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臘八大摂心 - お釈迦様に倣う冬の坐禅修行



はじめに - 12月1日の意味

12月1日という日は、私にとって特別な思い出を持つ日です。
永平寺で修行していた頃、この日から「臘八大摂心」という重要な修行が始まりました。

臘八大摂心は、お釈迦様の悟りの道のりを辿る一週間の坐禅修行です。この日を迎えるたびに、厳しくもありがたかった修行時代の記憶が鮮やかによみがえってきます。

今日は、この臘八大摂心について、そしてそれにまつわる私の経験をお話ししたいと思います。

お釈迦様と仏教の始まり

今から約2500年前、インドの王族として生まれたお釈迦様は、当時としては考えられないほど裕福な生活を送っていました。

けれども、そんな恵まれた環境の中でも、避けることのできない人生の苦しみと向き合うことになります。

たとえば、大切な人が病気で苦しむ姿を目にしたり、年老いていく様子を見守ったり、そして最も辛いことには、愛する人との死別を経験することもありました。

王族という強大な力を持ってしても、これらの苦しみから人々を救うことはできない。そんな気づきが、お釈迦様の心を大きく揺さぶったのです。

そして、お釈迦様は大きな決断をされます。

王族としての地位も、裕福な暮らしも、そのすべてを捨てて出家の道を選ばれたのです。
出家とは、いわゆるお坊さんになることです。

その後の6年間、お釈迦様は当時のインドで行われていた様々な修行に励まれました。
断食や、長時間動かずに座り続けるなど、時には命の危険すらある過酷な修行も経験されています。

しかし、そのような極端な苦行では、本当の悟りには至れないことに気づかれました。

そして、穏やかな心で坐禅を組むという、中道の修行に至ったのです。

臘八大摂心という修行について

お釈迦様は12月1日から8日までの一週間、最後の悟りへの修行として坐禅を組まれました。

12月8日の明け方、暁の明星を見た時、ついに悟りを開かれたと伝えられています。

私たち曹洞宗では、このお釈迦様の行いを受け継ぎ、「臘八大摂心」という特別な修行期間を設けています。

「臘八」という言葉は、旧暦12月8日を指す言葉です。

一週間という限られた期間に、集中的に坐禅修行を行うのです。

永平寺での修行の実態

臘八大摂心の期間中、修行僧たちは通常とは異なる特別なスケジュールで生活します。

1回40分の坐禅を1日になんと15回も行います。これを一週間続けるのです。

でも、全員が同時に坐禅をするわけではありません。

永平寺という大きなお寺を運営していくためには、たくさんの仕事が必要です。

食事の準備、清掃、来客の対応など、これらの役割を修行僧たちが交代で担当します。

私自身は、この一週間の坐禅修行が滞りなく進むよう、様々な準備や段取りを行う部署におりました。

そんな環境での準備作業は、それ自体が大きな修行でした。

極寒の試練と学び

特に忘れられないのは、ある極寒の日の出来事です。
修行期間中は外の世界との接触が制限され、テレビもラジオも新聞も見ることができません。
おそらく寒波が来ていたのでしょう。

外での30分の待機時間中、手が完全に凍えてしまい、指が動かなくなってしまいました。

永平寺では身だしなみに特に厳しく、着物は常に正しく整えていなければなりません。

しかし、凍えた手では着物を直すこともできず、大変な危機に陥りました。もし先輩に見つかれば、厳しく指導されることは間違いありません。

そこで、先輩の目を盗んで、ボイラーに繋がった温水の蛇口で手を温めました。
やっと手が動くようになり、何とか着物を整えることができたのです。

今でも、あの時の強烈な寒さと、温かい水に触れた時の安堵感を鮮明に覚えています。

現代の実践と伝統の継承

現在、私は毎朝20分の坐禅を日課としていますが、この臘八大摂心の時期には特別に40分に延長して実施しています。

小規模な寺院では一週間続けての本格的な修行は難しいものの、この伝統の精神は大切に受け継いでいきたいと考えています。

坐禅は、一見すると「何もしない時間」「非生産的な時間」のように見えるかもしれません。

けれども、それこそが最も贅沢な時間なのです。

常に効率や生産性が求められる現代社会だからこそ、このような静寂の時間を持つことの意義は、ますます深まっているように感じます。

修行道場である永平寺や、全国の曹洞宗の寺院では、今でもこの伝統は脈々と受け継がれています。

臨済宗の寺院でも同様の修行が行われていると聞きます。

形は少し変わっても、お釈迦様の教えと、その精神は確実に現代に生き続けているのです。

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