左利きが何だっていうの? 第568話・8.13
「左利きが何だっていうの?」敵との戦いのとき、相手が言った言葉に片目を自らの髪で隠したXは反応した。突然顔に壁をつけ眼光が鋭くも悲しそうにも見える表情。だがその瞬間、即座に相手に向かい猛スピード突っかかる。左手から見えた光るもの。一瞬敵と接触した。それは相手にに強力な打撃を与える。相手はその場で倒れ、一瞬にして命を失った。
「こいつ、もっとも嫌なことを......」Xは敵の屍を見ながら、吐き捨てるようにつぶやく。Xが最も気にしているのが、左利きと言うキーワード。それは子供のときに、必要以上にいじめられたことが、トラウマとなっている。
父が日本人で母親がカンボジア人というXは、父の顔を知らない。そして決して裕福とは言えない貧しい家庭で育った。
あるときXは、いじめられないよう強くなりたいと考える。やがて独自で鍛えはじめ、気がつけば同級生でXにかなう相手はいなくなった。
「すべてはあの日からスタートした」
そんなXをある国際的な裏組織からのスカウトが来る。それは現在の組織ではない。別の組織のからであった。Xは親を楽させようと金がもらえることを優先する。だから金と引き換えに組織に入った。そのあとは、組織の訓練所で、殺し屋になるべく厳しい訓練に耐え続ける。そしてほぼ一人前の殺し屋としての鍛え上げられつつあった日、事件が起こった。
教官が「おい、左利き!」と、Xを呼ぶ。それ以前にもそのように呼ばれたことがある。子供のときはともかく、今は殺し屋になるべく鍛えている最中。教官の言うことは絶対と言うこともあり、気にせず従っていた。だがこの日は違う。突然全身から何とも言えない怒りがみなぎった。「え?」X自身も抑えられない感情は一気に爆発。気がつけば、そこにあった道具で教官に一撃食らわせてしまう。
「う、痛て。き、貴様! 教官に逆らうと、どうなるかわかってるだろうな!」教官は怒りに燃えて、即座にXに殴りかかる。だがXは鍛えていたことが功を奏してそれをよける。一撃を与えたとはいえ、同じ裏組織の上官。これ以上は手が出せない。ただ攻撃に対してすべてよける。すでにXの戦闘力は教官のそれを上回っていた。その焦りもあってか教官は、いよいよ本気になり、さらに相手を挑発とするばかりに「なめんな、左利き!」と、再度暴言を吐いた。
するとXはついに自らの感情がコントロールできず、かかってきた教官に本気で挑んだ。すでに力の差が歴然としている。教官はXにあっさり敗れた。だが力のコントロールができなかったために、勢いで教官を殺害してしまったのだ。
「まさか」Xは逃げるしかなかった。理由は何であれ組織の上役を殺ってしまったのだ。これは組織への反逆行為と捉えられ、間違いなくXは処刑の対象となる。Xそのまま逃げるように組織を抜けだした。だが組織からの追手が常にXに迫ってくる。それでもXは強く、並みの追手では勝てるわけはない。しかし教官以降、追手たちはXに「左利き」などと言わなかった。だから殺害まではしていない。
それを見ているものがいた。それこそが今の組織の人間。ある日、Xがバーで、ひとり酒を飲んでいたときに、突然カウンターの横に座って話しかけてきた。「おい、若いの。今まで見てきたぜ、ずいぶん強そうじゃねえか」
Xは最初は無視していたが「おめえさんが戦っている相手、あれは単なるチンピラやそういうのではない。プロの組織だ。それを相手に単身戦うとは大したもんだぜ」と言ってくる。
「!」Xは、思わず声の方を振り向いた。そこに座っているのは、それなりに年を取った男。だが眼光が鋭く、言葉では表現できないような殺気のようなオーラが出ていた。
それ以上に脅威に感じたこと。追手と戦うのは町中で起きることが多いから、戦っている場面を見られていることは十分あり得る。
だがその相手が、裏社会の組織であることなど一般人にわかるわけはない。「こいつも追手か!」Xは即座に戦闘モードに入る。
だが相手は「フフフフ、何慌てている。心配するな。じゃあはっきり言おう、おめえさんがどういう理由であの組織と戦っているのか知らねえが、ひとりじゃいずれ殺られる。どうだい、俺と一緒に組まねえか?」
「どういうことだ」Xは相手の顔を見て、初めて声を出す。
「ようやく乗ってきたようだな。我々の組織は、おめえさんと戦っている組織と対立している」「ということは」声の人物は大きくうなづく。
「そういうことだ。もちろん待遇も考えてやろう。今の俺には、お前の強さが欲しい」
その人物は後で分かったが、組織のボスだった。
そしてXにとってこのボスが、現在唯一コントロール不能に陥ったときに、制御できる存在でもある。実はXが組織に加入してから1週間ほど後のこと、一度、ボスが安易にこういった。「ほう、お前は左利きか、珍しいな」ボスにとっては単なる物珍しさにすぎない。だがXはそのトラウマのキーワードを聞くと人が変わる。通常の1.5倍近い力を出して、相手を殺害するのだ。まるで何かにとりつかれたかのような勢い。そしてついにXはボスに対して同じように戦闘モードに入った。
「うん?」怪訝そうなボスに突撃するX。だがボスはその動きを見抜いたかと思うと、ヒラリとXをかわした。Xは無心になって再度仕掛けてくる。顔は怒りと悲しみが入り混じった複雑な表情。これをみたボスは、さっと手を伸ばすと、Xを止める。「な、なぜ!」
「ほう、これは面白い。なるほどトラウマのキーワードか。フフフ、確かに通常以上の力が出るようだな。だがコントロールできないようでは、まだまだ」ボスはそういうと、Xの手をひねるように曲げ、わき腹に強烈な一撃を与えた。「う、ぐふぉ」Xはその場で悶絶を打つ。
ボスは笑いながら「それは武器にもなるが、隙ができる。お前が殺し屋としてやっていきたいのなら、その感情をうまくコントロールするんだな」
以降、Xはこのボスを師と仰いだ。
ーーーーーー
「今、ターゲットを始末しました」Xはボスに一報を入れる。
「ご苦労。で、感情はコントロールできたか」ボスに完全に見透かされているかのような一言にXは次の言葉が出ない。
「わかった。まだまだのようだな。まあいいだろう。前にも言った通り、そのトラウマは武器にでもなるが、身を滅ぼすこともある。そのことだけは、わきまえるんだな。では次の指示は、また出す」ボスはそう言い終わると連絡を絶つ。
「私は、左利き。でもそれが何だって! だけどそれをコントロールか。うん、次こそ必ず」Xは壁に顔を持たれるように置きながら、左手に持っている光り輝く武器を改めて握り締めた。
こちらの企画に三度参加してみました。
こちらから「旅野そよかぜ」の電子書籍が選べます。
-------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 568/1000
#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#絵から小説
#左利きの日
#裏組織
#殺し屋
#眠れない夜に