厳しい目つきで彼女を窘める。
「ち、違うの、い、嫌あぁ......」彼女がなおも叫ぼうとするので、俺は手で彼女の口を押えた。「...うっううう....」
 彼女はなおも少し苦しそうにうなり声を出しているが、俺はそのまま彼女の口を押え、鳥かごのある部屋から出そうとした。だが彼女は首を横に振って抵抗。
「急にどうしたんだ、大声を出したかと思えばそんなに嫌がって。部屋を出たら口を外すから」

 彼女はなおも抵抗を試みるが、力ではおれの方が断然上。彼女を強引に部屋から出し、隣の部屋に入ると。そこでようやく手を口から外した。
 手が外れたことで、彼女は何度も口で激しく呼吸をしているが、表情が憔悴している。

「急に何があったんだ。俺に説明してくれないか」彼女はしばらく息を整える。「き、聞こえたの」
「聞こえた?何が」「か、彼からのテレパシー」そう言って彼女はなおもオウムの鳥かごがある部屋に向かおうとしたが、俺はそれを後ろから羽交い絞めにするように押さえた。
「ちょっと待て。とりあえず、あそこにはいくな。その何?テレパシーって」
 俺が完全に押さえているので彼女は観念。おかげで少し冷静さを取り戻す。「ご、ごめんなさい。でも聞こえたの。私の頭の中に彼からの訴えが」俺は不思議そうな表情で彼女を見つめたが、彼女は必死。「本当よ!信じて、彼は私たちから離れることをすごく怖がっているの。私に必死に『離れたくない!』と伝えてきた。ねえ、信じてお願い!」


 同棲して5年。俺は来月から海外の赴任が決まった。そこで彼女にプロポーズしたのは先週のこと。「一緒に海外に行こう」という言葉に彼女は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
 ということで現地で結婚式をすることが決まり、それらも含めて引っ越し準備をしているところであったが、問題は飼っていたオウムの処理に悩む。「海外に持ち出しは無理だろう」と俺も彼女もそう思っていた。だから鳥が好きそうな信頼できる友達に、引き取ってもらおうと相談していた矢先のこと。
「まさか......」俺はオウムのいる部屋を見た。その視線を感じたのか?オウムが鳴いている。

「私も突然のことで自分で頭がおかしくなったのかと、焦って叫んだけど、今でも彼からのメッセージが聞こえるの。本当よ」
 彼女の性格は知っている。霊感と言うかそういうものが俺よりも持っていることは確か。それにしても小鳥からのテレパシーなんてあるのだろうか?

 俺はまだ半信半疑だが、確かに一緒に飼っていたオウムは、俺と彼女にとっては子供のような存在だ。だから彼女が突然発狂気味に大声を出したとき、オウムが怖がってはいけないと、俺は慌てて別の部屋に、彼女を連れだしたほど。
 俺は腕を組んで少し考えた。この間30秒ほど。「わかった。もう一度彼の部屋に行こう。その代わり大声出すなよ」彼女は黙って大きくうなづいた。

 俺と彼女はオウムの部屋に戻る。オウムは先ほどのようにおびえた表情はしていない。むしろ俺たちが戻ってくれたことで安心しているようだ。
「聞こえるわ。やっぱり彼は私たちと離れ離れになることを知っている。それをやめてほしいと、何度も私に伝えているの」
 冷静な表情で彼女がつぶやく。もう彼女は冷静で大声は出さない。むしろ笑顔でオウムを見つめている。オウムは彼女を見て安心しているようだ。
「ねえ、どうにかならないかしら?」彼女からの提案。いま彼女は心の中で唱えるようにオウムに「相談するから待って」と伝えたという。

 俺は再び腕を組んだ。確かに毎日オウムと一緒にいることは俺にとっても彼女にとっても癒されているのは間違いない。いずれふたりの間に本物の子供ができると思うが、それとは無関係にオウムの事も子供のようなもの。いくら海外に行くからと、あっさり諦めて人に引き渡すのは少し身勝手な考えだったかもしれない。
「わかった。調べてみよう。オウムを海外に持ち出す手続きを」

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 俺は調べてみた。日本への持ち出しには輸出検疫を受ける必要もなく、大きな問題はなさそうだが、後は相手国の事情によるのだという。検疫所を通じて調べてもらうと、多少の手続きは必要のようだが、クリアできそうだとわかった。
「おい、一緒に行けるぞ。こいつも」俺は彼女に報告すると、彼女も嬉しそう。「本当に!良かった」
 そのままオウムのいる部屋に向かった。彼女がテレパシーを使って心の声でオウムに報告。するときのせいかもしれないが、その直後にオウムが鳴く。その鳴き声は、本当に嬉しそうにと俺は感じた。



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