見出し画像

【デジタル教科書】令和6年に向けて、技術的な課題を検討するグループを設置

GIGAスクール構想が本格化する中で、ICTを活用した教育の質を高めていくために重要な役割を担うのがデジタル教科書です。現行のデジタル教科書は、平成30年(2018年)の学校教育法等の一部改正により制度化された基準と令和元年に示された基準をもとに運用されていますが、令和6年に向けて少しずつそのあり方や運用方法に関する議論が進められてきています。

この議論を進めているのが令和2年度から設置された「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」という検討会議で、令和3(2021)年6月に検討結果をまとめた第一次報告を公表しました。この第一次報告は、令和6(2024)年度に本格実施を目指し全国的な実証研究の成果を踏まえつつ、技術的な課題についても専門的な検討が必要であると報告をしました。

この報告を受けて、令和3(2021)年6月11日に「デジタル教科書の普及促進に向けた技術的な課題に関するワーキンググループ」が設置され、7月15日に第一回会議が実施されました。今回は、デジタル教科書の変遷に目を向け、「このワーキンググループがどのような立ち位置で何を検討していくのか」についてまとめたいと思います。

1.デジタル教科書の制度の変遷

平成30年からの制度について簡単にまとめておきたいと思います。

● 平成30(2018)年
デジタル教科書は、学校教育法等の一部改正等により制度化
 ・紙の教科書の内容の全部をそのまま記録した電磁的記録であることとさ
れた
 ・文部科学省告示において、各教科等の授業時数の2分の1に満たないこととされていた

● 令和元(2019)年
一定の基準の下で、必要に応じ、教育課程の一部において、紙の教科書に代えて使用することができることとなる

● 令和2(2020)年
「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」発足

● 令和2(2020)年12月
「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」中間まとめ公表
 →平成30年の文科省告示の授業時数の2分の1ルールの基準撤廃を提言。現在は実質的に基準が撤廃された状況となっている。

● 令和3(2021)年6月
「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」第一次報告を公表

● 令和3(2021)年6月
「デジタル教科書の普及促進に向けた技術的な課題に関するワーキンググループ」が設置
 設置期間:令和3(2021)年6月11日〜令和5(2023)年3月31日

● 令和6(2024年4月)年度
各学校へ本格導入

2.デジタル教科書の普及促進に当たっての望ましい姿〜ワーキンググループの検討課題〜

本ワーキンググループでは、大きく分けて3つの検討課題が示されていますが、少々毛色の違う課題が同列に並んでいます。
1つ目の検討課題では「デジタル教科書の普及促進に当たっての望ましい姿」について取り上げ、2つ目・3つ目は、1つ目の検討内容の中で特に重要な内容(「機能や操作性」「過年度の引き継ぎ」)についてピックアップしているという構成になっています。なので、まずは1つ目の「望ましい姿」だけをまとめていきます。

● 一度の認証で複数会社の複数教材を閲覧できる
 現在、デジタル教科書やデジタル教材は、さまざまな会社がすでに独自の仕様で開発を進めています。しかし、会社や科目ごとにデジタル教科書にアクセスするとたいへん使いづらいため、一度の認証で複数の会社の複数のデジタル教科書やデジタル教材を閲覧できるようにする方法を検討していく流れになっています。特に、「どの教材を誰に閲覧させるのか」を決めるライセンスについて「どのように管理していくのか」ということについては重要な課題となります。
● まとめ窓口をつくる
 一度の認証で複数会社のデジタル教科書やデジタル教材みれるようになっても、デジタル教科書やデジタル教材を使用するために、各会社のさまざまなサイトを見に行かなければならないということでは使いづらいですね。そこで、複数の様々な学習ツールを一覧で見ることのできる「学習 e ポータル」(まとめサイトのようなもの)の窓口機能についても検討されるようです。
● コンテンツにコードをつける
  複数のデジタル教科書やデジタル教材を使うということは、両方を連携させながら学習するという場面も出てくるでしょう。その連携をスムーズに行うために、デジタル教科書やデジタル教材に単元の情報など付与しておくことが検討されています。そこで利用される情報が、最近規定された学習指導要領コード等の情報(メタデータ)です。学習指導要領の内容にコードがつけられ、デジタル教科書内にある「単元A」に関する情報とデジタル教材にある「単元A」に関する情報を見つけやすくするという使い方ができます。
● 記録・保存を考える
 スムーズに学習できる状態が実現できたとして、日々の学習では書き込みなどの学習記録を記録・保存しておく場面が出てきます。この学習情報を記録する方法や保存場所をどこにするのかということについても検討していくようです。

3.「最低限の機能や操作性」と「過年度の在り方」について

 現在のデジタル教科書はビューア(デジタル教科書を開くための専用ソフトや機器のこと)ごとに様々な仕様によって制作されており、企業や教科ごとに機能や操作性が異なっています。そのため、先生がデジタル教科書を導入・管理する際や、先生・児童生徒が使用する際の利便性を向上させるために、一定の標準化を図る必要があるとされています。
 とはいえ、すでに各企業はデジタルを使った教育について独自で考え、ビューア機能にも教育の質を高めるための工夫が凝らしてしまっています。そこでこのワーキンググループのスタンスとしては、ビューアの仕様を完全に統一するのではなく、標準的に備えることが望ましい最低限の機能や操作性について検討することにしています。例えば以下のようなことがあげられています。

<統一されることが望ましい仕様>
・デジタル教科書の使用開始時に必要なアカウントの設定に係る手順、登録すべき情報、入力項目の表示順等の様式
・学校や設置者が使用する管理画面に表示される情報
・アカウントやパスワード等の管理方法・セキュリティ
・クラウド配信におけるデータのダウンロードの方式(キャッシュやストリーミング配信の利用を含む)

<標準的に備えることが望ましい機能や操作性>
・当該機能の特徴(例:ペンの太さや色、ルビ振りの範囲等)
・当該機能の操作性(例:ペン、消しゴム、ページ移動、拡大縮小等のボタンの位置・形・大きさ等、コマンドの階層)
※特別な配慮を必要とする児童生徒にニーズのある機能についても考慮する

<クラウド配信で使用するデジタル教科書を一時的にオフラインで使用でき
るようにするための仕組み>

・災害時や家庭環境等によって、通信環境が一時的に確保できない場合に、デジタル教科書を使用するための方法や備えるべき仕様等

また、過去使用したデジタル教科書やデジタル教材の閲覧や学習記録に関することについても一定のルールが必要になってきます。「小学校3年生に勉強したものは小学校3年生の間しか見られない」ということになると振り返りや学び直しができないということになってしまいますからね。
だからと言って、膨大な学習データを溜め続けておくというのもサーバーコスト(データを溜めておくにもお金がかかる)の観点などから無尽蔵にというわけには行かないでしょう。
そこで下記のことが検討される予定となっています。

・適切なライセンス期間(使用可能な期間)
・ 複数年にわたりデジタル教科書を使用可能にするための仕組み(クラウド
配信/ダウンロード方式(仕組みによりかかる費用の違いも考慮))
・ デジタル教科書を複数年継続使用する場合のアカウントの継続方法

この機能の標準化などは、デジタル教科書が検討され始めた頃、教科書会社が連携してCoNETS(コネッツ)と呼ばれるコンソーシアムで実現していこうとしていました。しかし、各企業にやりたいことがあり、うまく行かなくなったという歴史があります。だからこそ、文科省が主導で進めていくことには意義があると思いますし、各企業の思惑などをどのように今後取りまとめて行くのかが大変気になるところです。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?