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ちょうど飲みごろとなりました

冬至を過ぎてから昼間の時間が少しずつ
のびてきたのがわかる。
陽が戻っておめでとう、のいわれに納得がいく。
春に向かうほのかな兆しをいち早く届けてくれるのは
やはり太陽なのかなと思う。
気がつけば七十二候も残り一節気、三候を残すのみで
きじが恋をし、ふきのとうが芽を出す頃になった。
こよみもついに一巡したのだと、つくづく思う。
まだもう少し冷たさを恋しみたいわたしは
冷え込む朝ほど空を見たくなる、地を歩きたくなる。
外の空気で呼吸をする、自然に、なめらかに、続けて。
なんと気持ちのよいことだろう。

  ゜。◯

向かう先は徒歩15分くらいのところにあるカフェ。
お互いに同級生の子どもをもつ両親が営んでいて
隔月の割合で珈琲豆を焙煎してもらっている。
店内はしっかりと苦み渋み、甘味も主張していて
その香りだけで全身が温まる感覚に包まれる。

寒い中よく来てくれたね、とカウンター上の
焼き菓子を分けてくださった。
ささっとティッシュに包んでくれるところがうれしい。
かしこまらないお知り合いだから、と
こゝろの声が聞こえたからまたうれしい。

店内には数人のお客さま。
窓から差し込む冬の陽で床が明るんでいたり
飲みものが注がれたカップからゆうらゆうら湯気が
立ちのぼっていたり、冬のさなかに見られる
美しい動きのひとつひとつが、いっそう冬を
好きにさせる。
ほんとうにさりげなくて、まるでいつも通りという
冬の顔がまたにくい。

  ゜。◯

紅茶びいきだったわたしがブラックで飲んでみて、と
友人に言われるままに口に運んだとき
何とも言えない安心感を覚えた。
自分を好きになる、そんな意識に出会った瞬間だった。
自分で淹れることもあればカフェの
お客になることもある。
牛乳の甘さをたっぷり加えることもある。
珈琲を飲んでいる自分が、わたしは好きだ。
苦くて苦手と思い込んでいたブラック珈琲との
よい間柄にこれからも期待して。


カフェに行く道々の大胆な咲きっぷりにほほぉとなる。



今日はちょっとだけぜいたくができた土曜日。
それはあるとうれしい大事な時間だから
できれば珈琲はお気に入りのものを
お気に入りの場所で手に入れて
何より気軽に楽しみたい。
豆を炒ってから3日間待ってね、といつも
店主さんに言われている教えを守り
飲みごろになった珈琲をいただいた。
消え残る冬を存分に味わうように
この一杯を口福に感謝しながら。


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