小説という著作物の販売ができたこと
「これって、やはりマニアックだった」ある人は、バスの後部座席に座りながら思わず腕を組んで深呼吸した。
これは今から1年ほど前の話。ある人がベトナムの歴史に関する連載小説に挑戦した。だがあまり評判が良くない。だから一度筆を折った ...... 。
ある人は、元々和洋中問わず歴史ものには興味がある。だから歴史小説が書ければよいと思っていた。ある人は理由はわからないが、なぜか東南アジアには縁があって渡航歴もある。だから詳しい。
その上ベトナムの歴史小説は、ベトナム戦争のころなら有名だから十分あり得るかもしれない。それ以前なら情報も少なくて書く人もいないから隙間だと思った。それはベトナム戦争やその前のインドシナ戦争などよりも、もっと古い王朝時代。フランスに支配される前だから、日本で言えば江戸時代ごろのベトナムで起きた物語を書こうとした。限られた情報を元に。
車内の前のほうには頭が真っ白なお年寄りの集団が乗っていた。少し声が大きい会話。聞きたくなくても勝手に耳の中に入ってくる。
「しかし今の若者は一体何よ。教育基本法に問題があるのかしらね」「『きょういくきほんほう!』この人はまた難しいこと言うんだ。さすが元中学校教師ね」
「え? 10年以上も前に定年を終えたわ。今はもうただのばあさんよ」「そうそう、この人やっぱり小難しいわ。そんなことより私この前テレビで見たの」「何を?」
「マルタ。地中海に浮かぶ小島。死ぬまでに一度行って見たいわね」
「まだ時期ではない」BGMのように流れる会話を聞き流しながら、ときおり体を動かすバスの中にいたある人は、そう結論付けた。
ということで、この連載は中断。いつか再開できる日まで待つことにした。
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それから1年近くたったある日。天気が良かったので近くを散歩してから戻ってきたある人がつぶやく。「外の空気はやっぱり気持ちいい」
この日は冬の寒さも終わりを告げていた。そして日中で風も吹かないから、暑く感じかけている。遠くからは鳥の鳴き声と思われる、高音を小気味よく切ったようなリズム感ある音が聞こえていた。少なくとも気持ちは晴れやかだ。
「摩周湖やっぱりきれい」ある人のパソコンの背景は以前旅をした摩周湖。ブルーの湖面を眺めながらついついそのときの記憶を思い出す。そんな記憶の心地よさを妨害したのはある通知。どうやらネットを通じて連絡が入っている。
「おめえさん、中々読み応えのある短編小説が多いじゃねえか。どうだい。もし興味あるなら、ある人物のエピソードを書いてもらえないか」
「ある人物!」ある人は、指定されたそれを見ると大きく頷いた。
「なるほどこれは面白い」と頭の中で唸る。
「頭をひねって想像力でいろいろ創作してみてみなよ。内容が良ければ、それなりの金額で買い取らせてもらいますぜ」とのことである。
さっそくある人は、その人物を調べた。だがその人物のことはこれまで名前を知っているくらいで詳しくは知らない。
ところが調べれば調べるほど、まるで芋づる式の様に面白いエピソードが目白押しではないか。
「この人ってこんな人生を歩んでいたのか本当に面白い。すごいわ。本当にエピソードだらけだ」と探しながら整理していく。
指定された文字数もある。だからすべてのエピソードを書くわけにはいかない。「さて、どれが面白いだろう」と考えていく。
するとある存在の文字が視線に焼き付いた。「こ、これは!」ある人は思わず息をのむ。
それは全く想像もつかない接点。さっそくここを深堀して創作できないか検討してみることにした。そして大まかなエピソードを把握して筆を執る。
いつもnoteなどで書く作品は自由だ。自由ということは、社会的に問題がある内容や相手を傷つけるようなことでも書かない限り、好きに書ける。だが今回は違った。あらかじめ特定の人物という『縛り』がある。
「うーん。だが縛りを苦にしてはダメだ」
いつものペースというわけにはいかない。
とはいえ「これはチャンスかもしれない」とひと踏ん張り。気晴らしにラジオのスイッチを入れた。普段聞かない放送局。ちょうどオーケストラの演奏が聞こえてくる。
ラジオから聞こえる音楽は心地よい。この音楽で頭をリラックスしたのが功を奏したようだ。筆が徐々に進んでくる。実はある人は頭を必死に捻りながら毎日短編小説を書いているが、その継続力が功を奏したようだ。粘りに粘って『縛り』を見事克服に近づいていく。
「あ、いい眺め」気が付けば夕日が見える。ところが下に視線を移せばなぜか海が!
「あれ? 何で!」思わず声を荒げると、突然場面が変わり自室のパソコンの前。ある人は創作に没頭したため、パソコンの前で寝ていて夢を見ていたのだ。
だが見ると作品が完成している。「よし完成した」ある人は大きく深呼吸。
ここで作品を送る、だがすべてではなく一部だけ。
なぜならば、もし全部送るとあとで金銭面でのトラブルが起きることを警戒した。そして先方からはGOサインが届く。
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「3月31日か。年度末に間に合った」 こうして多少の手直しはあったが、無事に著作物を納品する。ついに小説の著作物を販売した。実は昔、小説ではないある歴史ものを買い取ってもらったことが過去にはある。だが今回は違う。初めて『小説』を販売したのだ。
「あれ何でエッフェル塔?」気が付いたら背景画像がエッフェル塔に変わっている。寝ぼけてパソコンの設定を触ってしまったのだろうか? 原因はわからない。とりあえずいつもの摩周湖に戻した。
ただ小説の販売は本当に大きな出来事。ある人は「また半歩前進した」と自画自賛したのだった。
こちらの企画に参加してみました。
おそらく企画趣旨としてはここからが本番で上の創作物はオマケですが、電子書籍を自分で出すこと自体なら、やり方さえ知っていれば可能です。
例えば下記のリンク先の電子書籍。これはnoteの場合、タイムラインが流れて数か月すると情報の山に埋没してしまいます。
せっかく創作した大切な作品を埋没するのが嫌。そこで引き立てようと推敲を重ね、一部内容を変更したうえで電子書籍にしている短編小説集です。
今回は、そうではなく、ある出版事業をしている人から著作物を買い取ってもらいました。内容を見て金額を決めるということと、権利は放棄するが、著者名だけはそのままという条件。
ただ自由なテーマではなく、先方が指定したある歴史上の人物が絡んだ内容です。内容の一部を見てもらったうえで、思ったよりは良い金額で買い取ってもらいました。(もちろんnote非公開)
細かいことを言えばいろいろありますが、はっきりしていることは、少なくともnoteで毎日短編の小説を書いていたからその内容を見て、このような話につながったという前提があります。
毎日書くのは大変ですが、それでも書いたおかげで、小説という著作物が売れたという事実。これは自分自身をほめるべき内容かと存じます。
その作品は4月に販売なので、企画の締め切りである3月31日では間に合いません。また発売されましたらお知らせします。
※次の企画募集中(本日最終日)
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こちらから「旅野そよかぜ」の電子書籍が選べます
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シリーズ 日々掌編短編小説 435/1000
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