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2023年11月に読んだ本

1 稲垣栄洋『面白くて眠れなくなる植物学』★★★★☆

YouTubeのゲームさんぽで見つけた面白おじさん。アブは黄色い花が好きで、ハチは紫色の花が好き。アブは春早くに行動し始めるのと、ハチより頭が悪くのべつ幕無しに蜜を吸うので、黄色い花を咲かせる菜の花などは他の花より一足早く一面に咲く。紫の花は頭のいいハチだけに蜜を吸わせるために複雑な構造をしている。とか、そういう雑学的な話がいっぱい書いてあって面白い。

2 井戸川射子『共に明るい』★★★★☆

井戸川射子、とてもよい。画家の家の近所を描いた風景画、スケッチのような何でもなさと何でもないからこその光。この人はこれからもっと評価されていくだろう。

3 稲垣栄洋『世界史を変えた植物』★★★★☆

一番好きな話はトウモロコシの話。トウモロコシは明確な祖先種である野生植物がない。しかも種は皮に包まれており、散布されない。人間がいなかったら繁殖できない家畜のような植物である。人間が育てる前はどうしていたのだろう。トウモロコシの起源地であるアステカ文明やマヤ文明では神々がトウモロコシから人間を作ったと言われていて、だから人間の肌の色もいろいろあると知っていた。(トウモロコシは黄色や白だけでなく紫や黒、橙などがある。)白人や黒人がアメリカ大陸にやってきたのは15世紀以降なのに、なぜいろんな肌の色がいることを知っていたのだろう。

4 北山あさひ『ヒューマン・ライツ』★★★★☆

コロナ禍、東京オリンピック、ロシアによるウクライナへの侵攻、阿部元総理銃撃、国葬、五輪汚職、とめどない物価高騰……。ものすごいスピードで迫ってくる絶望から、必死に逃げ続けた三年だったように思う。短歌はハーレーダビッドソンのごとく、わたしを乗せて暗闇をタフに疾走してくれた(じっさいにハーレーダビッドソンに乗ったことはありませんが)。

あとがき

深夜、デベロッパーに銀杏並木を切られないよう幹に抱きつく地元住民のような抵抗を感じる第二歌集。第一歌集も読んでみたいと思う。

月に魔力、がんもに浮力 わたしには詠めないことのある健やかさ

5 穂村弘『蛸足ノート』★★★☆☆

穂村弘の本は毎回装丁がいい。つい買いたくなる。電車の中で読むのがちょうどいいライトエッセイ。

6 國分功一郎『目的への抵抗』★★★★☆

前半部でコロナ禍におけるアガンベンの主張が分かりやすく解説されている。アガンベンは国家による移動の制限という非常事態が常態化していることを強く批判した。

移動の自由さえあれば、人間は様々な抑圧から逃げることがすくなくとも可能ではある。抑圧してくるものを打ち倒すことまではできなくても、それを避けることはすくなくとも可能ではある。

「移動の自由」は数ある自由のうちの一つではない。人間が自由に生きるための根本条件なのだ。このことを踏まえて移民や入管法の問題などを考え直してみると、より深く理解できるかもしれないと思った。
アーレントの目的について、「目的とはまさに手段を正当化するもののことであり、それが目的の定義にほかならない」、から人間の自由について考えていく後半部も分かりやすく面白く読んだ。

7 大城道則・芝田幸一郎・角道亮介『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』★★★★★

面白い。こういうの好物だ。人骨と二週間過ごしたとか墓の中に閉じこめられたとか手続きが大変すぎて一向に発掘調査ができないとかそういう考古学者ならではの話もありつつ、現地の人の文化や宗教に翻弄され、食に驚いている学者先生の辺境旅エッセイのようにも読める。

8 図野象『おわりのそこみえ』★★★★☆

文藝賞らしい作品。「愚かさが愚かさを呼び最悪で爆ぜるとき、ベタな映画の最後みたいに、派手な爆発が起こってみんなで逃げるんだけど、走りながら胸にこみ上げてくるのは何だろうこの比類なさはってこと。私は私でしかなく、ゆえに愛されているという、ずっと私が求めてやまなかったもの、こんなところにあったなんて何で今まで教えてくれなかったんだろう。普通にスルーしてたわ。もっと早く知りたかった、そうすればこんなことにはならずに済んだのに。でも私はこんなことにならないと分からないのだろう。救いようもないくらい馬鹿だから。なんか泣きそう。」みたいな小説。主人公、マジ傍迷惑だな~~~。しかし主人公とストーカーの関係性がとてもよい。誰にも理解なんてできないだろうししなくていいけど分かったようなこと言われるとマジでキレそう、って感じ。私もそういう関係性のことを書いていきたい。

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