書評「異文化理解力」 #1
「ダイバーシティ(多様性)について良い本、ありませんか?」とある人に尋ねたら、「エリン・メイヤーという研究者が書いた『異文化理解力』という本はどう?」という回答が返ってきたので、早速Kindleで購入してみました。結論から言うと、非常に良い本だと思ったので私自身が特に関心を持って読んだ箇所を紹介したいと思います。
※長くなったので、3回に分割して投稿します。
はじめに
私の自己紹介についてはこちらの記事にまとめているのでここでは詳しくは書きませんが、大雑把な経歴は、日本に生まれイタリアで育ち(計17年イタリアで過ごし)、就職を機にまた日本に戻り、現在はアメリカで暮らしている、といったところです。
イントロダクションの章に以下のような記述があります。
「二カ国かそれ以上の国で暮らした経験」「両親が別々の国出身」の両方に当てはまる私は、この本を読んでますます、自分は日本とイタリアの両要素を持ち合わせているのだと改めて気付かされました。
文化の見取り図「カルチャーマップ」
この本の中で核となるのは、紛れもなくオリジナルタイトルにもある「カルチャーマップ」です。「カルチャーマップ」とは、異文化間での違いを分析し理解するための枠組みであり、文化間の違いを視覚的に表現したものです。
8つのマネジメント領域(コミュニケーション、評価、説得、リード、決断、信頼、見解の相違、スケジューリング)を縦軸に、各国の文化指数を横軸においた分布モデルです。
上の画像から得られる情報としては、例えば、日本とアメリカのコミュニケーションは正反対に位置しており、中国は限りなく日本に近いものの、日本よりは多少ローコンテクストであるということ。(ハイ・ローコンテクストについての詳しい情報はこちら)
マップを読み取る上で私が大切だと感じたこと
マップを読み取る上で私が大切だと感じた観点を二つ:
ひとつ目:文化間の相対的な位置関係
ひとつ目は、異なる文化への認識は、各国の文化指数の絶対値ではなく相対的な位置関係にこそ基づいているということ。
「中国のコミュニケーションは、ハイコンテクストかローコンテクストか?」という問いに対しては、日本から見るとローコンテクスト、アメリカから見ると限りなくハイコンテクスト、という回答になります。
当たり前に思える話にも見えますが、案外、この「相対性」という概念は実生活では忘れがちになる気がします。というのも、日本からすると欧(ヨーロッパ)、米(アメリカ)のいずれもローコンテクストなコミュニケーションをとっているように見えます。
日本ではよく「欧米」と一括りにしてしまいがちですが、ヨーロッパの人間で(も)ある私からすると、アメリカは異文化で、ヨーロッパとは似ても似つかないと感じることの方が多いのです。
学生時代のイタリアの友達と、いかにアメリカ文化が我々にとっては特異に映るか、よく電話で話したりします。え?アメリカでは劇場に行くのにスエットにサンダル?あり得ない!と。
このように、文化的背景が違うと、相手国への認識も異なるということです。
ふたつ目:文化が個人に与える影響の大きさ
ふたつ目は、文化が私たち自身に与えている影響の大きさは計り知れないということ。
人間には個性があり、それぞれ違う考えや感性を持っています。「〇〇人だから〜」と決めつけるのは、安易な結論の導き方にも思えます。ただ、文化は思っている以上に自分自身に染み付いていて、強く影響を与えるものであるという認識もまた、持っておかなければならない視点であると感じます。
文化の差を無視して個人として見るということは一見正しい行為に見えますが、
とエリン・メイヤー氏が表現しています。
例えば、日本人は意見を求めても大勢いる場では発言しない、あるいは空気を読んで当たり障りのないことを言うケースが多いと言われています。個人差はあれど、日本の文化の特徴として「調和を乱すことが悪」だと捉えられていることが影響していることが理由だと考えられます。
そういった文化背景を知らない外国人からすると、その接した日本人個人が「意見のないつまらない人」だと評価してしまうことになります。もしかしたら、少人数のミーティングや1on1であれば、ゆっくりと自分の意見を述べるかもしれないのに。
また、反対に、出身地によって各人の性格・特性を決めつけているケースも散見されます。「イタリア育ちだから〇〇だね」といった類の発言は無数に受けてきました。それ、イタリア育ち関係あるかな?
確かに、イタリア文化が私が自覚している以上の影響を与えているのでしょうが、それにばかり気を取られていると個人を尊重してくれていないように感じます。
文化的特性と個人の特性、この二つの要素のバランスを取ることはとても難しいです。ただ、こうして「文化」というものを「相対的に」意識することが大切だと脳の片隅にでも置いておけば、多少はうまく対処できるようになるのではないかな、と思います。(続きます)
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