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地獄とシベリア超特急

全体の9割は、僕の本で埋まっている我が家の本棚。
その残り1割に、妻の愛書である京極夏彦氏の作品が並んでいるのだか、僕は本棚を見るたび、『京極夏彦』という名前に憧れを抱いてしまう。
それは「漢字の配置が魅力的」、「声に出して読んだときの響きがいい」、「陰陽師みたいで、なんだか強そう」といった、ひどく中二病的な理由。

先日、本屋でたまたま目にとまった本。

《地獄の楽しみ方 京極夏彦》

もうタイトルと著者の組み合わせからして、買う以外の選択肢がなかった。

本作は、講談社で行われた10代限定特別講座において、10代の若者にむけて京極夏彦氏が講演したときの内容をまとめたもの。

京極氏は言う。


「この世の中は地獄です。いいことなんてありません」と。

10代の若者にむけて、ド直球のペシミスティックな発言に度肝を抜かれた僕。

けれど、そのあとに京極氏はこうも言う。

「でも、面白がろうと思えば面白いんです。面白がる力をつけましょう」と。

では、面白がるためになにが必要かというと、言葉をうまく使うことだと京極氏は説く。

どんな言葉も人によって解釈が違うわけで、逆に言葉をうまく使うことで解釈を変えることができ、たいていのことは面白がることができる。
ただし、愛とか神とか絆とか、シンプルかつ強力で使い勝手のいい言葉を前に、思考停止してしまってはいけない。
語彙の数だけ世界がつくれる。
辞書や本のなかには何十万語と言葉があるのだから、それらを駆使して多彩で多様な解釈をつくり、人生を豊かにしよう。

そういった京極氏の論に、自分自身についてとても考えさせられた。
そういえば、自分はマイナス感情を表現する語彙は豊富だけれども、面白がるための語彙は乏しいことに気がつく。
もっともっと本を読み、語彙を増やして、この世の地獄を面白がる力をつけていきたいと思う。

余談だが、京極氏は水野晴郎さんの映画『シベリア超特急』を面白いと感じられなかった自分を恥じ、何度も何度も視聴して、ついに「面白い!」と感じたときに、シベリア超特急的なものを面白がる力を手に入れたと歓喜したそうな。


シベリア超特急。
ものすごくひさしぶりに聞いた、懐かしい名前。
その名前に、おもわず爆笑してしまった。
これを機会に、一度視聴してみようかな。
面白がる力を手に入れるために。

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