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10月の読書。異常 /セレモニー /すみれ荘ファミリア

異 常 アノマリー

発刊以来、話題をさらっている「異常」という翻訳ミステリー。

”ネタバレ禁止、あらすじ検索は絶対しないでください“

ものものしい反響だったり、読み終わった読者だけのミーティングが催されたり、2022年ベストの一冊と著名人が推薦したり、装丁の帯が斬新だったり。これはもう買って読むしかない!と、ふだんは図書館&古本屋専門の自分だが、新刊を買って読んだ。装丁も凝っており注目度抜群だ。

民族や国籍や居住地がバラバラの個体が交差する群像もの、かつキャラクター各自の描き分けが、全員一筋縄ではいかないヤバめの設定。某国のトップは名前は伏せられてるがTに違いないとか、国防省やFBIや科学者やセラピストが事件の解決に右往左往するさまもリアルであり、エンタメ要素もたっぷり詰まっていて、幾重にも予想を根底から裏切ってくれる。

なるほど、評判通りめっちゃくそ面白かった。

そして読み終わったあと、2014年アジアの未承認海域で姿を消したマレーシア航空機失踪事件の謎もひょっとして…と憐憫の情でモヤってしまった。

異常【アノマリー】
エルヴェ・ル・テリエ 訳:加藤かおり 

セレモニー

 王 力雄

こちらは某主席が率いる一党体制の大国。本国では未刊行の問題作だ。

テクノロジーの進化とともに、トップと数名の配下だけで14億の国民を掌握できる現代社会。万国博覧会と建党祝賀会という二大セレモニー開催の某年。I oSシステムが国民行動のビッグデータを招集するべく準備され、ウィルス感染の防疫システムが実行に移されるはずだった。がしかし、計画は批判にさらされ事態は思わぬ方向へ進みだす。

”中国共産党建党祝賀式典のこの場において、私はここに、偉大なる中国共産党がその歴史的使命を完了したこと、同党は独裁を放棄し、権力を人民に変換することを宣言いたします。”

民 主

本書は恐ろしい。例えば、登場人物四人以外は名前がない。

  • 情報管理センターのシステムエンジニアの李博リーポウ

  • その妻であり疾病予防センターに勤務する医師の伊好イーハオ

  • 立身出世し北京市民権を入手したい警察官の劉剛リュウガン

  • ドローン会社を営むかたわら、私的スパイでもある趙帰チョウキ

その他の人物は「鞋老板」靴会社社長、「太子」主席の息子、「三号」中央政治局員であり政界No.3、というように肩書きや作中世界のあだ名で描かれ、その誰もが小人物で「正義」「愛国心」ではなく、ただ権力のために、私利私欲のために闇を突き進む。中国人の野望とずる賢さが際立つ。
まさに党大会で現主席と神セブンが発表された2022年10月、長期政権のレールがひかれた今日を予見する物語に、これは実在のモデルがいるのではないのかと、うすら寒くなる小説だった。

すみれ荘ファミリア

凪良ゆう

ひとには表と裏がある。普段は親切でひとに優しく気配りが効くひとが、飲酒すると大声で叫びエロい悪癖をだす、そんな本音建前が当たり前の日本社会。
物語はすみれ荘という下宿を舞台に、居住者それぞれの秘めた一面をあぶりだす。

愛とは、兄弟とは、親子とは?
離れて育った兄と弟は、血縁者ではあるが兄弟といえるのかどうか。

父親からの愛情、母親からの愛情、兄や姉への羨望、弟や妹への嫉妬、両親からの愛情をまったく平等に注がれることなんてできはしない。読者の私も子であり親である自らを、振り返って深く考えさせられた。

読了し、なんだか節目のような最終行が心に刺さった。
ありがとう、ときどきふり返ってみるからね。

気づかず通り過ぎ、気づいて振り返り、慌てて戻る。
間に合わないことのほうが多いが、間に合うこともいくつかはある。
そうして今日という日が流れ、過ぎ去り、また明日が来る。

エピローグ・ファミリアⅡ




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