私の読書遍歴(2)
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今回は、大学から社会人初期の読書体験です。この時期に、私の社会と組織に対する考え方の基礎になってくれた次の3冊と出会っています。
◆辻 邦夫 『背教者ユリアヌス』
◆大岡 昇平『レイテ戦記』
◆開高 健『輝ける闇』
この3冊と向き合うことで私の中に培われた考え方は、今でも現在進行形で生きています。そこで、ここでは「本の紹介⇒そこから得たこと」という形でなく、「今の私の思い⇒それに関連する本」という形で紹介していきます。
1.「我がまま」と「社会的認知」
人間は、一人ひとりがこの世で唯一無二の存在であると同時に、社会の一員でもあります。「我」なくして人間は存在しえない一方、社会とのつながりなしでも人間は存在しえないと、私は考えています。
ですから、私たち一人ひとりの中には、二つの願望があると思うのです。
※自分の内側から湧き出てくるものに忠実に「我」として生きたい
という願望=「我がまま」願望
※現実世界の要請に応えて「社会の一員」として認められたいという願望
=「社会的認知」願望
この二つの願望の合計を10とすると、10の内訳は、人によって異なるだろううと思っています。《「我がまま」7:「社会的認知」3》 の人がいれば、《「我がまま」5:「社会的認知」5》の人や《「我がまま」3:「社会的認知」7》の人もいる。
私がこのような考え方をするようになったのは、
◆辻 邦夫『背教者ユリアヌス』
を読んだからです。
『背教者ユリアヌス』は、紀元4年に実在したローマ帝国の皇帝フラウィウス・クラウディウス・ユリアヌスを主人公に、彼と彼に関わる多数の人々の人生と帝国の命運を賭けた戦争・内乱を描いた一大叙事詩です。
驚くべき運命の転変。異性との運命の出会い。燃える恋・忍ぶ恋。権謀術数に誠意と忠誠、そして篤い友情……と、ドラマ性にあふれた作品です。辻邦夫は、歴史的事実を忠実にたどりながら、深い人間洞察と豊かな想像力で、ユリアヌスをはじめ多数の登場人物を見事に造形しています。
ユリアヌスは、ローマ皇帝の甥に生まれましたが宮廷内の陰謀に巻き込れて父を失います。彼自身も皇帝から疑心暗鬼で見られる存在となったこともあり、「社会的認知」に背を向けるようになります。
哲学者を志す彼は、《「我がまま」10》レベルです。もっとも、それが身の安全を守る現実的な選択でもあったことを、辻邦夫は見逃していません。
ただ、ユリアヌスの「我がまま」は損得抜きに純粋・素直に人を愛することでもあって、これが、後に彼の大きな助けとなります。
思いがけない運命の変転で、ユリアヌスはローマ帝国の副皇帝としてガリア(現在の西ヨーロッパ)での大規模反乱の鎮圧に派遣されます。
ここでユリアヌスは隠れていた軍事的才能を発揮して、反乱軍との戦闘に次々と勝利し始めます。
素直に人を愛する彼は、部下の兵士たちと現地の人々から愛され、それが彼の統率力の源となっていきます。彼は反乱を鎮圧し反乱軍に奪われていた領土の奪回に成功します。つまり、彼の「我がまま」が「社会的認知」を招き寄せたのです。
そのような彼の前に、宮廷内の《「我がまま」1:「社会的認知」9》レベルの人々が立ちはだかります。もっとも、こうした人たちの場合、内側から湧き出るものの中に権力志向が大量に含まれています。ですから、《「我がままの一部」1:「我がままの大部分+社会的認知」9》と見た方が適切かもしれません。ここでは、こういう人を《政治的人間》と呼ぶことにします。
《政治的人間》の中に、キリスト教の教会幹部がいます。313年にキリスト教がローマ帝国の国教となってからユリアヌスが誕生するまでの約半世紀の間に、教会幹部は帝国の支配階級の一員となっていたのです。
ユリアヌスはキリスト教関係の《政治的人間》に強く反発し、それが彼の関心を古代ギリシャ文化に向けます。
これまた思いがけない運命の変転で皇帝に座についたユリアヌスは、古代ギリシャの信仰をローマ帝国内で広めようとし、このためキリスト教に背いた人間、つまり「背教者」というレッテルを貼られることになるのです。
『背教者ユリアヌス』に出会ったことで、「我がまま」と「社会的認知」をどのように両立させていくかということが、私の人生の一貫したテーマになりました。この関心が、noteでこちらの共同運営マガジンを始める動機づけになったと思います。
私は、長らく休眠状態にありますが、メンバー・クリエイターの方たちが、深い専門知識に裏付けられた鋭い洞察を展開した記事を多数投稿してくださっているので、この機会に、是非ご一読いただければと思います。
2.計画変更
あれ、『背教者ユリアヌス』だけで、十分長くなってしまいました。当初の計画どおりに進めると、この回が長くなり過ぎそうです。
計画を変更します。今回はここまでとし、残りの2冊については、それぞれに1回を割り振って綴っていくことにします。
◆大岡昇平『レイテ戦記』⇒第3回
◆開高 健『輝ける闇』⇒第4回
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
《付記》
第1回で、中学時代に国語共通テストで読んだ小説の一節が『背教者ユリアヌス』のエンディングだったことを、大学生になって知ったと書きました。ですが、それは私の覚え違いだと思います。テストでは、使用した文章の出典が必ず明記されます。私はテストを受験したときに『背教者ユリアヌス』というタイトルを読んでいて、それが頭に焼きついていたから大学時代に手に取ったという可能性の方が高いと思います。
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