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あんこぱんおばさんの話

これは私がスーパーで働いてた時の話だ。

お盆の大事な時期に風邪を引いてしまい、競合調査へ行くことができなかった。

スーパーマーケットというのはお盆や年末年始が売れ時で、各スーパーはとびきりの売場でお客様を待ってるので、競合店の売場を見に行くのはとても勉強になるのだ。

そんな大事な時に熱が出てしまった私は、同僚に代わりに見に行ってもらうことにした。

すると帰ってきた同僚からは、売場よりも何よりも「ベーカリーコーナーに変なおばさんがいた。
と言われた。

そのおばさんはベーカリーコーナーの店員で、耳には店内放送用のインカムをつけて、試食を持ったまま突っ立っていたそうだ。

店内では水産コーナーの「エビがオススメ!エビがオススメ!」という放送が大音量で流れていて、その声におばさんは存在すらかき消されていた。
スーパーというのはいまだに体育会系の風潮があり、とにかく声を出すことが正義だ。

当時、1番の競合店としていた店は、昼のピーク時に各コーナーで試食を持って店内放送することに力を入れていたので、きっとおばさんも店の政策の渦に巻き込まれたのだろう。

私はついでに、あざらしのキャラクターパンを買ってきてとお願いしていたので、同僚は定番棚を探しはじめると、そこでボソボソと喋り声が聞こえるというのだ。

よく見ると棚にはスピーカーが設置されていて、ボソボソと死にそうな声で「…あんこ…あんこ…」と、流れている。
まさかと思い、先程の試食おばさんに目をやると口元がもにょもにょと動いていたというではないか!おばさんは政策の渦に巻き込まれながらも、しっかりと仕事をしていたのだ。

※おばさんはイメージです。

耳を澄ませるとおばさんはあんぱんの説明をしていて
「…こちらはあんこのパンですね….………あんこが入っていますね…。」
と呟いていたそうだ。

あんこのパン……w


アンパンマンの中身があんこなのは幼稚園児だって知っている。

あんこがあるからあんパンというのであって、あんこが無ければあんパンではないのだ。
あんパンの中にあんこが入っているというのはもはや説明のいらない不変の事実なのである。

話を聞いた私の頭に小宇宙が広がっていった。

そう、それは当たり前。
当たり前体操なのだ。
私は昔流行ったCOW COWの「あたりまえ体操」をおばさんの状況に合わせて歌った。

「あんぱんの中は~あんぱんの中は~」

「あんこだ!」

「あんぱんだもん。そりゃああんこがはいってるだろーーよ!!!」
と、同僚もじわじわ笑いが込み上げてきたそうで、目にはうっすら涙が滲んでいた。
私も一緒になって笑った。

そのじわじわくる放送を微動だにせず、他の従業員が懸命にパンを並べる姿は非常にシュールだったそうだ。

しかし、あんこぱんおばさんはあんこぱんの説明だけでは終わらず、今度はメロンパンの説明をはじめた。

「こちらはメロンパンですね…メロンは…

入って………?


いないですね。

もう、ついついあんこパンの流れできちゃったもんだから
同僚は「はいっていないんかーーーーーーーーい!!!!」
と心の中で盛大に突っ込んだらしい。
しかも、少し悩んだあげく入っていないのだ。

私はこれを聞いてもう我慢できなくなり、腰から崩れ落ち、笑いすぎて呼吸ができなくなった。

ちなみに3番手におばさんが紹介したきんぴらが入ったパンは

「野菜のパン」

と、紹介され、おばさんのセンスの無さが丸出しであった。

それでも昔、一緒に働いたパートさんは「おい〜、さっきみんなで清原の話しとったから「きんぴらパン」を「チンピラパン」って放送しちゃったやぁ。」などと、とんでもないことを言い出していたので、おばさんはずっと真面目である。
おばさんが持っていた試食はちっとも減らなかったらしいが、これからも是非頑張ってもらいたい。

私はこんな面白いおばさんがいるならぜひ買いに行きたいと、翌日ウキウキでお店に出向いたのだが、あんこパンおばさんはいなかったのである…。

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ゆっきー
執筆のおやつにヤングドーナツをたべます🍩🍩🍩