かんたんに見えて奥深い「聞き方」の初歩をとことん掘り下げる

もっと良い対話をしたい。
そのためにはどうしたらいいだろう?

これは僕が小さな頃から探求している問いです。

そして今回、この問いをテーマに、話を聞くエキスパートを1時間にわたってあれこれ取材しました。

そのエキスパートの方とは、諸戸友さん
パーソナルライターとして僕が記事を書いている方です。

諸戸さんは、20代のうちに1,000人以上の経営者に営業をかけた経験を持ち、現在は急成長ベンチャーのCROOZで、採用の責任者として、年間200~300人近い学生の面接をしていらっしゃいます。

そんな諸戸さんからいただいた
良い対話についての回答は、極めてシンプルでした。

良い対話をするには、
目の前の人の現在地を知り、
目的地を知り、
それから自分にできることを提案することだ。

これだけです。
しかし、シンプルであるからこそ、奥が深い。

詳しくは以降の章に譲るので、
続きを読んでいただくことをおすすめします。

目次はこちら!

現在地を遠い星から見ていないか?

スマホのMAPを使うとき、路地ひとつ分ほど現在地がずれて表示されていて、どこにいるかよくわからなくなった。

みたいなことってありませんか?

たった10メートルの差でも、現在地を正確に知らなくては道に迷うことがあるわけです。おかげで僕は「東京」で散々道に迷いました。

今、僕が「東京」と言ったのは、詳しい地名も知らなければ、距離感もぜんぜんつかめなかったからです。林立するビルの間に立っても、地図とすり合わせるのがむずかしい。

仕方ないので、僕は東京住みの知り合いに電話をかけます。

「僕いま東京にいるんですけど、〇〇って店にはどうやって行けばいいですか?」

これで道案内できたら、相手はたぶん神です。

けっきょく、彼はその辺の建物の特徴や、コンビニ・自販機・駅などに書いてある住所を見て教えてくれと言い、次に僕が向いている方向を聞いて、それから道案内をしてくれました。

「いいか、まず体を180度回転させろ」

まったく。
冗談みたいな話ですが、冗談です。

この話において、知り合いが務めたこと、
それこそ「相手の現在地を知る」です。

道案内となれば、みなさんもそうするでしょう。

しかし、人生相談やインタビューや普段の会話となると、これができていない聞き手となってしまうことが多々あるのではないでしょうか?

現在地を知る。
かんたんなことに見えて、意外と奥が深いのです。

なぜか売れる先輩の営業スタイルとは

では、諸戸さんはどのようにして相手の現在地を知るのでしょうか。

それには、彼が対話をしているときにどんな問いを持っているのかに注目するのが、ヒントになるかもしれません。

20年ほど前。当時営業をしていた諸戸さんは、優秀な先輩の営業スタイルからあることを学びます

それは、制約の確度を決めるのが「ヒアリングによって、本当に解決したいことを引き出せたか」であることです。

先輩は、1回目の営業では、自分から何かを提案することがほとんどありませんでした。

代わりに、お客さんから「俺ばっかりしゃべってたけど、いったいおまえ何しにきたんだ?」と心配されるほど、聞くことに徹していたのです。

しかし、売れる確率は断トツで高かった。

相手の求めているものに対し、ドンピシャで当てはまるものを提供することができたからです。

ここから学べるのは、相手と話す時、以下のような問いを自分の中に発生させることが大切なのではないかということです。

「目の前にいる人は、今なにに迷って(困って)いて、なにをほしがっているんだろう?」「ほんとうにそれがほしいのか?」「ほんとうにそれが困っていることの正体なのか?そもそもそれは問題なのか?」

諸戸さんは無意識にこれらを踏まえた質問ができます。一方、僕などはこういった問いの代わりに「変な風に思われていないかな?」「今日の髪型変じゃないかな?」「この人、さっき外から来たとき、手の消毒してなかったんでは?まじ?」などと考えて、トンチンカンなことを聞いてしまったりするわけです(誇張)。

相手の現在地を知ること以外に意識が向くから、相手の大事なサインを見逃してしまうのです。

感情が動いた瞬間にヒントがある

相手の現在地を知るために、意識すべき問いはわかりました。

しかし、相手が本当にほしいものを言っているかどうかなんて、見分けられるのでしょうか?

いったい、何をヒントに現在地を割り出せば良いのでしょう?

「もちろん、完全な理解というものは存在しないかもしれないけど」

そう前置きした上で、諸戸さんは「相手の感情が強く動くことに注目して深掘りする」ことだと教えてくれました。感情の乗っていない出来事は、たとえすごそうに見えてもあまり掘り下げないのだそうです。

理由は、詳しく見つめ直しても、
相手の今後につながるヒントが少ないから(僕の推測)。

これについては、認知科学の知見が理解の役に立つでしょう。人間の知覚は実にいい加減だという話です。

人の目は、ものを見るということに関して
たった10%しか貢献していない
といいます。

残りの90%の情報を補うのは、脳の別の部位の働き。

その大半は、視床下部や中脳の中心など、
感情の形成に重要な役割を果たす部位から届きます

つまり、わたしたちが“見ている”ものは、
眼前にあるものについて抱いた感情を伝えているともいえるのです。

わたしたちは、モノそのものではなく、感情に基づいてそこから引き出したエッセンスを見ている。

あなたが今この瞬間に見ているものは、過去に実際に見たもの、または想像したものの反映であるということです。

だからこそ、同じ外部環境の中にいても、人によって文字通り“見えている”ものが違う。特に、強い感情を伴うことについては、人によってかなり見え方が異なってきます。

たとえば。
今あなたの目の前で
むっつり黙っている人がいたとしましょう。
仲がいいと思っていた相手だけに、
あなたは動揺するかもしれません。

怒っているのだろうか?
私に「嫌い」と意思表示しているのだろうか?

こういうふうに考えるのは、
おそらくあなたが過去にもそうしてきたからでしょう。

どこかの時点で、これは悪いサインだと学習しているのです。

しかし、今すぐに別の見方に立ち、反応を変えることもできます。

素晴らしい聞き手は、よい質問や聞く姿勢によって、いともかんたんにそれを手助けしてくれるはずです。こんなふうに

いずれにせよ、わたしたちは自分のものの見方自体を認知できれば、反応を選択し、その結果生じる行動も変化させられるのです。

だいぶ話がそれました。
今から戻って行きます。

なぜ詳しく「事実ベースで」話を聞くのか?

整理すると、人は経験からエッセンスを抜き出し、それをフィルターとしていま目の前のことにも当てはめ、世界を捉えています。

しかし、しばらく苦しんでいる問題が解決するときや、新たなやり方を試そうとするときには、ものの見方が変わっていることが必要です。

であれば、聞き手までもが相手のフィルターを通して世界を見るのに加担するのは、悪手。

「私の夫がね、ほんと最悪なのよ」
と相談相手が言うとき、

「そうなんですね、最悪な旦那さんが問題なんですね」
と同調してしまえば、

「夫が最悪だ」という解釈(フィルター)は認め、強化してしまうことになります。結果、「夫が最悪」に類似する解釈を頭に浮かべ、あれこれ述べることにつながるでしょう。

こうならないために、諸戸さんは仕事でも友人関係においても「感情が動いたこと」を「事実ベースで聞く」ことを意識しています。

過去に、彼が学生の相談に乗る様子を取材したのですが、一緒に何か問題が起きた地点に移動し、そこで再現してもらうような丁寧さで話を掘り下げていました。

このケースで言えば、たとえば「なにか不満があるんですね。旦那さんのどんな言動があったのですか?」と聞いてみることです。

そうすると案外
「子どもにとってはいい父親かもしれないけど、酒癖が悪いのよね。いつも酔っぱらって帰ってくるの」なんてことだったりします。

ただし、この段階でもまだ解決に向けた話にはいきません。

「いつも」という言い方には解釈が混じっていますし、「酔っぱらって帰ってくる」のが悪いという判断には謎が残っています。

いつもとは、どれくらいの頻度のことなのか。どうして、夫が酔っぱらって帰ってくることが、彼女にとっては問題なのでしょうか?夫は酔っぱらっているとき何をするのでしょう?

こんなふうに丁寧に深掘りしていけば、最終的には目的地もくっきり見えてくるはず。「金曜日くらいは飲まずに帰ってきて、私とふたりきりで過ごす時間を作ってほしい」みたいなことになるわけですよね。たぶん。

最初とはずいぶん違う見え方になっているのがわかるでしょうか?

ここまでくれば、相談者本人が自分でどうにかする方法を思いつくはずです。現在地も目的地も明確になっているからです。

まとめ!!

良い対話をするには、
目の前の人の現在地を知り、
目的地を知り、
それから自分にできることを提案することだ。

上の4行が基本です。

中でも、いちばん大事なのは「現在地を知ること」ではないかと僕は感じました。道案内と違い、対話で現在地がわかれば、目的地は比較的かんたんに見つかります。提案も自然なかたちで進められるでしょう。

相手の現在地を知るために、感情が強く動いたことに焦点を当て、「事実ベース」で聞くことを意識します。

そのとき、以下のような問いが頭の中にあります。

「目の前にいる人は、今なにに迷って(困って)いて、なにをほしがっているんだろう?」「ほんとうにそれがほしいのだろうか?」「ほんとうにそれが困っていることの正体なのか?」「そもそもそれは問題なのか?」

事実ベースで話を深掘りする上では、
解釈の混じった言い方には注意が必要です。

「いつも」ってどれくらいの頻度のこと?
「みんな」って誰のこと?
ほんとに「ずっと」そうだったの?
「最悪」とは?「ひどい」とは?

相手は、自分の体のどんな反応や周りの人の変化に気がついて「緊張している」と判断するのでしょう?「上手くいかない」だとか「ダメだ」とか思うとき、何が見えているのでしょうか?

こういったことを、尋問に感じさせないような聞き方で深掘りできればGood!

最後に--僕の目指す最高の対話とは

1時間の取材で、諸戸さんの話を聴きながら、今まで学んできたことが頭の中で統合され、対話の見え方が変化しました。

まだまだ具体的にやれることがあるのも自覚できましたし、これからも相変わらず「最高の対話」を追求していこうと思います。

僕の中で最高の対話とは、なにか。

お互いがまだ見えないものを見、感じられていないことを感じることができると、双方が信じて行う身を交わすような対話です。

話す前には予想のつかなかった変化が起き、その後の人生が豊かになったと感じられるひとつの契機として記憶される、そんな対話です。

そして、ここにまたひとつ要素が加わりました。
諸戸さんの話のおかげです。

相手の現在地を正確に知ろうと話を深掘りし、目的地を定め、そこへ向かうために力になれる何かを提案する。その一連の過程で、自分にも相手にも、ものの見方の変容が起き、表情や行動にも明るい変化が生じる。何かが生まれる。そんな取材をして、記事を書きたいです。

諸戸さん、本当にありがとうございました。

✳︎✳︎✳︎✳︎

読者の方にちょっと裏話を。

実は、この記事って、諸戸さんに話していただいたことの最初の30分程度のことしか書ききれていません。

現在地の話に思い切って絞りました(その割には長い)。

ただ、諸戸さんの話の聞き方や、対話の捉え方については以下の記事などに割と書いてありますので、よければぜひ!


今回も最後までお読みいただきありがとうございました!!

【最後まで読んでくれてありがとう!】
年間150冊くらい本を読んでいて、お役に立てそうな良い本があれば個人的な解釈も交えて紹介しています。

だいたい4、5冊読んで1記事になる感じなので、書籍代があれです。いや、「あれれ?」です。投げ銭大歓迎です。

参考文献

以下2冊を参考にしました。


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