見出し画像

クラスター備忘録:フェイスシールドを付けてて良かった話

以下、コロナ感染のクラスターになった介護施設にヘルプに入った経験と考察である。

今回は、ヘルプ入っている間ずっと身に付けていた感染予防具に関して、考えをまとめていきたい。

さて、昨日は感染症が発生すると、感染を広めないための対策は講じることができるが、入居者(ご高齢者)の行動までは制限しきれないため、入居者は感染してしまうという、ある意味での ”諦め”を記事にした。

この記事では主に、共用トイレと洗面台の利用という観点から、入居者の日常的な行動は制限できないという話を紹介した。

本記事では、入居者の介助中における想定外の行動と、それに対して感染予防具が有効であったと実感した話である。介護者以外が読んでもイメージがつく、非常にシンプルな出来事なので気負わずに読んでいただければ幸いである。


■ 感染してても腹は減る


―— さて、それは「食事介助」において起きた。

感染していても、ある程度の発熱があっても、咳をしていても、大半の入居者は食欲は普通であった。そのため、単独で食事をすることが困難な入居者に対しては、介護職員が食事介助を行うことになった。

通常勤務している介護職員がほとんど陽性になった状況下、ほぼ引継ぎのないノーヒントで介助を行うことになったわけが、基本情報などから食事形態や嚥下状態から推察して何とか対応していた。
(服薬に関しては、連携先の医療機関や訪問看護などに1つ1つ確認した)

基本的に居室で食事を提供をしていたが、感染している自覚がなかったり習慣でリビングにお見えになる入居者も少なくなく、人数制限しつつ陽性者であっても、やむを得ずリビングで食事提供したこともあった。


■ 遠慮なく咳やくしゃみをする入居者


そして、食事介助を要する入居者でも、自力で食事を召しあがることができる入居者でも、食事中に咳やくしゃみをすることがある。中には手を抑えずに、遠慮なく、思い切り咳やくしゃみをする方もいた。

こうなると、多少寒くても窓を開けて換気をしたり、その都度消毒をしたり、ひどいときには他の入居者のお膳を入れ替えすることもあった。

咳やくしゃみのスタイルは人それぞれであると頭では分かっているが、その場にいないとしても、まだ感染していない入居者もいるし、そして介護職員側も感染したいとは決して思わないので、勘弁してほしいと思う。

一応、そのような入居者へは「咳やくしゃみをするときは、手で押さえていただけると助かります」と伝る。すると「すまんすまん」と照れ笑いされる。しかし、その直後にまた遠慮なくノーガードで咳やくしゃみをする。

このような光景を幾度も目の当たりにすると、「ああ、これは感染が広がるわけだ・・・」とげんなりする。また、入居者の行動を制限できないことから感染が広がる、という現実を突きつけられる。


■ 感染者のむせ込みは、介助者にとって恐怖しかない


入居者の遠慮のない咳やくしゃみは、食事介助中にも普通に行われた。

私が入居者へ食事介助をしている最中も、急に咳をしたり、くしゃみを思いきりすることはあった。しかし、それ自体に驚くことはしない。

そもそも、食事介助を要する方の中には、飲み込む力(嚥下機能)が低下している。口に運ぶ食べ物の量が少しでも多かったり、わずかでもサイズが大きかったり、歯ごたえのある食材だと、それだけで大きくむせ込む。
慎重に配慮をしても、何かがトリガーとなって急にむせ込み、口から食べ物を吹き出すことはある。

その吹き出すこと自体は珍しくないが、介助対象者が感染者である場合は恐怖心をともなう。

もちろん、室温に配慮しつつ居室の窓を開けて換気したり、対面しないように食事介助をするなどは当然していた。

しかし、目の前の入居者(感染者)が急に咳やくしゃみ、むせ込むというのは、感染予防具を身に付けていても想像以上にストレスであった。

■ フェイスシールドを付けててよかった


このような状況下において、感染予防具を身に付けていて本当に良かった。

基本的な感染予防具として、使い捨てガウン・グローブ(プラスチック手袋)・キャップ、そしてフェイスシールドを装着していた。1介助ごとに迅速に交換していた。

特にフェイスシールドは、分かりやすくその有効性を実感した。
クリア板で顔全体を覆い、ゴムバンドを頭で巻き止める、誰もがすぐイメージできる一般的なフェイスシールドだが・・・付けててよかった。

それは、咳やくしゃみによる直接的な飛沫感染を防ぐということもあるが、私が有用性を実感したのは別な状況下である。

その状況とは、食事介助を受けている入居者(感染者)が、介助者である私のほうに急に顔を向けて咳やくしゃみ、むせ込んで食べ物を吐き出したときである。

汚い話になって大変申し訳ないが、急に入居者から噴出された食べ物は、そのまま私のフェイスシールドに思いきり付着したのだ。

付着したのは食べ物であるが、まるで血しぶきを受けた思いだったので、心臓がバクバクしっぱなしだった。

入居者は私に対して何か言いたかったようだが、まだ口の中に食べ物が残っている状態のまま、本人の意思に反して咳・くしゃみ・むせ込みをするのだ。そりゃあ、口の中のものが飛び散るのは当たり前だ。

もしも、フェイスシールドを「つけなくていいか」とか「見えにくいから」という理由で装着していなかったら・・・おそらくヘルプ期間中に感染したり、ヘルプ後の待期期間にダウンしていただろう。

入居者から噴出される食べ物をフェイスシールドに受けるたび、「フェイスシールドって、飛沫感染を防ぐ以外にも有効だな・・・」と思っていた。


■ 感染予防具は面倒くさくても装着しよう


上記で挙げたような基本的な感染予防具の装着を面倒に思う人はいる。
1介助1交換(手洗い・消毒含む)が基本だが、それを忘れてすぐに別な介助に入ったり、清潔エリアや感染していない入居者に行こうとする人もいる。

そのたびに私は「そのまま行っては駄目!」「ちゃんと交換していって」「手洗いはした?」などと口うるさく指導した。嫌われたり、煙たがられても良いから何度も何度も職員に言い続けた。周囲にも私に対して不備があったら指導してほしいとも伝えていた。

それでも感染してしまった職員はいた。結果論だが、そのような職員はフェイスシールドを忘れて介助をしたり、業務遂行を優先してガウンやグローブを交換しなかったり、手洗いを疎かにしている場面を幾度も見かけた。

感染予防対策は確立されている。
感染予防具には意味があり、装着の順番も確立されている。

空気中のウイルスに対して目・鼻・口を守り、手洗いによって接触箇所の感染予防にもなる。基本はそれだけであり、それを感染予防具と手洗いによって感染リスクを低減できる。

私はこれらを徹底的に行った。だから感染せずに済んだと思っている。(まあ、これも結果論であるが・・・)

クラスターになってしまうと、その場にいる職員の思考能力は低下してしまううえ、介助を遂行することばかりに目を向けてしまい、自身の感染予防が疎かになってしまう。それは今回のヘルプによって幾度も目の当たりにした。だからこそ、上記でも伝えたように口うるさく指導した。

もしも、事業所や施設で感染症が発生したならば、面倒くさがらずに感染予防具を装着してほしい。初期段階でも、大袈裟と思っても装着してほしい。

大ごとにならなければ笑い話で済む。しかし、感染が拡大してから「最初のうちにちゃんとやっておけば良かった・・・」と思っても遅い。

どのくらいの量が必要かは別な記事で考えたいと思うが、使い捨てのガウン・グローブ・キャップ、フェイスシールド(またはゴーグル)は、ちゃんと備蓄しておくことをお勧めする。

もう備蓄しているならば、どのタイミングで用いるのかを再度見直していただきたい。それは有意義な取り組みになるだろう。

ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読んでいただき、感謝。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集