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読書の記録 平田オリザ『わかりあえないことから』

もうずいぶん前になりますが『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した宇佐見りんさんが何かの雑誌で「影響を受けた本」を何冊か挙げていて、確か、そのうちの一冊やったから買ったんやと思うんですが、もう忘れてしまいました。

近年、新入社員に最も求められる「コミュニケーション能力」。はてさて、しかし、これって実は何なんだろうか?ということをいろんな切り口から紐解いている本書。

たとえば。上司が部下に、コピーをとることを指示するとき、適切な言葉は次のうちどれでしょう。

1「これ、コピーとっとけよ」
2「これ、コピーとって頂戴」
3「これ、コピーとって」
4「これ、コピーとってください」

男性の上司が、男性の部下に、「1」と言っても、あまり違和感はない。いや、一昔前ならそうだっただろうが、いまは少し乱暴だと受けとる部下もいるだろうか。

↑と書いてあるんですが、これが書かれたのはもう十年以上前です。いまならおそらく限りなく「アウト」に近いのではないか。

一方、女性の上司が男性の部下に、同じことを言ったらどうだろう?これは確実に、ちょっときつい感じに聞こえるだろう。しかし、それは差別ではないか?現代日本語はまだ、同じ言葉を使っても、女性が不利になるようにできている。と文章は続きます。十年以上前、正確には2012年に出版されているので、少なくとも十一年以上前の文章です。

「2」はどうだろう。
女性の上司が男性の部下にこれを言っても違和感はない。しかし、男性の上司が言ったらどうだろう。まぁ、ほとんどの人は、戸惑うに違いない。これもある意味、差別、偏見かもしれない。と文章は続きます。

では、一番適切なのはどれか。
やはり、男女を問わず、職場では、「4」のような少し丁寧な言い回しを、役職の上下に問わず地道に習慣づけていく。それ以外に、新しい「対話」の言葉を定着させる方策はない。と著者は言い切り、言葉遣いをもっとも改めなければならないのは、年長の男性だと断言します。

これについては反論も予期してあり、「そんなことに目くじらを立てる必要があるのか」「それはオレの個性だ。強制されたくない」と言う人もいるだろう。と書きながら「ただ、そういうことをおっしゃる方の大半は、中高年の男性だ」とも書いています。「言語的な権力を無自覚に独占している年長の男性が、まず率先してこの権力を手放さなければならない」とも。

これはほんの一例。本書では日本型コミュニケーションの抱える問題点を露呈し、その解決策を提示してもいます。

何箇所も印象的な言葉はあったのですが、その中のうちの一箇所を引用しておきます。

社会的弱者と言語的弱者は、ほぼ等しい。私は、自分が担当する学生たちには、論理的に喋る能力を身につけるよりも、論理的に喋れない立場の人びとの気持ちをくみ取れる人間になってもらいたいと願っている。

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#平田オリザ #わかりあえないことから

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