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芥川賞をぜんぶ 中上健次「岬・十九歳の地図」
芥川賞をぜんぶ読む Vol.2
和歌山県は関西地域の中で、もっとも立ち位置が微妙だ。東日本のひとには思いもよらないだろうけれど。
古都の奈良や京都、商業の街・大阪や神戸港と六甲山脈をもつ兵庫、琵琶湖を内包する滋賀、に比べ(個人の主観だが)知名度低めな気がする。南高梅の梅干し、世界遺産・高野山、捕鯨漁など、秀でた産業があるにも関わらず、マイナー感は否めないのだ。
そんな土くさい和歌山を描いた、中山健次。
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以下ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
十九歳の地図では、上京し新聞配達しながら予備校に通う19歳青年の、ほとばしるエナジーが陰湿な方向へマグマのように流れ出し、抗うことができない。
岬では、地縁や血縁の濃さゆえに閉塞感がよどんだ空気となり性欲や暴力や嫉妬が渦巻く。自死や身内の殺傷事件が相次ぎ、亡父(実母の前の夫)法事に親戚が集う最中、主人公は異母妹を凌辱することを熱望する。なんともエグい、体臭の濃すぎる小説でありながら、結末までぐいぐい引きずりこまれた。
吹きこぼれるように、ものを書きたい。いや、在りたい。ランボーの言う混乱の振幅を広げ、せめて私は、他者の仲からすっくと岐立する自分をさがす。だが、死んだもの、生きているものに、その声は届くだろうか? 読んで下さるかたに、声は届くだろうか?
二十歳そこそこで、こんな力強い小説を書いたなんて、すごいの言葉しかない。彼の小説は翻訳され海外で人気があったという。 なるほど、不条理でアンハッピーな結末はヨーロッパ映画のようだ。46歳で亡くなるなんて惜し過ぎる。
芥川賞ぜんぶをやりはじめて出会えてよかった。
※冒頭写真は和歌山県の白浜 千畳敷海岸
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