見出し画像

2022年1月に読んだ本

若干遅れたが、今年も多読をする者の責務としてご報告を。月一でも続けるのって大変ね。ただ、こういう記録というのは毎日を一カ月やるより月一を三年やる方が意味があるのではないかと思う。もちろんそれは、あなたが何を記録したいかに依るのだが。

1 ケン・リュウ編『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』★★★★☆

購入は新宿紀伊国屋。随分前から巷で話題の中国SFをようやっと私も始めた。が、このアンソロジーを読んだ感想としてはまだ中国SFを始める必要はないのかもしれない。7名の作家の短編が収められているのだが、最後を飾るあの『三体』の劉慈欣が圧倒的すぎる。他の作家の作品も面白いところはあるのだが、いかんせん完成度が桁違い、劉慈欣が化物すぎる。

神は首を振った。
「この手で創造した文明を攻撃はせんよ。四兄弟のなかでおまえさんらが一番よかった。ゆえにこうして話しておる。ほかの三兄弟は侵略的じゃ。愛も倫理もない。想像を絶するほど残酷で冷血じゃ。じつは創造した地球は当初六つあった。二つはそれぞれ第一地球と第三地球とおなじ星系にあり、いずれも兄弟星に滅ぼされた。ほかの三つの地球が残っているのは、星系が異なり、距離が壁になっているからにすぎん。それら三つの地球は、この第四地球の存在をすでに知っておる。正確な座標もな。じゃから急げ。滅ぼされるまえに滅ぼせ」

劉慈欣「神様の介護係」より

詳細は割愛するが、伊達にも神様であるところの者が「滅ぼされるまえに滅ぼせ」と人類に助言するのが面白い。うーん、『三体』読むかー。

2 TAGRO『マフィアとルアー』★★☆☆☆

友人とまんだらけに行ってお互いのおすすめの漫画を買うという遊びをし、買ってもらった漫画。
華倫変と福満しげゆきのいいとこどりみたいだなと思った。短編ごとに随分絵柄が違うが何とも懐かしいタッチ。病んでるエロい女とか無職でうだつの上がらない30前後の男とか登場人物と設定は正直ありがちで独自性は感じられないのだが、他の人の短編にない独特のゆるさのようなものがあり、それが心地よい。
漫画とは直接関係ないんだけど、全編通して立川がよく出てくるので、昔立川で躁鬱の友人に若干新興宗教じみた詩の朗読会に連れて行かれたことを思い出した。「車のナンバープレートの数字に導かれてここに辿り着いたんだ」と言っていたが、彼は今でもそういうことはあるんだろうか。その朗読会?でオーガニックなティーとクッキーを食べたあと、無性にイライラしていきなりステーキに行き友人の分まで肉を食らったことを覚えている。

3 シャーリイ・ジャクスン『くじ』深町眞理子訳★★★★☆

帯に「黒い感情がにじみ出す傑作短編集」とあるので気になっていたのを新宿紀伊国屋で購入。あれ?とは思うがそれほど気に留める必要もないかとやり過ごしているうちにどえらいことになっていた、みたいな短編が多かった印象。じわじわ不安要素が増えていき最後にドンとオチが来る。まるで人生。正直めっちゃめちゃ面白かったという感じではないが、そこそこは面白かった、はず。はず、というのはページをペラペラめくっても内容を思い出せない短編が多いんだよね…。日常を洒脱に切り取ったような短編はあまり記憶に残らないことが多い。レイモンド・カーヴァ―っぽさもちょっとある。作者は割と彼が好きなんじゃないかな。

4 ヴァージニア・ウルフ『フラッシュ ある犬の伝記』岩崎雅之訳★★★★☆

三鷹のりんてん舎で購入。ルリユール叢書ので欲しかったのだよね。
面白い。ウルフの中でも笑えるコミカル系、『オーランド―』寄りの小説。犬を擬人化した小説という印象にならないのが凄い。どちらかというと作者が擬犬化して小説を書いている。意外にぴゃーっと読めた。最近やたらウルフの新訳が出ているがウルフはゆっくり、気が向いたときに一冊ずつ読んでいこうと思う。

5 遠野遥『教育』★★★★☆

一日三回以上オーガズムに達することが課される学校で繰り広げられるディストピアもの、ということで文芸誌に載った頃からずっと気になっており、単行本を待っていた。例のごとく新宿・紀伊国屋で購入。
主人公は前作『破局』とすごく似ている。『破局』の主人公が『教育』の世界線にやってきたという感じ。女との関わり方も目上の人への媚び諂い方も相変わらずムカつく。この小説は設定自体は面白いし、現代社会に対する批判なども読み込めるとは思うのだけど、登場人物やストーリー展開はどうしても『破局』との類似点の多さが気になってしまう。私は第一作の『改良』が一番好きなんだよ。何で好きかというと『改良』の主人公は己を思想を貫くための犠牲を払っているから。最後めたんこにやられるという点では『破局』も同じなんだけど、『改良』の方でのやられ方と『破局』でのやられ方は意味が違う。『改良』には自己と他者の闘争があるが、『破局』にはない。『破局』および『教育』の主人公は全く自己を揺さぶられていないのだ。思いやりや情けなども人並みにあるが冷淡で計算高く世渡り上手な主人公というのはたしかに遠野遥の文体のよさを出しやすいんだろうけども、私は遠野遥の人に社会に認められなくても自分を突き通す主人公の話がもう一度読みたい。というかそれより、この主人公をめちゃめちゃ手痛い目に遭わせたい。成績優秀で端正なルックス、女にもモテるというスペックがまったく通用しない世界にぶち込んでやりたい。そうなったとき世界に対して同じスタンスが取り続けられるのか見てみたい。この作家はこれからも追っていきたいとは強く思わされた。

6 レイモンド・カーヴァ―『象』村上春樹訳★★★★☆

新宿・紀伊国屋で購入。
最晩年の作品集。たしかに初期のブツ切れ感や中期の充溢感とも違う、バラバラ感、ポツポツ感がある。ちょっと建物があって、何もなくなって、またちょっとあって、また何もなくなって、というような田舎のロードサイドのような、ちょっと疎らで寂しい感じがある。
しかし村上春樹翻訳ライブラリーを読むたびに思うが村上春樹の解題がすばらしい。作品の理解が深まるので解題だけでも読む価値があると思う。マジ余計なこと言うなクソが!と思うような解説っていうのはしばしばあるのだが、さすが世界の村上春樹である。

7 サガン『悲しみよ こんにちは』★★★★☆

サガンを読んだことがなかったので荻窪のブックオフで買ってみた。町田のブックオフに慣れていたので都内のブックオフは本当に小さいと思う。どこもせめて荻窪くらいの広さはほしい。

そして愛の輪舞曲ロンドが始まった。怯えが欲望に手を差し出し、やさしさ、激高、やがて荒々しい苦痛から、勝ち誇るような快楽へ。わたしは幸運だった。――それにシリルにもこまやかなやさしさがあった――この日から快楽を味わったとは。

笑ってしまうような性描写。これを19歳で書いたとは、金原ひとみばりの衝撃がある。いや逆か、金原ひとみにサガンばりの衝撃があったのだ。軽薄で一人でいられないタイプの人間の残酷さが的確に描かれている。私はこの話を読んで江國香織の『がらくた』を連想した。かなり近しいところのある小説だと思う。『がらくた』は江國香織がサガンをオマージュして書いていても不思議はない、むしろ納得感のある小説。

8 島口大樹『オン・ザ・プラネット』★★★★☆

前作が面白かったので単行本化を楽しみに待っていた。例のごとく新宿紀伊国屋で購入。結局いつもここで買ってしまう。
前作で好評だった一人称多重視点は封印、主要登場人物は変わらず4人で普通に三人称。ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』を観てから読めばさらに面白いのだと思う。でも何だろう、2作目として妥当な内容で、1冊目の衝撃があった分ちょっと物足りなかった。前作の4人がみんな何かしら暗いもの重いものを抱えていた分、今回の4人が大学のサークルっぽいわちゃわちゃ感を出していたのが嫌だったのかも。

9 リルケ『リルケ詩集』富士川英郎訳★☆☆☆☆

リルケを読んだことがなかったので荻窪のブックオフで購入。
ごめん、何とも思えなかった。感性がないのかもしれない。もっと丁寧な解説がないと読めない。分からない。神の詩が多いのもキツイ。

10 榎本俊二『ムーたち1・2』★★★★★

たしか川上未映子の愛読書でずっと探していたのを西荻窪・音羽館で発見、購入。
2巻の漫画で短編集。シュールでギャグテイストなのだが、テーマが哲学的。というかほとんど統合失調症。お笑いと統合失調症と哲学の近似性を端的に表してしまっている作品。面白い。絶版なので私も見つけるまで苦労しており、なかなか見つけられないがぜひ読んでみてほしい。直接の知り合いは貸し付けます。

11 レイモンド・カーヴァ―『愛について語るときに我々の語ること』★★★★☆

相当状態のいいものを三鷹・水中書店で発見したので購入。
レイモンド・カーヴァ―は小説を何度も書きなおしており、版が複数あるものも多いという。この短編集には『大聖堂』に収録されている「ささやかだけれど、役にたつこと」のショートverである「風呂」が収められている。私は「ささやかだけれど、訳にたつこと」の方が好きだな。読者としてはバージョン違いを読めるのは面白いのだけれど、作家としてはどうなのだろう。自分がファイナル原稿にしたもの以外が出回っている状態は私だったらかなりむしゃくしゃしてしまいそう。
短編集の最後に収められており、かつ短編集の表題にもなっている「愛について語るときに我々の語ること」はこの短編集の中では群を抜いて出来が良く、かつ長めでもあるので、村上春樹の言うとおり、たしかに次の『大聖堂』に収めた方がよかったのではないかと思った。

12 ヘミングウェイ『老人と海』福田恆存訳★★☆☆☆

ヘミングウェイも読んだことがなかったので荻窪のブックオフで購入。
ハードボイルドな情景描写。読んで面白いものではないが、病者の仕方など書き手としては学べるところの多い小説だと思った。

13 福田恒昭『よるのくに』★★☆☆☆

新宿・紀伊國屋で気になったので買ってみた。思潮社の標準的な規格の詩集。
超ミニマムに削いだ短編のような味わい。言葉少なに語る物語。内容は90年代サブカル系の漫画のよう。キャラクターを用い性や死をテーマにしている点などは私の作風とも通づる部分があるが、私のように日本語を崩したり暴れさせたりはしておらず、物語のテイストが強い。これはこれでひとつ極められそうな作風だなと思った。

14 チェーホフ『かもめ・ワーニャ伯父さん』★★★★★

チェーホフも読んだことがなく、話題の映画『ドライブ・マイ・カー』が思いの外よかったので劇中作である「ワーニャ伯父さん」を探していた。古本屋で見当たらなかったので新宿・紀伊國屋で購入。はじめて演劇のコーナーを覗いた。
まずはじめて戯曲を読んだ。ほとんど台詞オンリー。読んでいると誰が誰だかすぐ分からなくなるので何度も最初のページの登場人物紹介に戻らなければならない。
どちらの話も生きることは死ぬことより辛い、という厭世観に貫かれているとは思うのだが、前向きな、それでも生きていこうとする人が描かれている。生きること、死ぬこと、そして働くこと、それらがどういうことかという人生哲学が展開されている。

舞台に立つにしろ物を書くにしろ同じこと。わたしたちの仕事で大事なものは、名声とか光栄とか、わたしが空想していたものではなくって、じつは忍耐力だということが、わたしにはわかったの、得心が行ったの。おのれの十字架を負うすべを知り、ただ信ぜよ――だわ。わたしは信じているから、そう辛いこともないし、自分の使命を思うと、人生もこわくないわ。

「かもめ」第四部より

出だしはまずまず好調。今年は星をつけてよさを分かりやすく、目次をつけてより読みやすくしようと思う。余裕があれば去年一昨年の記事もこの仕様に直す。私の好きそうな本があれば遠慮せずどしどし教えてほしい。人生が変わってしまうほど面白い小説に出会いたい。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集