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〒マーク 第746話・2.8

「やっぱりポストより、直接郵便局にもっていった方が安心感があるな」哲司はそうつぶやきながら封筒を郵便局にもっていく。速達でも簡易書留でもないけれど、角2とかいうA4サイズの用紙を折り曲げずに入るサイズの郵便物を送る必要があった。内容物が折り曲げられてもいいけんだけど、なんとなく安易に折り曲げられそうなのが気になったので郵便局にもっていく。そして切手も貼らずに窓口で無事に送料を清算した。

「さてと、これでひと仕事が終わった」哲司はそう思い郵便局を出る。ところが何気なく目の前に気になるものがあった。「〒のマークって考えたら不思議な形しているな」
 普段なら全く気にも留めないようなことなのに、このとき哲司はなぜかこのマークが気になって仕方がない。しばらくマークを眺めていたが、眺めたところで何かが変わるわけでもなく、しばらくすると郵便局を後にする。

 帰り道これはいつものことだが、行きとは違う道で家に帰るのが哲司のポリシー。今日も行きに通った、つばきが咲き誇る並木道ではなく、少し遠回りになったとしても、あえて別の道から帰る。「今日はどの道で帰ろうか。うん、左でいいか」哲司は完全にそのときの気分で決めるのだ。

 哲司が選んだ道は、普段あまり通らない道。それは左の道に行ってさらに左の道に行ったからであったが、それが見慣れないためだろうか、妙に新鮮だ。「ここはこういう風になっていたか。あまり通らないからなあ」と、しばらくあるいていると、目の前に気になるものが視線に入り込む。
「あ、〒マーク」そこにはポストが置いてあった。「そうだよ、今日はとにかくこのマークがさ」哲司は足を止めて、ポストに貼り付いている〒マークをしばらく眺める。

 眺めたからと言ってやはり何も起きることなく、しばらくすると飽きる哲司。「まあ、いいか」そう言って歩き出すが、ここで不思議なことに気づく。「あれ、道の雰囲気が違う」哲司はポストの〒マークを見る前と見た後で、その場所の風景が変わったような気がした。
「でも、普段通らない道だしいいか」そういうと、気にせずに前に進む。しかし見慣れない道。「あれ、ここって......」歩きながらも哲司は少し不安に襲われた。ここでいつもならスマホを片手に位置確認すれば済むはずだ。だが、郵便物をとどけるだけですぐに戻るつもりでいたからか、スマホを持ってきていない。だからいよいよ、ここが一体どこなのかわからないのだ。

「しまった。あら、おい、道がわからなくなったぜ」哲司はどんどん不安になった。「やっぱり引き返そうか」と思い、来た道を戻る。戻ってみると先ほどまで見たのと同じ風景が続いていた。それはそのはず、戻っているのだから。「そろそろポストのあたりかな」と哲司が思っていたが、今度は先ほどまでじっくり見ていたポストがない。「あれ、もう少し歩いたらあるのかな」と歩くが、ポストは見つからず。それどころかまたしても見慣れない風景に代わっているではないか!

「お、おい、どうなっているんだ。またわからない道だよおい」哲司はますます不安になる。不安になったとしても、ここはそれほど人口の多い町でないためか、あまり人とは合わない。気が付けば家もなく山道に入ろうとしていた。「おい、山道って、ええ、そんなのあったか?」哲司は怖くなりまた来た道を戻る。それで最初は来た道を戻るのだから同じ風景が戻るだけ。
 だけどやはりそうなのだ。この辺りでポストの地点を過ぎるとまた見慣れない風景。今度はなぜかわからないが、遠くに広大な湖のようなものが見えてきた。「お、おい。これ夢か」哲司は思いっきり手で顔を叩くが痛い。どうやら夢ではないのだ。

「ちょっとまてよ、夢じゃなかったらなんなのさ!」哲司は意図的に大声を出す。さらに先ほどよりも思いっきり今度は平手ではなく、指を手の中に折り曲げた状態、つまりじゃんけんのグーの状態で殴った。「い、痛い!」
 結構真剣に殴ったためか、目から何か光のようなものが出てくるほどの衝撃。殴ってから後悔する哲司は、顔を手で撫でる。「痛てて、まだ痛いよ」と、顔をなでながらふと前を見るとそこには、ポストが見えた。
「おお、さっきのポストかな」哲司はポストに近づくが、少し形が違うようにも見えている。でも哲司にとっては、不思議とこのポスト、いやそれ以上に〒マークにかすかな希望を持った。
「最悪場所がわからなくてもこれはポスト。必ずバイクで郵便局員が来るはずだ。そのときに郵便局の方向を教えてもらおう」

 哲司は、もう自ら動くのをあきらめた。仕方なくポスト、その〒マークをまた眺める。もちろん眺めて何も起きないし、時間がそんなに経過しない。だからやはり飽きるとやがて目をそらす。そのとき哲司は思わず目を見開いた。
「あ、あれここ郵便局!」よくわからないが哲司は、いつもの郵便局の前のポストにいたようだ。念のために郵便局に入る。先ほど封筒を出した郵便局と全く同じ。窓口にいる局員もだ。もちろん中にいる客の姿だけは別人だが......。

「帰れそうかな」哲司は大きく深呼吸して郵便局を出た。そこはいつもと同じ風景だ。「とりあえず帰ろう、スマホがないとやばいよ」こうして哲司が家に帰ったが、このときばかりは行きと同じ、つばきが咲き誇る並木道を利用したのは言うまでもない。




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シリーズ 日々掌編短編小説 746/1000

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