介護サービスにおける「管理者の役割」は何か? 行政が求める回答とは?
「介護サービス事業所における『管理者の役割』とは何か?」
介護サービス事業所や介護施設の管理者という立場におられる方が、このような質問をされたら何と答えるだろうか?
この哲学とも言えるような問いかけに対して、しばらく熟考するだろう。しかし、これまでの経験を踏まえ、キャリアある管理者という立場として、高齢者介護に対しての知見、現場での取り組みなどを語り始めるに違いない。近年の認知症ケアへの自身の見解、日常で現場を円滑に機能させる取り組み、利用者との関り方、あるいは関係者との対応や書類作成などを挙げるかもしれない。
ひとたび語り始めたら、管理者自身が考える介護サービスの管理者像を次々言葉にできるようになるだろう。同じ介護サービスを提供している人たち、業界関係者、利用者のご家族、あるいは介護に携わったことのない人が聞けば、興味深々だろう。私も前のめりで聞きたいと思う。
しかし、聞き手が行政の担当者だったらどうだろう? あるいは、冒頭の質問をしたのが介護保険制度を管轄する立場だとしたらどうだろう?
もっと具体的にすると、「管理者の役割は何か?」を実地指導の担当者から聞かれたら、何と答えるだろう?
こうなると、残念ながら管理者自身が考える介護サービスの管理者像を答えたところで「不十分」と言われてしまう。そもそも、質問の意図が分かっていないと見なされてしまう。
このように書くのは、本年度に私の介護サービス事業所で行われた実地指導において、「管理者の役割を可能な限り答えてください」「(訪問介護の)サービス提供責任者の役割を挙げて下さい」と唐突に問われたからだ。
この際の私の回答は以降にも通じる話なので割愛するが、ひとまず6割ほど答えることはできた。そして先方から「あとは✕✕と〇〇もありますよね」と補足されて終わった。
このような背景もあったので、もしも冒頭の質問に対して何と答えるのが適切なのか思いつかない方は、わずかながらでも参考になればと思って本記事をまとめた次第だ。正解とは自信を持って言えないが、方向性は間違っていないと思うので、ご興味があれば以降をお目通しいただきたい。
さて、介護サービス事業所における「管理者の役割とは何か?」という質問は、哲学でも何でもないということを予めお伝えしておく。また、管理者のこれまでのキャリアを踏まえた介護論を話せばいいわけでもない。
では、「管理者の役割とは何か?」への問いかけには、どのような回答が適切なのだろうか?
それは・・・
「指定基準に明記されていることを話せばいい」
・・・だけだ。
改めてお伝えするが、「管理者の役割とは何か?」は哲学でも何でもない。
介護保険制度の下に運営されている介護サービス事業所においては、法令としてちゃんと定義付けされている。それが基本的な回答となる。
広い範囲で見れば、確かに管理者自身の介護に対する見解や現場での取り組みも役割に含まれるのであるが、実地指導などの行政が質問した意図とはポイントがズレてしまう可能性がある。そのため、自分の考えや平時の取り組みも伝えるならば、その前におさえるべきポイントである「法令としての定義」をベースとして語ったほうが良いのだ。そもそも、行政サイドの人たちは法令ベースで質問をするのが役割なのだ。
言い方を変えると、「管理者の役割とは何か?」を語るためには、まず「法令としての管理者の定義」をおさえておくことが前提となるのだ。
ここまで抽象的な話が続いたので、1つ例えを挙げたい。
以下は認知症対応型共同生活介護(グループホーム)の指定基準である。グループホームは介護保険制度下の介護施設であり、そこに住まう認知症のご高齢者に対して、自立支援として認知症ケアを専門とする介護職員がサービス提供をしている。
そして、グループホームもまた、施設を統括する管理者の役割が法令に明記されている。以下は「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」から管理者の位置づけと役割を抜粋したものである。
(管理者)
第九十一条 指定認知症対応型共同生活介護事業者は、共同生活住居ごとに専らその職務に従事する常勤の管理者を置かなければならない。ただし、共同生活住居の管理上支障がない場合は、当該共同生活住居の他の職務に従事し、又は同一敷地内にある他の事業所、施設等若しくは併設する指定小規模多機能型居宅介護事業所若しくは指定看護小規模多機能型居宅介護事業所の職務に従事することができるものとする。
2 前項本文の規定にかかわらず、共同生活住居の管理上支障がない場合は、サテライト型指定認知症対応型共同生活介護事業所における共同生活住居の管理者は、本体事業所における共同生活住居の管理者をもって充てることができる。
3 共同生活住居の管理者は、適切な指定認知症対応型共同生活介護を提供するために必要な知識及び経験を有し、特別養護老人ホーム、老人デイサービスセンター、介護老人保健施設、介護医療院、指定認知症対応型共同生活介護事業所等の従業者又は訪問介護員等として、三年以上認知症である者の介護に従事した経験を有する者であって、別に厚生労働大臣が定める研修を修了しているものでなければならない。
(管理者の責務)※
第二十八条 指定地域密着型通所介護事業所の管理者は、当該指定地域密着型通所介護事業所の従業者の管理及び指定地域密着型通所介護の利用の申込みに係る調整、業務の実施状況の把握その他の管理を一元的に行うものとする。
2 指定地域密着型通所介護事業所の管理者は、当該指定地域密着型通所介護事業所の従業者にこの節の規定を遵守させるため必要な指揮命令を行うものとする。
※ この項目は準用の条文につき、「指定地域密着型通所介護事業所」を
「指定認知症対応型共同生活介護」と置き換えて読まれたし。
・・・さて、上記で認知症対応型共同生活介護(グループホーム)の管理者の位置づけ及び役割を、法令ベースで確認したわけだがいかがだろうか? 何となく分かることもあれば、他の介護サービス事業所の名称があったり、自事業所とは関係ない項目もあったろう。
しかし、誰しも共通して言えることは「法律は読みにくい」「言い回しが分かりにくい」ということだろう。人によっては何も理解できず、落胆されているかもしれなが、安心してほしい。そもそも上記を暗記して、完全に理解している人なんて少数派だ。
そこでまずは概要でおさえておくことに注力いただきたい。以下は、私が「管理者の役割とは何か?」というテーマを、同法人内のグループホームの管理者に伝えるために要約してものだ。もしも、グループホームの管理者の役割を問われたならば、ひとまず参考の1つになれば幸いだ。
管理者の位置づけは・・・
1ユニットに1人の管理者が配置されている。但し、要件を満たせば他事業所の兼務可。また、認知症ケアにおける三年以上の現場経験と専門知識があり、かつ国が定める研修を終了している者であること。
管理者の役割は・・・
「従業員の管理」、「利用者の申込みに係る調整」、「業務の実施状況の把握」、その他の管理業務を、総合的に担うこと。そして、従業員に上記の規定を遵守させるため、必要な指揮命令を行うこと。
最後に。
何だか訪問介護やグループホームらが混在した記事となって申し訳ない。
ひとまず「管理者の役割は何ですか?」と問われたら、まずは法令ベースとして回答してみてほしいということだ。
また、唐突に行政の人間から質問を受けることはないだろうが、実地指導において、人員基準の理解を確認されるため、各役職や計画作成の担当者への意義や役割を法令ベースで捉えておくことは大切だ。介護事業所という立場の管理者が社会的にどういう立ち位置にいて、どのような役割を担っているかは答えられるようにしたほうが良いと思う。
そのためには、まず法令ベースで確認したうえで、上記のように自事業所にとって必要なポイントをピックアップして、自分なりに応えられるように要約してはどうか・・・という余計なお節介な提案だ。
法令ベースで最低限の役割が分かっているならば、そこからは具体的に自分たち行っている取り組みや高齢者介護に対する熱い思いを語ったとしても、行政の担当者だって聞く耳をもってくれるのではないだろうか。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方も、感謝。