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著名な映画監督が手掛けた80年代洋楽PV10選+α

MTVの放送開始によって80年代は様々なPV(プロモーションビデオ)が作られました。その中にはハリウッドで活躍する映画監督、または後に映画監督として成功する人物が手掛けたもPVも多数存在し、この記事では彼らが手掛けたPVを一つずつ紹介していきたいと思います。

1.ジョン・ランディス→マイケル・ジャクソン「スリラー」(1982)

80年代を代表するスターであるマイケル・ジャクソンによる80年代を代表するPV。監督は「ブルース・ブラザース」「星の王子 ニューヨークへ行く」等を手掛けたジョン・ランディスで、彼が81年に監督したホラー映画「狼男アメリカン」を観たマイケルが彼にコンタクトを取り撮影が実現。冒頭の「映画」のシーン、ナレーターに60年代を中心にホラー映画に多く出演していたヴィンセント・プライスを起用した事等から伺えるように、クラシックホラーへのオマージュが存在し、マイケルとオーラ・レイ演じるガールフレンドが映画館を出るシーンではヴィンセント・プライスが主演した「赤死病の仮面」、「肉の蝋人形」、そしてジョン・ランディス監督の「シュロック」のポスターが映ってます。特殊メイクは「狼男アメリカン」でもそれを担当したリック・ベイカーで、マイケルの「変身」シーンは一見の価値アリ。

2.マーティン・スコセッシ→マイケル・ジャクソン「バッド」(1987)

「スリラー」と並び、短編映画のような趣を感じるこれまた有名なPV。監督は「タクシー・ドライバー」や「グッドフェローズ」、「アイリッシュマン」等で有名なマーティン・スコセッシで、時にストリートを舞台にしたバイオレンスを得意とする監督。脚本はマーティンとも86年に「ハスラー2」でも組んだリチャード・プライス。マイケルと共演するのは「ブレイド」シリーズでも有名なウェズリー・スナイプスで、彼は不良グループのリーダー役を演じています。PVの内容は優等生でありながら強盗を企て射殺された青年、エドマンド・ベリーの事件をベースにしており、上層階級と下層階級の板挟みになり仲間からは否定される中、本当に「かっこいい奴(=バッド)」は誰か教えてやる、という流れ。前半のドラマパートはモノクロ、後半の歌唱シーン以降はカラーとなっており、後者にはマイケルの意思表示的な歌詞も相俟って非常に開放感に溢れています。日本人としては日の丸バンダナのアジア人ダンサーが気になる所ですが、日の丸ではなく薔薇だそうです。下記のアル・ヤンコビックやとんねるずのパロディも有名ですね。

・アル・ヤンコビック「ファット」

3.ブライアン・デ・パルマ→ブルース・スプリングスティーン「ダンシング・イン・ザ・ダーク」(1984)

アメリカンロッカーの代表的一人であるブルース・スプリングスティーンのPVを担当したのは「キャリー」「スカーフェイス」「アンタッチャブル」でも有名なブライアン・デ・パルマ。個性的なカメラワークやアングルで知られる彼ですが、このPVではそれら彼らしい個性はあえて抑え、ブルースの個性を尊重したのか臨場感溢れるライブ会場の熱気をシンプル且つストレートに表現。終盤ステージに上がる女性はコートニー・コックスで、彼女とその友人達がコンサート会場へ向かうシーンも撮影されましたがそれは使用されなかったそう。

4.トニー・スコット→ジョージ・マイケル「ワン・モア・トライ」(1987)

ワム!のジョージ・マイケルのソロアルバム「フェイス」収録で全米1位獲得のバラードのPV。監督したのは前年に「トップガン」を大ヒットさせたトニー・スコット。ド派手なアクションのイメージが強い彼ですが、ここでは派手な演出を(曲の雰囲気を考えれば当然ながら)排したことで曲が際立つと同時に、廃墟に近い部屋で孤独に歌うジョージにワム!の時代には無かった影の魅力を感じさせます。窓から差し込む微かな光、そよぐカーテン、中盤鏡にハートを描こうとするも断念する演出も印象的で、映像の質感もこの時代らしくて気に入っています。ちなみに、トニー・スコットはいかにもアメリカンなハリウッド的大作を数多く撮った人物ですが、意外にもジョージと同じイギリス人です。

5.デヴィッド・フィンチャー→ポーラ・アブドゥル「ストレイト・アップ」(1988)

「セブン」「ファイトクラブ」「ソーシャル・ネットワーク」等で知られるデヴィッド・フィンチャーは、映画監督としてのキャリアを築く前に数多くのプロモーションビデオを手掛けており、ポーラ・アブドゥルの代表曲の一つとして知られるこの曲のPVも彼が監督したもの。振付師・ダンサーとして評価の高い彼女のダンスをフィーチャーするのは勿論、モノクロをベースに陰影を強調した映像や細かいカット割り、歌詞を所々にサブリミナル的に表示させる演出等は今観てもスタイリッシュで、MTVビデオミュージックアワーズでは4冠を獲得したのも納得の出来。ポーラの友人でコメディアン・司会者で知られるアーセニオ・ホールも出演しています(フィンチャーが手掛けたPVに関しては機会が有ればまた取り上げます)。

6.マイケル・ベイ→リチャード・マークス「アンジェリア」(1989)

フィンチャー同様、「アルマゲドン」「バッドボーイズ」「トランスフォーマー」シリーズで有名なマイケル・ベイも映画より先にPVの製作・演出のキャリアを築いています。監督したこのリチャード・マークスの大ヒットしたバラードのPVでは、タウニー・エリス演じるアンジェリアとの回想シーンをセピア色で切なく、美しく表現。中盤のサックスソロ直前にはグラスが落下して砕けるシーンを入れることでアンジェリアに起こる悲劇を示唆する等、後に監督した映画のイメージからは良い意味で乖離した(?)ナイーブなセンスが光ります。

7.トビー・フーパー→ビリー・アイドル「ダンシング・ウィズ・マイセルフ」(1983)

「悪魔のいけにえ」「ポルターガイスト」といったホラー映画系の監督で知られるトビー・フーパーがパンクロッカー、ビリー・アイドルと組んだPV。終末世界、所謂ディストピア的世界観の中ビルの屋上で特殊なメイクと衣装の浮浪者達に囲まれ歌い叫ぶビリーの姿は退廃的で本人のイメージとマッチ。序盤(0:52-0:54)辺りに登場するガイコツと人形はホラーらしさが垣間見え、セットや全体的な雰囲気は「マッドマックス」にも相通じるものが。エレベーターで上昇するビリーの肌にかかるシルエットも格好良いですね。

8.ラッセル・マルケイ→デュラン・デュラン「プラネット・アース」(1981)

映画では「ハイランダー」シリーズや「バイオハザード3」「スコーピオン・キング2」等で知られるラッセル・マルケイは80年代で最も成功したPVの監督の一人としても知られ、特にデュラン・デュランの数多くのPVの監督を担当しています。彼らの活動初期にリリースされたこの曲のPVも独特のビジュアルのセットにやや前衛的もしくはシュールな演出が加わり、メンバー達の意見等もある程度反映しているかもしれませんがラッセル本人の個性や美学が垣間見える作品に仕上がっています。

9.アレックス・プロヤス→クラウデッド・ハウス「ドント・ドリーム・イッツ・オーバー」(1987)

「クロウ/飛翔伝説」「アイ・ロボット」「キング・オブ・エジプト」で有名なアレックス・プロヤスも元々PVでキャリアを積んだ監督の一人。同じオーストラリア出身のクラウデッド・ハウスのこの大ヒット曲のPVは皿が所々で割れたり様々な雑貨が浮遊したり、横にスクロールするカメラワークでメンバーが部屋から部屋へ移動する所をひたすら撮る手法等、今観てもかなり斬新なPVです。

10.アンディ・ウォーホール→ザ・カーズ「ハロー・アゲイン」(1984)

ポップアートで有名なこの方もPVを手掛けています。映画監督というよりは画家のイメージが強いかもしれませんが「チェルシー・ガールズ」「エンパイア」「悪魔のはらわた」といった様々な作品を監督しており、80年代にはこのザ・カーズのPVの監督を担当。ザ・カーズのPVは「マジック」「ユー・マイト・シンク」といいかなり斬新なものが目立ちますがこれは特に癖が強く、アンディ本人もバーテンダー役で出演。討論番組でインタビュー中の最中、突然(Car(s)だけに?)車が飛び込んで来る演出から度肝を抜かれます。

まとめ

如何でしたでしょうか。やや意外な監督が意外な人のPVを手掛けていた発見が有ったかもしれません。他にも著名な映画監督が手掛けた80年代洋楽のPVが存在し、ここで挙げたデヴィッド・フィンチャー、マイケル・ベイ、ラッセル・マルケイらに関してはかなりの数のPVを手掛けているので今度は監督別に作品を取り上げてみるかもしれません。




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