第9章 ついにたどり着いた最後の治療。新たな病院で臨んだ陽子線治療の全貌
最後の治療が「陽子線治療」と決まるまで
2つ目の治療である幹細胞移植を乗り越え、3つ目の治療に進むことになりました。この時、2つ目の治療結果次第で受けられる治療が異なる状況でした。
1.治療がうまくいき転移が一切確認できなかった場合
現在の病院ではなく大学病院で「陽子線治療」を受けることができます。陽子線治療とは放射線治療の一種で、通常の放射線治療よりも照射部位を狭くして腫瘍に照射することができます。簡単に言うとより効果が高く、後遺症が残りずらい治療が受けられるということです。
2.治療がうまくいかず転移が残っていた場合
現在の病院で「放射線治療」を受けることになります。放射線治療でも効果は見込めますが、陽子線治療と比べると期待できる効果は低く、照射箇所も広くなってしまうため他の神経等を傷つけてしまうリスクも大きくなります。
どちらの治療を行うことになったとしても一定のリスクはあると医師から説明を受けました。放射線が他の神経にあたってしまい傷をつけてしまうと、神経麻痺などが起こる可能性があるといわれました。私の場合は仙骨という腰のあたりに腫瘍があったため、近くの神経を傷つけてしまうと歩行困難になり、一生車いす生活を送る可能性もあるとも説明を受けていました。
このような状況だったのですが、結果としては2つ目の治療はうまくいき、転移が確認できないレベルなっていました。そして大学病院からも陽子線治療の許可がが下り、保険適用で陽子線治療が受けられることとなりました。
これまでの治療が計画通りにうまくいったのも奇跡でしたが、さらにここでも一番良い選択肢の治療が受けられることが決まりました。この時の心境としては本当に自分は運が良く恵まれているなと思いました。すべての治療が順調にいく確率は限りなく0%に近かったと思います。医師からも「針の穴に糸を通すくらい難しいこと。治療中に体が耐えられなくて死に至る可能性も十分にある」と言われていたので、それを振り返ってみても奇跡的だなと思いました。それと同時にここで気を抜いてはいけないという気持ちになりました。あくまでゴールは「完治させること」。どんなに経過が良くても最終的には結果がすべてなので、ここからできる最善を尽くしてゴールを目指したいと気持ちを入れ替えました。
陽子線治療の開始
ここからの治療は大学病院で行うことになったため、別の担当医とともに治療を進めていくことになりました。治療内容としては1か月間かけて毎日通院をして、1日15分ほど陽子線を照射するだけでした。イメージとしてはMRIみたいな機械に寝っ転がって入り、15分くらいボーっとしているとすぐ終わるみたいな感じです。痛みは全くありません。副作用として軽度のだるさや体力の低下などはありましたが、他の治療と比較すると圧倒的に楽でした。
後遺症としては、色素沈着と骨の強度が落ちるというのがあります。色素沈着に関しては照射部位(私の場合は腰)に日焼けした後のように皮膚が黒くなります。肌も乾燥するため毎日の保湿クリームが欠かせません。肌は治療が終わってしばらくすると次第に回復していきます。骨の強度に関しては、照射部位の近くの骨が弱くなるそうです。私の場合は腰だったので、自転車に乗ったりすることは禁止されていました。自転車に乗っている振動だけでも骨折の可能性があったからだと思います。
また、食事制限などは一切ありません。そのため治療をしながらも少しずつ体力を回復させていくことができました。入院生活からも解放されたので、精神的な回復も同時に行えたのはすごくよかったなと思います。
陽子線治療の結果と闘病生活の終わり
1カ月の通院で治療を行った結果、仙骨にあった腫瘍は目視で確認する限り完全に消えていて、治療は成功となりました。また3つの全治療を終えて、体内にある腫瘍も確認できる限りではすべて消えていました。本当に病気に打ち勝った気がして安心感に包まれたのを覚えています。支えてくれた多くの方や会社などに報告をして感謝を伝えることができました。それと同時に「よく頑張った」「生きててくれてありがとう」などたくさんのメッセージをいただけたので、周りの支えてくださった方には本当に感謝しかありません。
病気の状態としては「寛解」という扱いになりました。寛解とは現状で病気の症状や再発がない状態のことです。がんは再発リスクが高い病気のため、「完治」という診断を受けるまでには5年間の経過観察が必要となります。5年たっても再発がなかった場合に完全にガンが治ったと言えるということです。今後は3カ月ごとに定期検診をして再発がないかどうかを見ていくことになります。5年間、再発がないことを目指し生活をしていきます。
次の章では寛解から社会復帰までの5か月間について、社会復帰をするまでにこなしたリハビリや生活習慣の改善などをお伝えしていきます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。