シャネルバッグのおばさん
電車の中でうとうとしていたら、ドアが開いて二人の女子高校生が入ってきた。どちらも運動部なのか、女の子の制服を着せられている男の子みたいだった。一人は片手にアメリカでしか見たことのないサイズのフラペチーノを持っていた。私が高校生だったら、たぶん仲良くなれないタイプの子たちかもしれないなんて思いながら瞼を閉じた。
周囲を気にせずに会話に夢中な二人は、急停車に備えられずフラペチーノを電車の床にぶちまけたようだ。目を開けたら床にまだ溶けきってない茶色の液体が大きな湖をつくっていて、女子高生は焦りながらティッシュを探していた。
その横にすらっとしたいかにも顔のきつそうなおばさん。どうやら一部始終を見ていたが、私は関係ないのと言いたげで、その肩からはスマホも入らないさそうなちっさなシャネルのバッグがぶら下がっていた。シャネルバッグは本当に何も入らないようで、どこだかわからないがおそらく有名なブランドの紙袋にペットボトルや本を入れて持っている。
なんのためのバッグだよなんて笑いそうになった私は、女子高生に視線を戻すと、ティッシュが足りないのか困っていて、普段からティッシュを持ち歩かない私はどうしようもない気持ちになってしまった。
カタカタっ
ヒールの小走り音が聞こえてきたと思ったら、シャネルおばさんだった。私は女子高生に文句を言うのではないかとそわそわしていたら、あの小さな小さなシャネルバッグからキャバクラの広告が描かれているティッシュを取り出し、これ全部使って!!足りないかもしれない!もう一個ある!これも使って!
シャネルおばさんを筆頭に、近くにいた人の中でティッシュを持つ人は次々と女子高生たちを助けた。
なんのためのバッグだよ
そう思ってた自分は、人を助けるティッシュをつめるバッグに
シャネルを選んだおばさんが輝いた大人の女性に見えてきた。
相手からどう思われるかが重要な空っぽおばさんだなんて思ってしまった私は反省した。
あの人格を持ち運ぶには、シャネルなんかでは安っぽすぎるかもしれない。