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バイデンの演説の翻訳比較その8

バイデン大統領就任演説について、新聞各紙がどう翻訳したか?を調べています。今回取り上げるのはコチラ。

This is a great nation and we are a good people. Over the centuries through storm and strife, in peace and in a war, we have come so far. But we still have far to go. We will press forward with speed and urgency, for we have much to do in this winter of peril and possibility.Much to repair. Much to restore. Much to heal. Much to build. And much to gain.

今回まず、気になったのが
「peril and possivility」の部分。

●「京都新聞」は「危機と重要な可能性」
●「読売新聞」は「危険もあれば可能性もある」
●「朝日新聞」は「危機であり可能性もある」
●「産経新聞」は「危機と重要な可能性」
●「日経新聞」は「危険と可能性」です。

「possibility」が「可能性」ということくらいはさすがに私でもわかります。おそらく「peril」が「危機」とか「危険」という意味なのだろうと調べてみたらビンゴでした。
気になるのは「京都新聞」と「産経新聞」が「可能性」にくっつけてる「重要な」です。
どこにもそれを意味する言葉がありません。

これはひょっとすると、また新聞社ごとにバイデンの演説の文字起こしが違っているのかもしれません。私は「朝日新聞」をベースにしているのですが、試しに「京都新聞」を確認してみたところ、「peril and significant possibility」と書いてありました。やっぱり!(※ちなみに「読売新聞」「産経新聞」は英語の原文を掲載していません。「重要な」と訳していない「日経新聞」は「京都新聞」と同じ「peril and possibility」でした)
「significant」の意味を調べたところ、やはり「重要」でした。

ピンポイントで目的意識を明確にしたうえで調査していけば、アホでもけっこう簡単に答えに辿り着けるものです。アホの学びにとって最も重要なことだと思います。しかし、どうして「significant」なんていう、聞き逃さなさそうな単語が「京都新聞」と「産経新聞」以外では弾かれてしまったのでしょうか。何か意図があるとしか思えないのですが、その意図が何なのかはアホなのでわかりません。

もう一つ、気になったのが、「We have come so far」。各紙の訳し方はといえば、

●「京都新聞」は「ここまでやってきた」
●「読売新聞」は「〜経てきた」
●「朝日新聞」は「私たちはここまで来ました」
●「産経新聞」は「私たちはここまで来た〜」
●「日経新聞」は「ここまでやってきた〜」

「come so far」は物理的な距離や進歩について、「こんなところまで来た」という使われ方をするようですが、なぜこれが気になったかといえば日本語の「思えば遠くへ来たもんだ」と同じだと思ったからです。日本語も英語で同じ言い回しがあるんだな〜と感心したわけですが、いや、ちょっと待てよ。ひょっとしたら日本語の「思えば遠くへ来たもんだ」は英語の「come so far」が由来なんじゃないのか?と思いまして、日本語の「思えば遠くへきたもんだ」で始まる中原中也の「頑是ない歌」のことを調べてみたのですが、やはり、そんなことは簡単には答えは出てきません。

とりあえず、概要だけ調べるのに役立つのがウィキペディア。ということで中原中也のことを調べてみたら1907年4月29日生まれ、1937年10月22日死去。日本の詩人、歌人、翻訳家とあります。

翻訳家!!!と俄然テンションが上がったのですが、専門はフランス語でした。むむむ。しかしひょっとしたらフランス語発の言い回しかも!!などと割と意地になってしまったのですが、よくよく考えてみたら、「思えば遠くへ来たもんだ」なんていう感慨は、おそらくどの言語圏に暮らす人たちも持ち合わせているものなんじゃないかと思い直しました。

私は危うく、間違った道を進みそうになりました。アホの学びにとって大事なのは、とにかく道を誤らないことです。時には引き返すことも大切です。どうしてもそれまでの苦労や時には費用、あるいは面子などを考えて、「いまさら引き返せない」と思いがちですが、(この心理をコンコルド効果という)これが危ない罠なのです。

そう!そうなんだよ!涌井くん。
涌井くんもようやくそこまでたどり着いたんだね! I have come so far.


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