折田楓らmerchuが手掛けた広島市PRデザイン
株式会社merchuは2017年にSNSなどを通じて、自治体の企画のプロモーションやマーケティングを手がけ、ホームページ制作などを行っている。
この会社は2019年ごろ広島市の「SNS活用プロモーション業務」のコンペに勝ち、広島市をPRする仕事を行っている。
だが、merchuによって制作された広島PRサイト「広島tabi物語」のデザインが、2020年から現在に至るまで波紋を呼んでいる。
簡潔に言えば、このウェブデザインは原爆ドームを余りにも軽いノリで扱っていないかという声が噴出したのだ。
「じゃけぇ広島に恋しとる」原爆ドーム写真を修整 広島市観光サイト [広島県]:朝日新聞デジタル
折田楓(merchuの社長)のインスタグラム垢に対しても「折田楓さんたちは原爆ドームをInstagramの映えスポットかのように捉えているのでは?」という声があがった。
これらの件に関する反応をSNSで調べると、折田楓らに肯定的な意見も多くみられる。
「被爆者たちは市民らが平和に暮らしていく光景を望んでいたはずであり、原爆ドームの前で市民らが笑みを浮かべているのは被爆者たちが願っていたことなのでは」という意見が、その代表例であり、これは確かに一理ある意見だと強く感じる。
筆者は2回ほど広島観光をしたことがある。1度目は高校の修学旅行で、2度目は半年ほど前に一人旅で行った。
実際に原爆ドームの周辺を歩いて分かるのは「原爆ドームは広島市民の暮らしに深く根付いている」ということである。
原爆ドームの付近には広島平和記念資料館や広島原爆死没者追悼平和祈念館などのほか、商業施設が多数あった。
おりづるタワーという商業施設の1階にはカフェがあり、今年の7月にカフェの傍を歩くと、席に座りながら安らぎのひと時を過ごしている人々の姿が見えた。
カフェで微笑みを浮かべている人々に対して「明るい表情をするのは被爆者を小馬鹿にしている」などと考えるのは冷静さを欠いている。
そういったことなどを踏まえると、原爆ドームをPRするときに可愛い感じの兎のイラストやハートマークでデザインしてよいのか否かは、その目的によるところが大きいのではないだろうか。
グロテスクなものが苦手で被爆者の実際の写真を見ると目を背けてしまうような子供に対して、1945年の夏に広島で起こったことを伝えたい場合に、そのようなデザインを採用するのは一定の妥当性がある。
前衛芸術家が、マーケティングや売名のためではなく、既存の社会の枠組みに疑問を投げかけるために、世間一般の常識とは相いれない内容の作品やパフォーマンスを発表した場合も、その是非に対する議論が起こるにせよ、現代アート上における意義を考えることは出来る。
http://chimpom.jp/project/hiroshima.html
では、merchuは何故あのようなサイトデザインを採用し、折田は何故インスタグラムであのような投稿をしていたのだろうか。
折田らに関する報道を調べると、興味深いニュース記事があった。
「キラキラ感をみせて20代女性が憧れるように。あくまでも戦略的」merchu・折田楓社長(33)が漏らしていた“オシャレSNS投稿”のドライすぎる本音 | 文春オンライン
要するに、折田らは20代の女性を中心とした若者に幸せそうなキラキラ感をみせて憧れを抱かせる目的で、あのような写真をSNS(主にインスタグラム)で投稿しているということである。
折田らが、原爆ドームの前で、はしゃいでいるような自撮り写真を投稿していたのはマーケティング目的である可能性が高く、そうである以上、merchuがPRサイトで原爆ドームを可愛い感じの兎のイラストやハートマークでデザインしていたのもマーケティングの側面が強かったと考えられる。
原爆ドームは、アウシュヴィッツ強制収容所やロベン島(ハンセン病患者や反アパルトヘイトの政治犯などを収容した施設があった島)等で知られる「負の世界遺産」である。
例えば、アウシュヴィッツ強制収容所に足を運んだ者が、その収容所の前で、はしゃいでいるような自撮り写真を投稿していたら多くの社会人は違和感を抱くはずだ。
原爆ドームが現地の住民の暮らしに深く根付いているという側面があるにせよ、公の立場にある仕事を頻繁に受け持っている者が、キラキラ感のために負の世界遺産の前で、はしゃいでいるような自撮り写真を投稿したり、マーケティング目的で負の世界遺産を可愛い感じでPRしたりするのは問題があると言えるのではないだろうか。