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高齢者に「全量摂取」を強要しない
「全量摂取」できない高齢者もいる
食事は「自分が食べられる物を、食べられる量だけ口にする」ことが基本である。栄養をとることは大切だが、無理強いするものではない。
特に高齢者に対して「全量摂取」を強要することはお勧めしない。
介護施設などで食事を残す利用者(高齢者)に対して「ほら、まだ残っているよ」「全部食べたないと元気出ないよ」という介護スタッフがいるが、個人的には本人が残したいなら残して良いと思っている。
このような話をすると「残すのは良くない」「世の中には食べられない人だっている」「栄養不足になる」という話をする方が現れる。しかし、貧困とか飽食の時代とかいう話になると少し論点がズレてしまう。
高齢者の立場になって考えたとき、人によってはペロリと全量摂取できる方もいるが、そのような人がいるからと言って別な方も同じように全量摂取できるとは限らない。食事に時間がかかったり、すぐお腹いっぱいになってしまう人だっている。
そもそも高齢者は肉体が衰える。それは筋力だけでなく内臓もだ。すると食事に対する意欲も低下したり食事そのものが苦痛になる場合もある。そこに対して周囲が「全部食べろ」というのは拷問に近い。
1日3食の食事が困難という人もいる
そもそも、「全部食べろ」という介護スタッフだって、自分以外の誰かが決めた食事を毎食出されたとしたら、おそらくどこかのタイミングで残すことは確実にあると思う。
疲れているとかお腹が痛いといったコンディションの問題もあれば、苦手な食品・食材は避けたいと思うことだってあるはずだ。そこに「栄養があるから」「残すのはよくない」「もう少しで完食だから頑張ろう」と言われたらきっと苦痛に思うのではないか。
年を重ねるほどに食事量は変わっていく。人によっては食の好みだって変わっていく。
また、1日3食の食事そのものが困難という人もいる。誰もが1日朝昼夕と3食を口にできるわけでない。それは肉体的および生活的な問題がある。
実は私もこれに該当する。肉体的な問題から言えば、私は朝食を食べると下痢をする。30代になって病院で検査したことと、意図的に朝食を抜く生活を試したことから判明した。ちゃんと水分は摂取するが、昼食も大盛どころか普通量でも食べると腹痛になる。そのため、もう10年以上ラーメンや定食など食べていない(そもそも外食しないのが要因だが)。
また、運営者という立場として電話や来客対応、会議や面談を行ったり、介護という仕事において緊急対応が入ることから昼食を落ち着いてとることが難しい。空腹は感じるが、上記の事情から腹痛にならない程度に午後に小さな菓子パンやカロリーメイトなどを口にしている。
話が脱線したが、私のような事情でなくても、周囲と同じように食事を摂ることが困難なタイプもいることを覚えておいていただければ幸いだ。
誰だって「食わず嫌い」の1つか2つはある
高齢者の食事についてはないを戻すと、食事は栄養摂取を目的としているわけだが、せっかくの食事は楽しみたいところ。
そこに「全部食べろ」「もったいない」「元気になるよ」と言われると食事がプレッシャーになってしまう。施設で提供したり家族が準備してくれる環境にあると余計にそうなる。
食事を強要するような発言をする側は食事の量や好みを選択しやすい環境にいるが、準備した食事を口にする側(高齢者)はそうでない。たまには残したいコンディションだってあるし、何となく嫌いな食べ物だってある。
実際、お互いに「食わず嫌い」を当てるバラエティ番組だってある。何でも食べられるという人だって「ちょっとこれは・・・」という食べ物は1つか2つはあるはずだ、人間だもの。
反対に「これならたくさん食べたい」という食べ物だってある。栄養制限や腹痛にならない程度に、たまになら好きな物を多めに食べる場面もあっても良いだと思う。
栄養として「全量摂取」は大切であるが、「自分で好きな物を選択して食べる」ということだって、せっかく生まれてきたのだから楽しみとしてあっても罰は当たるまい。
――― あくまで食事は「可能な限り」であって、特に高齢者においては「全量摂取」を目的とした強制はしないほうが良い。下手したら誤嚥リスクもあるし、食事そのものを嫌いになるメンタル面の弊害だってある。
「残してもいいですよ」「無理しないでください」「お夕飯は全部食べましょうね」くらいでプレッシャーをかけないことも、食事を提供する側として、介護する側としては必要ではないだろうか。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。