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令和6年読書の記録 星新一『ひとにぎりの未来』

#読書感想文
 
 星新一の文章には定期的に触れておきたくなります。簡潔でありながら不足しているものがなくとにかくわかりやすいし、これは巻末の解説に荒巻義雄さんという方が書いていて「確かに」と思ったのですが、星新一の小説は舞台がいつ、どこなのかわからないんです。例えば、星新一は「電話する」とは書いても、「ダイヤルを回して掛けた」とか「プッシュフォンを押して電話した」とは決して書かない。そのように書いてしまうと時代が限定されてしまうからです。

 それに、星新一の小説には「エヌ氏」が頻出しますが、この「エヌ氏」がどんな肉体的特徴を持つのか、全く書かれていません。余計な情報をなるべく排除しており、それが読みやすさにも繋がったいるし、どこか不気味な空気を醸成してもいるし、想像力を掻き立てられもするのです。

 今回読んだ『ひとにぎりの未来』にはショートショートが40編収録されているのですが、登場人物の肉体的特徴が描かれず、時代も場所も特定されないお話が40編ってすごいですよね。

 ほとんどの話には痛快な「オチ」が用意されており、起承転結の整った文章がたまらなく気持ちよかったりするのですが、収録作品のうち、『くさび』というお話だけは、いつもの星新一節とでもいいたくなる気持ちのいい「オチ」がなく、「え?結局この話はどういうことやったん?」というものすごい後味の悪さが残るお話で、それゆえに他のどの作品より際立って印象に残りました。

 星新一が書いていた頃には存在しなかったインターネットというものがあるので、「星新一 くさび」で検索をかけてみたところ、私と同じように気持ち悪さを感じた方がたくさんおられまして、それぞれが『くさび』について考察されておりましたが、「やっぱりみんな意味がわからなかったんやな」ということだけ確認して詳しくは読みませんでした。

 私が生まれた頃に書かれた未来予想図は今読むと荒唐無稽でありながら、科学の進歩が孕む危険性にちゃんと警鐘を鳴らしていて相変わらずめちゃくちゃ面白いから、また忘れた頃に星新一を摂取せねばと思います。

「くさび」が気になる

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