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【情熱と客観性のバランスを取りながら、ひたすら考えるしかない】W選考委員版「小説でもどうぞ」三浦しをんさんインタビュー(2022年秋号特集)


※本記事は2022年秋号に掲載された三浦しをん先生のインタビュー記事の別バージョンをお送りします。

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第3回ゲスト選考委員は、デビュー以来、絶大な人気を誇る、直木賞作家の三浦しをんさん。今回は選考をするときのポイントと、デビューするために必要なものを伺った。

選考委員は審判なのか、スカウトなのか

―― 選評を見ると、各選考委員で意見が割れていたりします。

今までいろいろな選考会に参加しましたが、満場一致ということはほぼないと言っていいぐらい、人それぞれ読み、好み、重視する点が違います。それは読者の方も同じだと思うんです。同じ本を読んで、ある人はいいと言っても、私はピンと来なかったという人もいます。そこはふだんの読書と変わりません。

―― 選考会で話し合っているうちに意見が変わることはありますか。

あまりないと思います。最終候補作をものすごく読み込んで、あらゆる角度から検討したうえで、「この作品が受賞だ、ほかの人を論破してやるぞ」という勢いで臨みますから。

もちろん、選考会で議論を重ね、別の作品を推している人のほうが多いし、その言い分ももっともだから、と意見を引っこめることもありますが、心の底から評価が変わることはないと思います

―― 野球でいうと審判として臨むのか、スカウトとして臨むのかで結果が違うと聞きます。大ファウルを打った場合、審判はファウル(無効)と判定しますが、スカウトは実力があると見ます。

新人賞の場合は特に、私は減点法ではなく、作者が言いたいことがどれだけ表れているかを見ています。「これだけの大ファウル、普通は放てない、このスイング力はすごいな」というところを見たほうが絶対にいいと思うんです。

「うまいけどこぢんまりしている、本当に書きたくて書いたのかなあ」という作品はよくない。そういう人は書き続けられませんから。

―― 書きたいものがあるかどうかということですね。

自分の中にどうしてもこういうものを書きたいんだという熱い思いがある人のほうが、のびしろがあるし、続けられると思います。そこを見極めるのは難しいですが、でも、笑っちゃうような大ファウルがあると心惹かれます。大ファウルの質にもよるんですが。

―― 選考する面白さってありますか。

新人賞の場合は、粗削りだけど、ハッとさせられる表現や斬新な展開があります。これを小説にしたいんだという思いが濃厚に表れているものが多いので、楽しいし、刺激になります。

プロを対象とした賞の場合は、粗削りだからいいねというレベルではなく、細かい技巧や描写のレベルなども検討して合議で決めますが、新人賞の場合は、いくらなんでも粗削りすぎると思っても、それだけ熱烈に推す選考委員がいるんだったらそっちのほうがいいかなとなることはあります。今後の可能性を重視しているからです。

小説への愛と思いとパッションと

―― プロの作家でもデビュー後、成長していくものですか。

もちろん成長します。でも、ずっとやっていると緩みやたるみがでることはありますし、手癖で書いてしまうということもありますから、そこは自分との闘いになります。慣れて「こう書けばいいんじゃないかな」ということが見えて、同じようなパターンにはまってしまう危険性がある。

そうならないためには、どう書けばいいかを考え続けなければなりませんが、小説が好きだという思いがないと考え続けることができません。そう考えると、新人賞の場合は、小説への愛がある人、書きたい思いへの愛がある人を評価したほうがいいと思うんです。

―― 思いが強いだけに、大ファウルになるような無理もしてしまうのかもしれません。

そうですね、情熱ゆえにセオリーから外れたりします。でも、それが創作物に新しい風をもたらしたり、新しい表現や魅力的な登場人物を生んだりします。いくらテクニックを磨いて小手先で書いても、そうしたいきいきとした感じは絶対に生まれません

―― 情熱は誰かに教わったのではなく、もともと持っている?

生まれたときから小説に対するパッションを持っているわけではなく、生きていく中で、小説に限らず、いろいろな創作物に触れ、「こういうの、好きだなあ」と自分の中に自然と生まれてくるのだと思います。

―― 小説を書きたい思いが暴れ馬のような状態になっていて、コントロールできない人は?

情熱はあるが、まだテクニックが欠けていてうまく書けない。あるいは、アイデアをうまく結実させられなくて、ちょっと不格好になってしまうということはあると思います。

―― それをまとめるには?

考えるしかない。情熱と客観性のバランスを取りながら、自分が書きたいものをどうすれば小説として表現できるのかをひたすら考えるしかないと思います。

渾身の一作がだめだったら、さらに渾身の一作を

―― 選評に「一気に読めた」と書かれていることがありますが、それはなぜ起きるのでしょうか。

やはり話が面白いということじゃないですか。本当に面白いものは……

W選考委員版「小説でもどうぞ」
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三浦しをん
1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』でデビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、2012年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。ほか、『風が強く吹いている』『ののはな通信』など著書多数。

※本記事は「公募ガイド2022年秋号」でのインタビューの別バージョンを掲載したものです。


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