ちょうふく山の山姥
とても気持ちのいい月夜です。
どこから来たのか大きな雨雲がもうみき村の上ににやってきて、大きな嵐となりました。
ややこみした
ちょうふく山の山姥
ややこみした
餅ついてあげねば
うま
ひと
食ってしもうぞ
ちょうふく山の山姥
ややこみした
嵐は恐ろしい声でそう言うと去っていったのです。
さっきの嵐がうそのようにまた気持ちのいい月夜になりました。
「ややこみしたということは、山姥が子を産んだのだな」
村人がそう言うと、
「餅持って来いと言っていたな、用意しないといけないな」
そうもう一人の村人が答えました。
村人たちは米四合ずつ持ち寄り餅をついたのでした。
ぺったんこ
ぺったんこ
山姥のために
もちつくぞ
ぺったんこ
ぺったんこ
どんなに力が強くとも
ぺったんこ
ぺったんこ
ほほが落ちる
もちつくぞ
そう歌いながら村人たちは餅をついたのでした。
「この餅どうやって運ぼうか」
村人たちはだれも山姥の所へ行きたくなかったので悩んでいますと、
「わしが山姥の所へ道案内するからいつも阿呆のようにえばっているだだ八とねぎそべに担がせればいい」
そう七十にもなるあかざばんばが言ったのでした。
そして、
「山姥が恐ろしいからと逃げるのじゃないよ」
ばんばがそう言うと、
「俺たちが逃げるわけねぇ」
だだ八とねぎそべは泣きそうな声で答えたのでした。
山道は恐ろしくなんとなく血なまぐさい感じさえしたのです、だだ八とねぎそべは一歩進むたびに顔が青くなっていったのでした。
ぱきとリスが枝を折りました。
「ひぃぃぃ」
だだ八とねぎそべは鳴きました。
「なさけないねぇ」
ばんばがため息をつくと、
「俺たちじゃねぇひぃぃ鳥が鳴いたんだ」
だだ八とねぎそべは声を絞って言いました。
鳥がちゅんと鳴きました
「あぁぁぁあぁぁ」
だだ八とねぎそべはまた鳴きました。
「あぁあぁ鳥が鳴いたな」
ばんばはため息をつきました。
かさっと何かが音を立てたとき、
「わぁぁぁ」
とだだ八とねぎそべは叫び、餅を放り投げ走って逃げたのでした。
「わぁわぁ鳥は声だけは大きかったな、それはそうとどうするかね。この餅はわしでは運べない」
ばんばはとりあえず山姥の所へ行くことにしたのです。
山の上に粗末でしたが大きいかま小屋がありました。
「山姥様、山姥様もうみき村のあかざばんばですじゃ」
すると、
「よう来たよう来た。入れ入れ」
と山姥の声がしたのでした。
山姥が入りますと山姥の横にクマのように大きな子供が寝ぼけていました。
「山姥様山姥様、大変もうしわけないが餅の運び手が憶病ものでな途中で逃げてしまったのです」
ばんばがそう言いますと、
「あぁそうかい、がら餅とってこい」
山姥がそう言うと、山姥の息子がらは嵐のように飛んで行ったのでした。
「さすが山姥の息子だな、生まれてまもないだろうにまるで百人力だ」
ばんばは感心したのです。
三人はがらが取ってきた餅を食べたのでした。
「山姥様、待っているものもいますので私は戻りたいと思います」
ばんばの言葉に、
「急ぐこともねえ、二十一日ほどここにいろ」
と山姥は言ったのでした。
ばんばは二十一日の間山姥とがらの世話をしたのでした。
「心配しているものもおるし、二十一日もたったのでもう戻らないといけない」
ばんばが言うと、
「おぉ、おぉ世話になったな。そうだこの切っても次の日には元に戻る錦一疋やろう」
山姥は美しい錦一疋をばんばにやったのでした。
「がら、ばんばを村まで運べ」
山姥がそういうとがらはばんばを背に乗せ村まで飛んで行ったのでした。
ばんばが村に戻るともうみき村では葬式が行われていました。
「誰の葬式かね」
ばんばが村人に聞きますと、
「ばんばの葬式だ。とっても優しく少し気が難しかったがいいばんばだった」
そう言うと村人はばんばが生きているのを知りとても驚きそして喜んだのでした。
村人たちはばんばの無事を喜び、そして山姥の錦でとても豊かに暮らしたのでした。
「出産とは山姥でさえ大きく体力が落ちてしまうのだな」
ばんばはそうつぶやきました。
これきって、とっぴんぱらりのぷう
聞き伝える昔の話でございます
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