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認知症の方に対して感情的になる介護者になるか? 認知症について学んで自身の心身を守れる介護者になるか?

認知症対応共同生活介護(以下、グループホーム)は、名前のとおり認知症の高齢者が施設で共同で住まう場所である。

まぁ、介護施設と言ってしまえばそれまでだが、一応のところ施設スタッフは認知症ケアのプロとして入居者の支援をしている。”一応のところ”と前置きをしたのは、スタッフによって認知症ケアのスキルなどはピンキリだからだ。

入居者の認知症の症状が1人1人異なるように、施設スタッフもまた基本スキルも経験も1人1人異なる。そのため、入居者の認知症のあり方を見ても十人十色の解釈になってしまうことも珍しくない。そしてそれはスタッフの態度や反応として表れる。

例えば、5分前に伝えたことをすぐ忘れてしまう認知症の方がいるとする。これは完全に分かりやすい認知症の症状であり、短期記憶に障害である。

それをスタッフ間で共有していても、その方が認知症であると分かっていても、いざその当人が5分前に伝えたことを忘れていたり、何度同じことを伝えても理解してもらえないとなると、次のような考えと反応をする。


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スタッフAさん
「そうだった。この方は短期記憶に障害があるんだっけ。じゃあ、こちらが伝えたことを忘れてしまうのは仕方ないな」

スタッフBさん
「もぉー、あの人はこちらの言ったことをすぐに忘れてしまう! 何度言っても分からないなら、こっちだって少し強く言っても仕方ないでしょ」

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――― さて、2人とも最後は同じ「仕方ない」という思いに至っているわけだが、その態度は全く異なる。
スタッフAさんは本人の状態と認知症の知識に基づいた「仕方ない」であるが、スタッフBさんは自身の感情の暴発からの「仕方ない」である。

このように見るとスタッフBさんの態度は、決して適切でないことは誰が見ても分かる。しかし、このような態度をとる介護者は少なくない。

これは「この入居者には強く言うくらいが丁度いい」「認知症だから何を言っても忘れるだろう」と自分の感情とその行動を正当化しているからだと思われる。

そして厄介なことに、このような感情を態度に出してしまう介護者ほど、自身がそのような態度で介護をしていると気づいていない。そのため、いくら周囲が警告したり注意しても「仕方ねーじゃん、だってさー」みたいな正当性を主張しはじめる。だからいつまで経っても気付かない。

何が問題かと言えば、このような攻撃的な感情に基づいた介護及び認知症ケアをしていると、それを食らった認知症の高齢者の症状はどんどん悪化していくことだ。

すると、介護者の感情は暴走していき、暴走したまま介護を行う。そうしてまたその方の症状が悪化していく・・・という負のループに陥る。だからこそ、どこかで負のループから脱しなければいけないのだ。

認知症は決して改善することはない進行性の状態だが、進行を緩和したり悪化しないようにすることはできる。その役割を介護者が「仕方ねーじゃん」と言い張っているうちは、介護者自身も負のループに巻き込まれて苦しむことは覚えておいていただきたい。


――― 高齢者虐待の原因の第一位は「知識・技術の不足」である。これは令和3年度の厚生労働省の調査による結果であり、認知症ケアにも同じことが言えると思う。

認知症の高齢者を相手にするということは、仕事であっても親の介護であっても大変なことである。それは関わったことのない方からすれば、想像を絶するような出来事ばかりだろう。

しかし、だからと言って感情に振り回されていては、介護をしている側の心身を病んでしまう。それどころか認知症が悪化したり、最悪の場合、高齢者虐待といったケースに至ることも珍しくない。だからこそ、できる限りの認知症に関する基本知識や関わり方を学ぶということが大切なのだ。

スキルは自分の身を守ってくれる。認知症の方に有効な接し方はできないかもしれないが、自分の心は多少なりとも守ることはできる。それが多少の余裕につながり感情で自分を見失うことが少なくなる。

私も未熟者である立場であるが、高齢者介護および認知症ケアを通じて日常で「まぁ、このくらいで怒っても仕方ねーな」と思えることが増えてきた。

列に並んでいるところに横入りされたくらいならば微笑ましいレベルだ。
それで時間が空いたら、並んでいる間にスマホで読書でもすればいいと思っている。

案外、認知症ケアを学習しつつ仕事を通じて高齢者と関わることで、私自身の鍛錬になっているかもしれない。まあ、これもまた考え方と態度のあり方なのだろう。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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