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年初めを前に石のようになりたい

 時刻は間もなく1月4日を迎えようとしていた。目の前のテレビには相変わらず正月の特別番組が流れていたが、それも間もなく終わろうとしている。だがテレビの前にいるひとりの男は、相変わらず究極にくつろいだスタイルつまり「だらけた状態」で視聴している。それは外見上の問題。内心は決してよい気持ではなかった。

「今年は4日が月曜日かぁ」心の中で男はため息をついていたのだ。男はこの正月は基本的に家でのんびり過ごしていた。餅を食べ、みかんを食べながら延々とテレビを見ている。番組表と睨めっこをしながら、気になる番組をチェックし、見たい番組が始まると、そのチャンネルを会わした。12月30日からその状態が続いており、今日で5日連続その状態。おそらく体重も増加したのだろう。それ以上に体が腑抜けのようになってしまい、あたかも骨が抜かれたようだ。

 5日間の正月休みも間もなく終わる。4日が男の会社の年初め。男は3日の朝からそのことで実は頭がいっぱい。仕事に行きたくないモードが時間を追うことに全開になっていた。男は主に地上波の民放番組を見ていたから、CMが始まるとスマホを片手にネットを徘徊する。
 深夜になりニュースが始まった。世間のニュースは似た者同士。いい加減飽きている。男はテレビから視線をスマホに移し、ひたすら片手に手をくねらせた。無意識にいろいろと触っている。特に意味はない。ただ明日からの不快な気持ちを少しでも和らげたいだけなのだ。
 とはいえ、時間も遅くなったため、男が突如とあくびを始める。「フフッファアアー」と大あくび。でもスマホの手を緩めない。今日は出来るだけ寝ないようにしたかった。朝を迎えたくないという気持ちが男を支配し、そのために気を間際らそうと、ひたすらスマホからの情報収集に余念がない。

 ところがある画面に遭遇したとき、男は指を動かすのをやめた。
「1月4日が石の日!」語呂合わせに過ぎない記念日を急に注目。そして石の日にまつわる。エピソードを眺めていく。

この日に、地蔵・狛犬・墓石など願いがかけられた石に触れると、願いが叶う

 と書いてある。「石、どこかに石がなかったかなあ」男は部屋を見渡す。このときも、だらけた体を起こしてまで探そうとは思わない。ソファーでくつろぎながら、何かないか探す。だが周りには石などない。やがて再度のあくびが男を襲う。「ファーアアアアア」

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 気が付いたら男は外に出ている。暗闇で目の前がはっきり見えない。「どこだろう」不思議な光景に戸惑いながらも一歩ずつ歩いていく。暗闇ではあるが、数メートル先の視界は見える。わかっていることはどこかの外を歩いているようだ。視線を下に置けば、土がむき出しになった道が見える。しかしあとは暗闇。「いったいこれはどうなっているの?」男は不安を抱えながら前を歩く。やがて目の前に光るものが見える。

「なんだろう」男が光るほうに向かうと声を出す。「石だ」光る石が地面に転がっていた。男は石を拾う。それは手のひらサイズで紫の光を放っていた。
「そうだ、さっき調べたぞ、今日は石の日で、石に触れると願い事がかなうようなことを書いていた。ようし」男は石を拾うと「石のようになりたい。仕事に行かなくても済みますように」と願った。

 しばらくしてさらに先に歩く。ところが突然、足が重くなる。やがて手も動かせなくなってきた。「あれ」体が重くて硬直している気がする。気がつけば足も手も動かない。首も動かないしやがて口も目も動かなくなっている。何か強力な力で、体全体が押さえつけられているようだ。
「まさか、石になったのか?」男は徐々に全身が固くなっているのがわかる。徐々に呼吸も苦しくなってきた。「ちょ、ちょっと待って」男は声にならない声を出すが、状況が改善しない。「た、助けてくれー」力いっぱいの声を出した。

ーーーーー

「あれ」体に電気のような痺れを感じた後、場所が自分の部屋。ソファーで寝ていることに気づく。「あ、夢か。嫌な夢を見たぞ。全く。で、今何時?」
 だが、どうやらさっきのは夢ではないのかもしれない。ちょうど朝日が差し込む時間のようだが、本来なら日付が1月4日をさしているはず。だが1月3日である。さらに男は目の前のテレビ放送を見て目を見開いた。
「あれ、これ見た番組。え? 過去にさかのぼったの」男は頭が混乱している。理由はわからないがなぜか1日前に戻っていた。テレビからのニュースは1月3日のもの。手元のスマホを確認したが3日となっている。

「なに、え。過去。あれ?どういうこと」男は徐々に不安になる。一体何が起こったのだろう。確かに昨日は1月3日だった。それが一寝入りしたのに同じ日付の朝。それにテレビ番組は同じものをもう一度見ているから、次の展開が読めてしまい、またそのようになってしまうのだ。

「... ... 本当に今が1月3日だったら、もう一日休み。それはそれでいいけど... ....」
 男が視線を下に置くと、目の前に光るものを見つけた。これはさきほどの夢? で見た紫の石である。「な、何?何でこの石。え? これって」男は石を拾った。そのときこの状況が不安で仕方がないので、思わず「元に戻ってほしい」と願った。その瞬間、記憶が飛ぶ。

ーーーー

「あ!」男は再び目覚めた。時計を見ると1月4日の朝6時を指していた。 そしてすでにテレビはちょうど放送が始まったところで、朝の番組を放送している。番組では1月4日と言っていた。スマホを見ると1月4日。「戻っている! というか今日から仕事だ」男は慌てて身支度を整える。

 準備を終えた男は、いつもより少し早く目覚めたため、出発まで30分ほどの余裕があった。「ふう、こうなったら仕方がない。今年も会社に行こう」
 時間があるのでスマホを見る。するとメッセージが来た。
「見知らぬメッセージだ。無視しよう」と当初思った。だがこのときは、なぜか気になって仕方がない。男は思わずメッセージのリンク先をクリックした。 その瞬間全身から電気が走る。それは夢で見た紫に光る石と同じものが映し出されていた。その下にはこう書いてある。

「願いが叶う。アメジスト! 新春特売中」



ロングラン企画「皆さんの画像をお借りします」で、 阿北ボタンさんの画像をお借りし、「だらける人」から連想して書いてみました。

阿北ボタンさん1


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シリーズ 日々掌編短編小説 349

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