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「人の話を聞く」だけなのに、すごいエネルギーを消費するという事実
コミュニケーションの1つとして ”傾聴” がある。
傾聴とは「人の話を聞く」「相手の話に耳を傾ける」ことだ。
「聞く」と「聴く」の違いはここでは論じないが、本記事ではとりあえず「聞く」として話を進めることとする。
―― さて、人の話を聞くことは得意だろうか?
このように問われると得意という人はあまりいないと思う。
それは人の話を聞くという行為は、ものすごくエネルギーを消費することだからだ。
実際、友人の恋愛相談や同僚の仕事の失敗などをずっと聞いていると、始めは同情心などから相槌を打つことができるが、それが長くなると「この話まだ続くのかな」と思うようになる。
それは話を聞いているうちに疲れてくるからだ。
――― では、なぜ人の話を聞くという行為はものすごくエネルギーを消費するのだろうか?
それは「相手の話を理解しようとするから」である。
また、「相手の話に反応しなければいけない」もある。
これは「聞く」ではなく「話す」に視点を置き換えると分かると思う。
「話す」とは、大なり小なり自分の中ですでに内容が固まっているので、あとは言葉にするだけでいい。
また、自分が話すときは多くの場合、自分がどのような態度で話すかを意識することはあまりない。内容がポジティブでもネガティブでも、誰しも話すのが大好きなので感情のままに話す。
つまり、社運を賭けたプレゼンなどの特別な場面を除けば、「聞く」に対して「話す」というのはさほどエネルギーを消費しないのだ。
しかし、「聞く」はそうはいかない。
「聞く」とはちゃんと相手の話を聞いて、それに対して反応しようとすると、その内容を汲み取ってあげる必要がある。相手が何を言いたいのかを察するために話の内容を的確に把握し、脳内で分析する必要もある。
そうして、共感などの相手が欲しい反応をすることで、相手の話を「聞く」という行為が完結する。そしてそれを、相手の話が終わるまで繰り返すのだ。そりゃあ、疲れるに決まっている。
たまに「話を聞くだけの仕事って楽だろう」と考える人に出くわす。実際、コミュニケーションを主体とした仕事の介護業界にも、そう考える人は少なからずいる。
しかし、そのような人たちの高齢者との関り方を見ていると、相手の話よりも自分の話ばかりしている。何なら同僚や上司が話をしているところに、すぐに自分の話をしたがる。
それは「話を聞くだけの仕事って楽だろう」と考えている人は、実際のところ「聞く」ということを避けているからだ。なぜかと言うと、人の話を聞くという行為に慣れていないので、ものすごいエネルギー消費をするのが嫌なのだ。これは潜在的な意識によるものだと思う。
一方、話を聞くことがうまい人は、人の話を聞くという行為の重要性とともに、その行為がものすごいエネルギーを消費する事実を知っている。大袈裟に言えば、「人の話を聞くだけ」なんて軽んじていると痛い目を見ると分かっているので、それなりの覚悟をしているのだ。
それだけ「人の話を聞くだけ」という行為は価値があると言える。
特に人間関係が希薄なっている現代、話を聞いて欲しいというニーズは非常に高まっており、そこに「人の話を聞くだけ」というものすごいエネルギー消費をする行為ができる人がプロフェッショナルになる。仕事になる。
別に「人の話を聞くときは覚悟しておけ」と言いたいわけではない。
どちらかと言えば、「人と話すのが好き」だからと言って「人の話を聞くことは簡単」と思わないほうが良いという話だ。
それは「話す」と「聞く」は別な行為であり、言い換えると脳の使い方が異なるという意味である。
「聞く」という行為に重きをおくならば、まずは「相手の話を最後まで聞き終える」ということを意識的に行うことを推奨する。
上記でもお伝えしたように、人間は自分の話をするのが大好きな生き物であるため、相手の話を聞いているうちに「自分の考えを言いたい!」「自分の体験を言いたい!」「間違いを指摘したい!」と脳内と思考がスパークして、相手がまだ話をしているのに遮ってしまうことがある。
相手の話を遮って、そこで伝えた内容に相手が喜べばいいだろうが、大抵の場合は相手は「自分がまだ話している途中だったのに・・・」と不満を抱かれて終わる。
このように考えると「相手の話を最後まで聞き終える」ということ1つもまた忍耐とエネルギーを要することがわかるだろう。そこで「相手の話を最後まで聞き終える」という訓練が、それ以降に人の話を聞くということに活きてくるはずだ。
――― 「人の話を聞く」という行為をあなどってはいけない。ただ話を聞くだけなんてことはない。
もしも意味がわからなければ、「自分はどのように相手に話を聞いて欲しいだろう」と考えてみれば、答えは自然と見えてくるだろう。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。