カード師
だって、明日なにが起きるかわからないんだから。
根底ににあるのは乾いた悲観主義の空気感。常に社会を傍観している主人公には名前がない。ひとり語りで物語は進む。
登場人物の名前も、鈴木、山本、佐藤、I、チェックの男と、クラスに一人はいた日本人に多い名前、偽名というより記号的だ。そう、真実は隠され仮想というか偽装の物語なのだ。
第一章で、主人公の周辺人物と、ワナと、伏線が張り巡らされ
第二章で、手玉に取ってるのか、はたまた、踊らされてるのか。
ヤバい裏稼業が危険信号に変わり
第三章で、中世の錬金術や魔女狩り、ギリシャ神話や主人公の
生い立ちなど時空を超え
第四章で、地下組織の賭博場へ。
プロとイカサマ師と資産家と成金中毒者と。全財産を賭けて生死の分かれ目、おりたくとも下りられない勝負が始まる。ポーカーのカードが配られるごとに心臓の鼓動が高鳴り、嫌な汗が背筋に流れた。読書でこんなふうに頭がくらくらするなんて初めてだ。
カードをめくる。裏に何が書かれているかどきどき、悪い予感しかなく
ともめくらずにいられない。あの高揚感、やめられないのだ。
主人公がひく棒の5:
”結果の出ない不毛な争いが続き、心も体も疲労困憊してしまう”表
”悩み事がさらに複雑な状況になり、解決の糸口をつかめない”裏
そうして、私もずんずん本の世界に引き込まれ、一日中読みふけって一気読みだった。
冒頭のブエルのセリフ、彼はこうも言う。
世界全体が病んだ時、出現するのはまた別の者達だ。
いま、現実社会でおきていることがまさにそうなのかもしれない。
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