私の在り方が全て。世界は私が見たいように創ることが出来る。
新しい仕事について
間もなく2カ月になります。
週に2回。
長い時には
次の出勤まで5日ほど
間が空くこともあり
一度憶えたことも
次には忘れるということの
繰り返しでした。
職員さんも、
早番、遅番、夜勤など
勤務時間がまちまちで
人によっては
ほとんど
お会いできていない方もいます。
それでも
2カ月経ち
入居者さんや
職員さんの顔や名前も
だいぶ分かるようになり
雑談を楽しむ
心の余裕も出て来ました。
仕事にもだいぶ慣れてきました。
とは言え、おむつ交換など
直接的な介護を学ぶ機会は
なかなか持てず
そういう意味では
私の仕事は
まだまだ介護職とはほど遠いものです。
さて、
入居者さんの中には
寝たきりで
表情が硬く
声をかけても
ほとんど反応がない方が
数名いらっしゃいます。
Kさんもそのお一人。
Kさんはお話が出来ない…
私はずっとそう思っていました。
K さんの硬い表情
一切言葉を発しない態度に
私はいつの間にか
Kさんとのコミュニケーションに
消極的になっていました。
でもある日、
そんな自分に気付き
恐れずにKさんと向き合っていこう
と心に決めました。
そうして
幾日か過ぎたある日のこと。
いつものように
吸引容器の回収のため
Kさんの部屋を訪れました。
ベットに横になっている
Kさんに
「吸引容器見せて下さいね。
こちら、洗ってきますね」
そう声をかけ
吸引容器を装置から外しました。
「それでは、お預かりしますね」
返事があってもなくても
入居者の心に語り掛ける…
それは
介護士のAさんの姿から
学んだこと。
吸引器を手にし
部屋を出かけた時のことでした。
「あー」
後ろから声がしたのです。
思わず振り返り
Kさんの瞳を見つめました。
それは初めて聞く
Kさんの声でした。
「ありがとう」
そんなKさんの心の声が
聞こえたような気がしました。
私は嬉しくてたまりませんでした。
それから
しばらく日が空き
次の出勤の時。
「失礼します」
いつものように
Kさんの部屋に入り
Kさんの顔を見た瞬間
私は驚いてしまいました。
そこにいるKさんは
まるで別人でした。
あの強張った固い表情の
Kさんではなくて
かすかに微笑みを浮かべた
柔らかな表情のKさんでした。
初めて見るKさんの
柔らかで優しい表情に
私は幸せな気持ちになりました。
「それでは、お預かりしますね」
喜びいっぱいで
部屋を出ようとしたその時でした。
「あー …り…が……と……」
私には確かにそう聞えました。
その瞬間、
胸いっぱいに
温かいものがこみ上げてきました。
「どういたしまして」
こちらこそ、ありがとうございます!」
私は声を弾ませ、
笑顔で部屋を出ました。
その時
気が付いたのです。
それまで
Kさんの声を聞くことが
出来なかったのは
私がKさんと対話することを
諦めていたからなのだと。
世界は
あなたが見たいように
創ることができる。
大切なのは
あなたがどう在りたいか。
どんな世界を見ていきたいか。
それだけなのだよ。
そんなかみさまの声が
聞こえたような気がしました。