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日本三景制覇をめざして 第545話・7.21

「政宗君、宮島に来てどう」恋人の松島美咲がつぶやいた。ここは広島にある、宮島と宮島口を結ぶ連絡船。昨日宮島に到着して、島内のホテルで宿泊後、朝から厳島神社に参拝する。そして今、宮島を後にしたところだ。
「美咲ちゃん。宮島ホント良かったな。それにしてもだ。良く海の水が入るところに建物なんか建てて、感心するわ」「うまく干潮を考えて作ったのは素敵ね。昨日の干潮のときに、ちゃんと鳥居まで歩いて行けたしね」
「それよりさ、これ作ったの平清盛だったよな。平さんと言うのは世の中にいだろうけど、さすがに子供の名前に『清盛』ってつけないだろう」政宗はそう呟きながら、船のデッキから名残惜しそうな視線を宮島に向ける。ちょうど大きな鳥居が、海水の中に立っている時間。その横を船が通り過ぎていく。

「まあね。伊達さんだもんね。政宗君は」そう言って美咲は笑顔になるが、それは政宗が一番嫌がる言葉。親が仙台の戦国大名の大ファンだったことで、息子に禁断の『政宗』と名付けてしまった。だから同姓同名となってしまう。
 埼玉で生まれ育ち、全く無関係なのに、どうしてもその独眼竜の戦国大名と比較されてしまう。
「良いオヤジなんだけど、ほんとこれだけがねぇ」政宗はため息をつく。「私だって、仙台とか関係ないのに、名字の松島だけで、日本三景を連想されるんだし。ま、だから松島に行きたかったんだけどね」

「まだいいよ、美咲ちゃんは。同姓同名じゃないしな。でも去年の松島かぁ、懐かしいねえ。赤い福浦橋とか。あと遊覧船で、いろんな島を見て」
 気がつけば船は宮島口港に到着した。「ねえ政宗君。このまま埼玉に帰るの」「うーん。あ、もしさ、もう一泊するなら、行きたいところあるんだけどさ」政宗は旅をもう少し続けたいのか、美咲におねだりするような目で訴える。
「い、いいわよ。別に明日も予定開いているわ」幸いに、美咲もその気であった。「よし、松島、宮島ときたら」「あ、天橋立!」「そう、どうせなら日本三景制覇するぞ」

 こうして政宗と美咲は予定を変更し、この旅をもう一日伸ばすことにした。目標は京都の日本海側にある天橋立。美咲は時計を見る。時刻は午前11時10分。「行けるかなあ。今日中に天橋立」「新幹線を使えば何とかなるさ」
 ふたりは宮島口駅11:20発の電車に乗って広島駅に向かう。車窓からは並行して走る広島電鉄の線路が見える。政宗はスマホで時刻をチェックした。こうして11:48に広島駅に到着する。「トイレは車内でな」と政宗が慌てて新幹線口に向かう。次の列車はのぞみ号が来るらしい。「これに乗って次は姫路で降りるからな」「え、のぞみなのに、そんなところ止まるの?」「ほら見ろよ」政宗に指示されるように美咲は案内板を見る。確かに姫路に停車するとあった。そうこうしているうちに列車が入る。11:57発ののぞみ号に、ふたりは乗り込んだ。

 新幹線は東に向かって高速で駆け抜けていく。車窓の風景があまりにも早いので、政宗は首が疲れてしまう。「あ、お弁当売りに来た」美咲は車内販売を見つけると、さっそく弁当をふたつ購入した。こうして新幹線内でお昼を食べるふたり。気がつけば岡山駅に停車し、すぐに出発した。
 こうして12:53に姫路駅に到着。目の前に見えるのは白鷺城との異名を持つ姫路城だ。「次は在来線の特急だな。時間あるぞ、撮るなら撮ったら」「うん」美咲はスマホを構えると、駅のホームから姫路城を撮る。「えっと次の行先。これは香りに住宅の字で」「え、あ、政宗君、それ『かすみ(香住)』って呼ぶらしいわ」
 美咲がスマホで、読み方をチェック。こうして、特急のはまかぜ号にのりこむふたり。13時25分に姫路駅を出発した。
「特急なのにずいぶんゆっくり走るわね」「美咲ちゃん。そりゃ新幹線と比較するからだよ。このまま日本海に抜けるみたいだ」
 政宗の指摘するように、在来線の特急は播但線を北上。中国山地を縦断し、香住の手前にある豊岡駅には、14:57に到着した。ここからはJRではなく京都丹後鉄道宮豊線である。15:04発の西舞鶴行に乗る。
「予定では16:19に天橋立駅につく。今日中に間に合ったな」政宗は嬉しそうに車窓を眺めた。政宗は日本海の風景を期待している。だが最初の久美浜湾が見えた後は、ずっと陸地の山しか見えない。
「仕方ないわよ。地図見たら丹後半島を横断するみたいよ」と美咲が冷静にスマホを見る。さらに別のページに移動し、あるものをチェックしていた。

 ようやく海が見えてくる。「もうすぐ到着よ!」美咲の声のいうとおり、次の駅が天橋立駅であった。「まあいいか、海はこの後ゆっくり見れる」
 こうして天橋立駅に列車が入ると、ふたりは降りる。宮島を11時過ぎに出て5時間の移動。無事に日本三景のふたつの間を移動した。

「さて、見に行こう。橋立を」と政宗は、橋立の方に歩いていく。しかしイメージしている橋立と違った。最初に真ん中が回転できる小さな橋がある。それを渡って松林を抜けると、もうひとつ少し長めの橋が架かっていた。「この橋の先が橋立らしいけど、単なるビーチにしか見えないよ」政宗は少しがっかりした。対して冷静な美咲。「展望台からでないと、写真で出てくるような橋立は見えないみたいね。もう今日はもう宿にチェックインして、明日展望台から見ましょう」
「あ、ああ! 宿の予約してないよ」ここにきて政宗は焦る。この日の午前中に急遽決まった、天橋立へのトリップだ。宿の予約をしているはずもない。

「ウフフフフ」ここで不敵な笑いを浮かべる美咲。「大丈夫。さっき移動中に、ネットの予約サイトで天橋立の宿予約したから」「ええ!」驚きのあまり目を見開く政宗。それを見てさらに笑う美咲。「アハハハハ! 政宗君、何その顔。ここよ。歩いて行けるわ」
 こうして美咲は宿の方向を目指して歩く。政宗は気まずそうに手を頭の後ろに置いて、その後についていくのだった。



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シリーズ 日々掌編短編小説 545/1000

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