ダンサー・イン・ザ・ダークからのメッセージをどう読むか
うそでしょ!まさかやー?! と衝撃的な事が6月に起こった。あとで記す。
日本上映権が切れるから、最後の上映となる「ダンサー・イン・ダーク」。
なんでこの作品を見逃してたの、とクレジットを見ると2000年公開。そりゃ無理やわ、私は末子の妊娠出産で、母親業大忙しだったのだから。
主人公セルマ(ビョーク)は東ヨーロッパからの移民で、アメリカ郊外の工場で働いているシングルマザー。度数のきつい眼鏡をかけ、一見ぼぅーっと夢見ているようだが、仕事帰りに舞台の練習に通うなど、大のミュージカル好き。今も発表会に向け稽古に一生懸命だ。
まず、工場でのダンスシーンに釘づけ、
ミュージカルって、明るくて楽しくてHAPPYなやつ、との思い込みを底辺から覆された。今年公開のアネットもミュージカルらしくないロックオペラだったが、さて、それは置いといて。衣装は薄汚れた作業服だし、セットは工場の旋回盤やプレス機だし、音楽はガチャーン、ゴンゴンだし、歌声やコーラスも聞きほれるほどでもないし、(インド映画みたいに)キレキレの群舞ダンサーもいないし。ぜんぜん美しくないのに、目が離せず魂もっていかれちゃったよ。
セルマ、あなたって妖精でしょ?
人物相関図としては、セルマと小学生の息子ジーン。
いつも寄り添ってフォローしてくれる同僚キャシーにカトリーヌ・ドヌーブ、優しい隣人ビル夫婦は実は崩壊寸前の爆弾抱えており、工場の男ジェフはセルマに片思い。
失明の危機と息子への遺伝の不安に押しつぶされそうになりながら、働きづめで、何でもないようにふるまって、かよわそうなのに逞しく、しかもそのタフさはすべて愛する息子のため。不幸の上に次々と不幸が重なり、裁判所、刑務所、暗いミュージカルシーンが心をゆらす。
セルマ、なんでそんな風に生きることができるの?
ラストの描写については賛否両論だ。
A. まったく救われない、暗黒すぎる の説
B. 潔い、主人公の決断にあっぱれリスペクト の説
私自身が物語のなかにいたとしても、AB どちらの結末を選ぶか決められないと思う。心を通わせた女性看守の最後の訴えが少しだけ希望をみせるが、セルマの最期は”映画史上見たくない結末の作品”に選ばれるほどだ。
●移民×シングルマザー×不治の病
自分ごととして、このメッセージをきちんと受け止められるかどうか、監督が描きたかった主題といえるだろう。
そして、私がもっとも心に残ったシーンは、セルマに思慕を抱いていたジェフが最後の面会のときにこう訊ねるところだ。
”なぜ、病気が遺伝すると知りながら、子供を産んだんだ?”
セルマは答える。
”だって、赤ちゃんを抱っこして見たかったんだもの”
そう、その一言が、かなしかったのだ。映画を見たのは今月初めだったが、個人的な出来事と重なり、noteに書きとめることができなかった。
冒頭の衝撃的な事とは、私たちの元スタッフKがシングルマザーという道を選んだこと。どうして? 日本で産んでも日本国籍はもらえないのよ。出産後三か月以内に入管など手続きしなきゃならないし、生活だって教育だって、ひとりで解決しないといけない事わかってる?! 大変だよ。
彼女は言った。
だって、私はもう36歳。いままで長い間彼氏はなかったし、これから先も無いかもしれない。それなら、いまこの赤ちゃんが最後のチャンス。どうしても産みたいの。
おんなは弱い、しかし母は強くなるしかないのだ。
私はセルマに寄添うキャシーのように、8月に出産するKを支えていく決意をした。
ダンサー・イン・ザ・ダークが教えてくれた、母性と深い考察と。
もし、観る機会があればぜひ映画館へ足を運んでほしい。
ダンサー・イン・ザ・ダーク デンマーク 2000年
★★★★☆ 4/5
監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ビョーク、カトリーヌ・ドヌーブ
#ダンサーインザダーク #ビョーク
#ミュージカル映画
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