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ご家族との関係性には、ビジネスライクに一定の線引きが必要

誰が介護サービスを依頼している?


高齢者介護サービスにおける直接のお客様は、当然ながら高齢者である。

しかし、高齢者ご本人から直接依頼があってサービス提供しているわけではない場合が多い(もちろんご本人の場合だって普通にある)。

では、誰が依頼しているのか?

――― それは主として「ご家族」である。

ここで言うご家族とは、その高齢者本人から見ての息子や娘・兄弟・姉妹・孫・姪・甥・・・といった当人との関りがある親族を差す。

地域や社会福祉に類する機関などが間接的に手配することもあるが、大抵の場合はご家族が心配して介護サービスを検討する。


介護施設を検討する理由


これは介護施設を検討することも同様である。

自ら介護施設を探し、そこを終の場所としようとする高齢者もいるが、大抵の場合はご自宅で悠々自適に暮らすことを望む。

しかし、ご家族から見れば「独り暮らしは無理だろう」「一緒に暮らしているけれど、仕事中に問題が起きたら困る」と考えて施設を探す。

今までのように悠々自適に暮らして欲しいと思うが、何かあったらのことを考えると心配で仕方がない。

特に、しばらく入院して身体機能や認知機能が落ちているとなると、自宅で前のように暮らせるわけがないと不安が増すだろう。

その安心感を担保できる場所として、介護施設を選ぶことになる。

特に介護施設においては、このような理由で入所を考えることは珍しくない。いや、むしろ今や普通と言っても良いだろう。


エンドユーザは高齢者本人


介護サービスのややこしいところは、直接サービスを受ける人(高齢者)と依頼する人(ご家族)が分かれていることである。

そのため、ときに高齢者本人は何が何だか分からないまま介護サービスを受けることになったり、介護施設に入所する(させられる)という認識になってしまうことがある。

そこをご本人にと理解いただいたり、馴染んでいただくことも介護サービスを提供することかもしれないが、いずれにせよ望まぬ介護を行うことになってしまうのは仕方がない。

なぜ仕方がないと言うと、これも介護としての仕事だからだ。
ドライな言いかたをすると、ビジネスだからやっているという話だ。

だからこそ、顧客たる高齢者の課題解決に遡及しうるサービスを提供することが介護従事者としての命題となる。

エンドユーザたる高齢者の心身の状態やこれまでの人生を受容し、自尊心を保持できように利用者本位で介護サービスを提供していくことが重要だ。


エスカレートするご家族の要望


しかし、ここでさらにややこしい事態になることがある。

直接的に介護サービスを提供する先は高齢者本人であるが、エンドユーザたる本人よりも依頼人であるご家族の意向が強くなってしまうことがある。

もちろん、介護サービスを提供する際に事前に作成するケアプランにおいては、確かにご家族の抱える課題や要望は聞き取りする。

しかし、ご家族の意向が介護サービスの範疇を超えてしまうことがある。

ときには、事業所や介護施設として踏み込んでほしくない場所に口や手を出してくることがある。

まるでモンスターペアレンツのような言い方で申し訳ないが、自分が愛する親を思うがあまり、あれこれと介護サービスへの要望がエスカレートしていくのだ。

こうなると、対象となる高齢者への介護サービスを遂行するだけでなく、そのご家族への対応や配慮にも目を向けなければいけなくなる。

もはや、一体誰に対して介護サービスを提供しているのか分からなくなる。


悪意のない言葉にモチベーションが下がる


もちろん、ご家族に悪意があるわけではない。

それどころか「いつも親の介護をしていただき、ありがとうございます」「大変でしょう」などと感謝や労いの言葉をかけていただく。

しかし、そのあとに「・・・でも」とか「・・・ところで」という続きとして、色々な要望や不満めいたことを言うときがある。

例えば、「面会のたびに、いつも同じ服ですよね」「施設ではちゃんと着替えをしているのですか?」と言われることがある。

当然ながら着替えはしている。いくらご本人がお気に入りでも不衛生なので、少なくとも入浴日には着替えて洗濯をする。

しかし、それはサイクルで行われるので、それがたまたま面会日と重なることから「いつも同じ服を着ている」「着替えさせているのか?」といった疑念につながると思われる。

お気持ちは分かるが、この手の言葉は施設職員のモチベーションを下げる。
平時で介助量が多い利用者の場合、「頑張って介護をしているのに、何でそんなことを言われなきゃいけないのだ・・・」と悔しがる職員もいる。

また、このような申し出から、急に面会にお見えになったときのために、直近の面会時の服をメモしておき、面会に来るときにわざわざ着替えるという対処までしているところもある。


仲良くしつつも関係性に線引きする


ご家族の申し出は分かるし、なるべく期待に応えたい。

しかし、何度も言うがエンドユーザは高齢者本人である。
要望や課題解決の先にあるのは、ご家族ではなく本人だ。

間接的にご家族の気持ちを和らげることはあっても、直接の支援対象者は高齢者本人という視点は忘れてはいけない。

そのためには、ご家族とはビジネスライクに線引きしたほうが良い。

「ここまでは介護サービスの範囲ですが、そこから先は別料金になります」
「ここまでは介護施設の対応範囲ですが、それ以上の要請は困ります」

と伝えてしまったほうが良いと思う。

これは私の考えでもあるので強制はしないが、案外、このあたりをちゃんと伝えると「え、そうなんですか。お願いしてもらえると思っていたので」といったように気づいていただけることもある。

あるいは「他の利用者様はここまでの範囲の支援としておりますよ」と伝えると、日本人の同調圧力みたいな感じで「他の人がそうなら仕方がないか」と納得いただけることもある。

下手に機嫌を損ねないように配慮したり、仲良くなったほうが円滑な関係性を構築できると思う管理者もいるが、その先にあるのは「何でも屋」だ。

しかも、料金が一切発生しない「何でも屋」である。
つまり、いい格好したわりにタダ働きだ。

それをご家族は料金の範囲内でやってくれていると思い込んでいるため、定期的に理解を調整するための説明はしておいて損はないだろう。


――― 介護という分野の話のわりに、何だか人間味のない記事と思われたかもしれない。

しかし、介護サービスも介護施設もビジネスである。
ビジネスには対応範囲と対価としての料金が明確になっている。

また、サービスを提供する先は「誰か」も明確とすることが前提である。
その「誰か」を間違ってはいけない。

高齢者介護ではご家族との連携は大切だ。
しかし、言いなりになるのはプロフェッショナルではない。

ビジネスとして、ちゃんと線引きするところはしよう。
もしもその線引きが曖昧ならば、それは事業所や施設の役職者、あるいは経営陣がちゃんと明確にしてあげることが必要だろう。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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