生ジョッキで会えた時
「ふたりまだ来ないから、先にやっちゃえ。カンパーイ!」
夏の風物詩ビアガーデン。しかし残暑が残る9月末まで開催されていることが多い。昼は相変わらず暑いけど、朝夕はずいぶん過ごしやすくなった涼しい夜風。ときおり会場にぶら下がっているいくつかの提灯に、そんな冷えつつある風がぶつかる秋の夜。虫が鳴かないのは、ここが都会だから仕方がない。でも真夏とはひとあじ違ったビアガーデン。何組かいる中でも、ひときわ楽しそうに盛り上がろうとしているグループがいた。
この大学時代からの仲間たちは、毎年9月の残暑のときを狙ってビアガーデンの飲み会を行っている。
「おいシステム!会うたびに飲めるようになったなあ」と声をかけたのは温泉ライターの西岡信二。システムとは黒縁眼鏡の志水輝夢(しすいてむ)。本人公認のニックネームである。
「ああ、どうしても職場で飲む機会があるからな。最初は泡からしてこんな苦いものの何が良いのかって思ってたけど、最近普通においしいと思うようになった」
「そうか、システムの舌も大人になったな。なら次はスタウトに挑戦しろよ。ギネスは香ばしさが加わってうまいぞ」「いいよ。そこまで飲まないし、付き合いで普通のビールで十分だよ」と、システムは黒縁眼鏡を直した。
「お前たち!何ふたりだけでで話をしているんだ」と間に話に入ってきたのは、村西啓太。彼もライターで、旅行とグルメ担当である。
「あれ、ジョージは?」「ああ、城山か。あいつはもうみんなの分の食べ物取りに行ったぞ」「じゃあ僕も」と立ち上がったシステムは、食べ物を取りに行った。
「でもお前聞いたぞ。いい仕事取れているじゃないか」「おう啓太、そうなんだ。明日からは箱根と熱海の温泉取材に行くことになった」「ち、何が温泉取材だよ。俺なんかこの前オンラインの取材で、相手がよくわからんやつで『アストラルがどうだらこうだら』って。ああ思い出すだけで疲れた。今日はガンガン飲んでやる」
そう強気な語調で声を荒げた啓太は、半分のビールが入っていたジョッキを一気に口に含む。底の角度を水平より、やや斜め上に向けたジョッキ。黄金の液体は次々と口の中に吸い込まれる。そして何の障害もなく、口の中を経由してそのままのどに入り込んだ。その間ポンプが作動しているかのように、のどぼとけの前が呼吸をするように動いている。
「ふう、いやー全部飲んだ。とりあえず俺は明日休みガンガン行くぞ!」と席を立ち上ろうとすると、空のジョッキが目の前に現れる。「取りに行くなら俺の分も頼む。この席誰もいないわけにはいかないだろう」と信二。「お、おう」と一言声を出して、そのジョッキを啓太が受け取る。
すると「あ、遅くなった。わりいな」とここで遅れてきたカップル。酒井洋平と鶴岡春香のふたりが現れた。
「もう飲んでるね。いいよすぐ追いつくから」「ちょっと洋平、飲みすぎちゃダメ」「何でなんだ!せっかくの仲間との飲み会だぜ。昨日春香のわがままで、ナイター競馬に行ったんだから今日は俺の自由にしてくれよ」「え!それとこれは別」
「あの喧嘩はいいから。ちょうど、ジョッキのビールを取ってくるんだ。手伝ってくれ」「おう、わかった」「私は食べ物取ってくるわね」
「よし、食べ物とドリンクを取って揃ったら乾杯をやりなおそう。俺は荷物の番人な」と、スマホでチェックをしながら信二がつぶやいた。
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全員がそろっての乾杯後、大体1時間ほどが経過。
「うん、やっぱり、下手だなこの肉まん」「何?味は悪くないぞ」「味はいいけど、ヒダが悪い」「そっかシステムは肉まん職人だもんな」と、すでに顔が赤く染まっていて、饒舌に語っているのがジョージこと城山次郎。
彼は4杯目のジョッキを空けようとしていた。ちなみにこのメンバーで一番飲んでいるのが、啓太の6杯。続いて信二と洋平の5杯と続く。春香は3杯目にはいったところ。そしてシステムは2杯目の半分程度である。
「ふうー、いいねぇ。こうやって飲んだら、やっぱりあの時のこと思い出してきたよ」と声も大きくなっているジョージ。「そうだな、あれ何年前だ」「洋平、たしか5年前だ」と、洋平に続いて啓太もあの時のことを思い出した。
「はいはい、5年前、またあの話か。俺あのときどうしても行けなかったんだ。毎年思うんだが、夏になったらいつもこの話していないか?」と言ってジョッキを空にする信二。
「信二悪いな、だけどあの未知の場所は、それまでの国内旅行とは違ってお互いが、いつも緊張しながらだったんだ。だから啓太とシステム、ジョージと俺の4人は、あれからより結束が強くなったというか、夏にメンバーがそろうと、どうしてもあのときの話題になってしまうんだ。あ、春香もだ。ごめん」「洋平別にいいわよ。それ私たち出会う前の話だし」
「すまないな。お前も来れたらよかったが」「啓太もういいよ。また4人で乾杯するんだろう。その間、俺ビール取ってくる」「あ、俺のも」「ジョージ自分で行けよ!」と口げんかに近い口調のまま酔っ払いのふたりは、追加のビールを取りに行った。
「懐かしいな。暑いときに集まると、いつも思い出すよ」と、システムも懐かしそうに遠くに視線を向ける。
「あのときあの場所の湿気。東南アジアの熱風と比べたら涼しいけど、雰囲気似ている気がするんだなあ」「洋平そうだよな。それからあそこ飲んだビールがおいしかった。昼間の瓶ビールだけどな」「よし、乾杯しよう。悪いが、春香ジョージの代わりに頼む」
「え、わ・私? そもそもこの飲み会参加したの今回2回目なんだけど」「いいよ。どうせあいつ酔ってるし、ジョージの代わりに春香が入ったっていいんだ」
「え、ええ」戸惑う春香だが、ほかの三人は立ち上がって早くも胸を張って、乾杯の準備。首を2・3回かしげながら春香も参加し「カンパーイ」とジョッキをぶつけ合った。ガラスがぶつかる高い音が鳴り響く。
「おい、見てたぞ。なんで俺をのけものに。あのツアーは、俺が見つけたのに」「わかったよ。じゃあもう一回な」と啓太の合図で、5年前に東南アジアに旅した4人衆はそのときのことを思い出しながら、ジョッキを再びぶつけ合うのだった。
こちらの作品を元に(リライト風)に書きました。
この作品は、元々ふゆほたるさんが「夏の風物詩」を教えてほしいと言われたところからスタートしました。
私は直感で「ビアガーデンで飲むビール」とコメントで答えます。
すると後日このような素敵な作品になって帰ってきました。私は不覚にもそれを忘れてしまい、大変申し訳なかったのです。そこでこの作品のリライトと言いますか、私なりの作品にしようという言うことで。今回の記事を書きました。リライトってどこまで模倣が許されるか、よくわからず難しいですね。
何気ない一言からスタートしたことあって、言葉の重みというものを改めて感じさせていただきました。
従いまして、こちらの企画への参加でもあります。
※こちらの企画、現在募集しています。
(エントリー不要!飛び入り大歓迎!! 10/10まで)
こちらは77日目です。
第1弾 販売開始しました!
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シリーズ 日々掌編短編小説 243
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