030 Man made the gun
前回に引き続いて、simply redの名曲を。
あの高く澄んだ透明な声を聴いていると、どこか地上ではない世界にいるような気がするから不思議です。取り立てて深い文学的なlyricsが綴られているわけではないのですが。
ボクは音楽の場合、まず声に魅かれるようです。
インスタで繋がって来店してくれた中に、気になる人がいます。趣味で占いをやっているというので、全くそういうものを信じないボクだけど、一度だけ占ってもらいました。いや、占いというより色彩心理学を使った性格診断に近いでしょうか。
彼女とは既に2、3度会っていますから、もうボクの外面は知っています。多分に、彼女が見たボクの印象という側面も強いであろうその診断を聞きながら、ボクたちは障子越しに漏れてくる自然光の中、午後の何時間かを一緒に過ごしました。その日のランチから夜、店を閉める直前まで。
コロナ騒動の前だったというのに、その日の日曜はランチが終わるとおそろしく暇な、静かな時間が流れていました。午後の数時間、ボクたちの間には会話のない時間も結構あったような気がします。まるで70年代の場末のカフェみたい。
結局その日、彼女はランチも夕飯も食べていってくれたのですが、コロナ騒動以来、まったく顔を見ていません。どうしているんだろう。
「プロポーズされちゃったんですが、返事を待ってもらいました。どう思います?」
そう訊いてきたのは、全く別の女性客。どう思うかって、いったい何について訊いているんでしょう。そもそも、答えを求めているのかどうかすら怪しいですね。
「YesかNoか2択しかないのに、ってこと? それとも、その間に無数の回答があるってことかなぁ」
質問に質問で返すって最低かも。でも、初めて会ったのに、質問が難しすぎますよね。それとも、やっぱりバーのマスターという人種には、そういう質問にパッと答えられる、魔法の言葉力が必要なのでしょうか。そんなこと、知らなかったよー。
「誰かと一緒になるって、どういうことだろうって…」
確かに、自分の人生が変わるって思えば、重い選択ですね。いや、自分の世界は変わらない、って思えればそうでもないのかもしれませんが。
まだ男性社会が色濃く残っている以上、女性にはいろいろ重くて複雑な選択だということもありますね。熱情の赴くまま、一直線に走るってわけにはいかないってことかなぁ。
銃もですが、あらゆる制度や仕組みを作ってきたのも男だから。
どうして国会議員も経営者も警察も、職場でも何もかも、男女半々を基準とするっていう法律ができないのかなぁ。そうなれば、世界はよほど平和なのにと思うことがあります。
「いつか、子どもはほしい。でも、まだダメ。自分が何をしたいのか、どんな人生を送りたいのか見つかっていないんです。でも、でも、そろそろ年齢制限かも。時間がなさすぎー」
そうか、女性にはそういう問題もありますね。時間って男女平等じゃないんだ。うーん。
またまた、ボクは黙るしかないですね。三船敏郎か高倉健だったら様になっているでしょうが。。。
「それにコロナのこともあるし。ずっと家に一緒にいるってこと…」
そうか、コロナまで。これは難題だわ。三元方程式、いやもっと高度な方程式かも。
「じゃあ、ボクと結婚する?」
「ええーっ?」
「さぁ、これで君には2つ選択肢ができたから、比較検討してみたらどうだろう。問題点がクリアになるかも」
「ええーっ!」
「きっと、年齢はボクより若いだろうね。顔は、、、好き好きだし、毎日見てたら慣れるよ。『ワンダー』って映画でそう言ってたから。性格は、、、暮らしてみないとわからないかなぁ。毎日が発見かも」
「もう〜」
前に、転勤になったから結婚して一緒に地方に行ってくれとプロポーズされて断った女性がいた話をしようかと思って、やめました。予断を与えることにならないかと思ったからです。
バーのマスターって聞き役。っていうか、ふーん、そう、へーって言ってるくらいがいいのかもと思ったりします。答えは自分が一番よく知ってるわけだから。今はまだ見えていなくても、いつか心の底から自分で切り出すものなのかもしれません。仏像やダイヤモンドみたいに。
さて、彼女の決断はどうなったのでしょう。
それ以上に気になるのが音信不通になっている彼女のほう。大好きなお父さんを亡くした時に落ち込んだことがあると言っていたっけ。コロナ騒動以外にも、何か起きていなければいいんだけど。いつだって、方程式は単純なほうがいいんだから。
誰かと出会うってことは別れもあるってこと。様々な人がいきなり訪れるバーに、いちいち出会いも別れもないようなものですが、ボクは気になります。
毎日が出会いと別れってこと? そんなこと知らなかったよー。やっぱ、バーのマスターってムズイ。
乗り越える君の辛さは君のもの 今この時をわれと過ごさむ (池田はるみ)