【読書感想文Vol.52】魔法、存在した。 『午前零時のサンドリヨン』
mediumシリーズ外の作品も面白い。
霊媒探偵城塚翡翠シリーズでお世話になっている相沢沙呼氏のデビュー作『午前零時のサンドリヨン』を読み終えました。
蒼い火も紫の雷も使わないけど、確かに魔法って存在するのかもなぁ——。と最後には思える作品でした。
詳しくは勉強不足で存じかねるのですが、マジック? 奇術? を作者はかなり深いところまで嗜まれている様子です。
場面場面に登場するマジックシーンの描写力・解像度がiPhoneProMAXぐらい高く
少なくとも頭の中で思い描いた映像には魔法としか形容できない出来事が主人公の目からテーブルを隔て起こり続けます。
凄く良いシーン、充実してるシーンでこの場所にいたいなぁと思ったことはありますが、このマジックを生で見たいから小説の中に入りたいと思ったのは読書人生で初だなと。
短編ごとの佳境に入れば、恒例というか宿命というか、探偵役である酉乃が見事解決していくシーンがあるわけですね。
そこで登場するのがマジックというのが新しい特徴です。日常の謎ということもあってかそこにあるのは罪というよりは想いで、それを見事なまでに解き放つシーンは脳汁まみれ。
さらに凄いのが、いつもの通り解決かと思われた矢先。失意のどん底に突き落とす出来事がマジック(推理)中に起こるんです。
いや、探偵役がしゃべり出したら万事解決でええやん……と絶望しますが、どうか最後まで読み進めていただきたいです。
理由はネタバレになるのでどこで絶望するのか、なぜそんなことになるのか等々何も言えません。
しかし、あのミステリ賞五冠という前代未聞の栄光を手にした『medium』を彷彿とさせる大団円に向け進み出した、いや最初から進み続けていたと気づける瞬間がやってきます。
ですので、絶対に読み進めてほしい——とだけ書いておきます。勿論、まだメディウムを未履修の方でも全く問題ありません(というかこれがデビュー作ですし)
見逃してた伏線が多く、これから履修される方がどうか注意深くお読み下さい。
相沢氏はかなり腕の良いマジシャンなので、それも種を暴くのは困難を極めるかと存じますが——
……なんて臭い台詞を吐く以前に、これを書かないとミステリ賞取れないのかと半ば絶望するレベルでしたね。ていうか奇術以外の知識も凄かったですし。
主人公がびっくりするぐらいにぶちん且つへっぽこ且つ一人語りマンでうざかったり
結構ヒロインの気分がご都合主義というか、すぐ前までそっぽ向いてたのに急に話せるようになって話が進んだ——
と思ったら逆にすぐ塩対応に戻って中々登場しない。探偵が登場したら終わるからそうしてるだけなのかなぁとか途中さめてしまったり
など少し強引だなっていうのはあったものの、シンプルに二人の恋の行方も気になりましたし、最後はめちゃくちゃ綺麗でした。
殺人ではなく日常系と様変わりしますが、メディウムがお口に合った方なら十分楽しめる作品ですので良ければ読んでみて下さい。
おすすめ度:★★★☆
★★★★★MAX、☆☆=★
次は、くわがきあゆ氏の『焼けた釘』を読みます〜