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素敵な短編小説

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#オリジナル小説

秋といえばコオロギじゃない?

秋といえばコオロギじゃない?

コオロギたちは秋の創造主を自負していた。

熱風を涼風に変え、緑葉を落ち葉に変え、昼を短く夜を長くするのは、創造主たる使命として甘受していた。

こんな伝承が語り繋がれていた。

宇宙が擦り合い、音が生まれた。
音は空と土を造り上げた。
空と土は混じり合い太陽と月が産まれた。
コオロギの始まりはこの二つの卵である。
全てのコオロギはこの子孫である。

年々コオロギたちの数は減っていたが、ここに一匹

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カメとウサギ サングラス版

カメとウサギ サングラス版

ある日のことです。



ウサギさんはカメさんが野原をのろのろ歩くのを見てバカにしました。



「なんだってそんなゆっくり歩くんだ。

 お前がひとつ、ふたつと歩くたびにアクビがでちゃうよ。」



ウサギさんはわざと大きなアクビをしてカメさんを笑います。



それを聞いた負けず嫌いのカメさんは怒って



「なにを~!じゃあかけっこで勝負してみようじゃないか。

 僕の方が勝つかも

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カメとウサギ イタリア版



ある日のことです。



ウサギさんはカメさんが野原をのろのろ歩くのを見てバカにしました。



「なんだってそんなゆっくり歩くんだ。

 お前がひとつ、ふたつと歩くたびにアクビがでちゃうよ。」



ウサギさんはわざと大きなアクビをしてカメさんを笑います。



それを聞いた負けず嫌いのカメさんは怒って



「なにを~!じゃあかけっこで勝負してみようじゃないか。

 僕の方が勝つ

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花屋

『花屋』と呼ばれるバーテンに1人の男が客で来ていた。

その男は色落ちしたスーツを着て、見るからに冴えないサラリーマンだった。

動画が止まったように無表情のその男は、頬杖をつき、ひたすら強い度数のカクテルを飲んでいたが、

やがて大きなため息をつきバーテンダーに話しかけた。

「なぁ、兄さん。俺はもう何年も笑ってないんだよ。

それどころか泣きもしないんだ。感情なんて無駄なものが、どうやら消えち

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千羽鶴

喫茶店の中では静かなジャズが流れている。

朝から他の客はおらず、僕は貸切状態で長いことテーブルを占領していた。

雨が叩きつける窓の外では今日もデモ隊が騒いでいる。

学生達を中心に、次いで多いのは老人達だ。

時間を持てる人しか行動を起こせないんだろう。本来ここにいなければいけないはずの企業戦士は蚊帳の外だ。

僕はというと、遠い国の貧困に苦しむ子ども達のために、ここに座りひたすらに鶴を折って

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