和菓子vs和スィーツ　第889話・7.1

「水無月か、月末に食べる和のスィーツか、いや。どちらかと言えば 和菓子か、でも今日はこれ買っていこうかな」出張で京都にいた西岡信二は、フィリピン人のパートナーでクラフトビールの店長をしているニコール・サントスのために京都の老舗和菓子店にいた。
　実はニコールが「和のスィーツ」を食べたいとかねてから言っていた。和と言えばやはり京都。奇しく信二がも京都へ出張することにことになったので、信二はお土産に和スィーツを買おうと考えていた。

　ただ水無月を買うことに至るまでにずいぶんと迷った。水無月もだが、京都にある伝統的なものは和菓子である。ニコールが求めていたのは和のスィーツ。果たして和菓子は和のスィーツと呼べるものか？

　行きの新幹線での移動中に信二の頭の中では混乱した。

　もちろん信二は移動時間を使って違いを調べると、なんとなくわかってくる。どうやら和菓子は伝統的な菓子なのに対して、和スィーツは和の食材を使用した菓子ではあるが、どちらかと言えば洋菓子に近いという。

　信二は情報の内容を読みながら何度もうなづいた。今回の出張の仕事が終わってから東京に戻るまで半日近くの猶予がある。それまでに定義としての洋菓子っぽい和スィーツにするべきか、いや、もしかしたらニコールが和菓子をそう思い込んでいるかもしれないという両方の視点から、和菓子と両方見比べて、直観で選ぶことにしたのだ。

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「さってと」仕事が終わった信二は、最初に和スィーツの方を探してみた。「あいつは何でも好きだからな、さてどうしたものか？」信二は、最初に評判の良さそうなカフェを見てみる。京都は観光都市だから人気のあるカフェには行列が出来ていた。
「待っていると時間がないな」信二はそういうカフェをあきらめて土産物店に向かう。すると抹茶味の洋菓子っぽいものをいくつも販売していた。「多分これが和スィーツか」だが信二はその場では買わない。
　とりあえずどんなものかだけ見ておき、後で和菓子とどっちにするか決めるのだ。

　次に和菓子店に行ってみた。「季節の和菓子にはなにがあるんだ」信二は和菓子店まで歩く。この日は6月最後の日。灼熱の太陽から照り付ける光をうけると、信二は額にも腕にも汗がにじみ出る。思わず日陰を探しながら、和菓子店を見た。そこで見つけたのが「水無月」である。

「水無月は京都発祥で、6月30日に1年の残り半分の無病息災を祈念して食べるか。今晩24時前には店に入れるな。だったらギリギリ間に合うかな」信二はさらに水無月の形を凝視する。
「ほう、三角形に切っているのも面白いな。氷室の節句の氷をイメージしているのか。これだけ暑いと氷っぽいの良いな」こうして信二は水無月を購入することに決めた。「スイーツかどうかは微妙だけど、まあいいか」信二は水無月を手に駅に急いだ。

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「明日から七月、いよいよ海開きですね。さてどこのビーチが良いかな」「また教えてくださいね。いつもありがとうございます」と、営業スマイルを見せるのはニコール。ここはニコールが店長をしているクラフトビールのの店。ここで店の常連さんを見送ると、入れ替わるように信二が入ってきた。

「ああ、おかえりなさい！」とニコール。すでにこの時刻はニコール以外のスタッフも帰っており、客も信二だけとなっていた。
「ああ、あ、まだ日付変わっていないな」信二は時計を眺める。時刻は23時40分。「日付？どうしたの、あ、ギネスよね」「ああ、パイントで頼むよ」
　ニコールがギネスビールを注いでいる間、信二はいつものカウンター席に腰かける。そのままかばんから、お土産の水無月を取り出した。

「今日中にこれを食べよう。京都の習慣らしいんだ」と、慌ただしく語る信二。対照的にニコールはいつものように冷静沈着なまま、ギネスビールの仕上げを行い、信二の前に出す。
「へえ、京都のお土産」「そう、これ水無月というもので、6月30日に食べるものらしい。確か和のスィーツが食べたいって言ってたよな。だから買ってきた」
　そう言って信二は水無月の箱を開ける。もちろんふたつ入っていてふたりで食べようと思っていた。
　ニコールは、ナチュラルなスマイルで、「シンジ、ありがとう」と礼をいう。それから水無月を手に取った。すると少し首をかしげながら。「これ、でも、スイーツというよりワガシよね」とニコールが一言。

　それを聞いた信二は思わず目を見開く。「日本に来て長いからな。やっぱり違いがわかっていたか......」信二は心の中で叫ぶ。
　だがすぐに余裕の表情を見せた。なぜならば、水無月を買った後、結局抹茶味の和スィーツも買って来ていたから。
「あ、ああ、それもちゃんとあるよ」といいながら、信二はカバンから和スィーツを取り出すのだった。

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シリーズ　日々掌編短編小説　889/1000

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