生成AIと考えることばのみかた①:「クロノトープ(時空間)」
生成AIは、これまでの人工知能と異なり、私たちが日常的に使うことば(自然言語)で話すことができます。これにより、従来のプログラミング言語のような形式言語では表現しきれなかった、より豊かで深いコミュニケーションができる可能性を秘めています。
本シリーズでは、普段使っていることばについて、どのような見方があるか、言語学の知見を使いながら紹介し、生成AIとの対話での味方となるような視点や概念について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。
今回は、「クロノトープ」(時空間)という概念を紹介しながら、生成AIとの対話について考えてみます。
クロノトープって何?
クロノトープ(chronotope)とは、クロノ(時間)とトープ(空間)の両方をさす言葉です。相対性理論のアインシュタインが用いた言葉ですが、言語学関連分野ではミハイル・バフチンが、①時間と空間の不可分性を強調、②文学作品における時空間の交差の仕方の探求を促進するために用いました。
ちょっとわかりにくいので、生成AIを使って言い換えてもらいました。
さらに簡単に言ってしまえば、クロノトープという概念を引っ張り出して言いたいことは、「物事を理解するには、時間と空間がどんな組み合わせになってるか考えるのが大事ですよ〜」ということです。
ことばの見方としての「クロノトープ」
クロノトープは、ことばの見方にどのように関わってくるのでしょうか?Carmel Cloranという言語学者によると、クロノトープという概念は、ことばを分析する際には、SubjectとTenseの組み合わせ(英語の場合)パターンとして考えることができると述べています。
これもちょっと難しいので、生成AIに頑張って分かりやすくしてもらいましょう。
クロノトープという概念を持ち出すメリットは?
この概念がなぜことばの見方として重要だと考えられるのか、それは、クロノトープが、言語習得の過程に強く影響していると考えられているからです。
言語習得とは、人間が母語または外国語を理解し、使用できるようになるプロセスと考えることができます。ちなみに、母語習得を第一言語習得、外国語習得を、第二言語習得と区別します。
一般的に、言語習得のプロセスを理解する視点としては、どんなことばを最初にしゃべったとか、一語だけでなく、複数の語を組み合わせられるようになったとか、「おやつがほしい」と文で喋れるようになったとか、語彙・文法の獲得過程をみたり、どうやってビジネス文書の書き方を習得したかなど、誤用論的な立場から見る方法などがあるでしょう。
一方で、クロノトープの観点から見ると、言語習得の過程は、「ここxいま」(here-now)を表せるようになり、そこからさらに離れた事象についても、表現できるようになる過程と考えることができます。
我々は、第一言語習得の過程の初期には、「ここxいま」に関して何かしらの言及をすることからスタートします。自分が存在する場所と時間にある事象について、指示・要求したり、コメントしたりします。例えば、「このおもちゃ欲しい」と、周りの人間にねだってみたり、自分がいる部屋の温度が高すぎたら「ここあつい」と意見を言ったりします。「このおもちゃ」「ここ」は話し手が存在する空間にあるものであり、また、「欲しい」「あつい」も、話し手が存在している時間における出来事・評価です。
「ここxいま」について表現できるようになったら、徐々に、「ここxいま」から離れた事象についても表現するようになっていきます。例えば、「昨日富士宮は、雨だった」など過去の経験について言及することは、経験したことはあるが「ここxいま」からは離れた時間と空間について振り返る(recount)ものです。
また、「今年は海水温が高いので、夏には強い台風が多いかも」など未来について、もしくは、仮定的な条件下で起こりうることについて言及することは、「ここxいま」からは離れた時間と空間について計画 (plan)・推測 (prediction)するものです。
このように考えると、言語的に「ここxいま」から離れた表現をできるようになると言うことは、我々の認知的、もしくは、社会的な発達にも密接に関係していると考えられます。
クロノトープという概念を用いることで、言語表現から、話し手がどのように空間と時間を組み合わせているのかパターンを分析し、どの組み合わせを獲得しているか、または、していないかによって、言語習得の程度を明らかにすることができるというわけです。
ちょっと長くなってしまったので、生成AIにまとめてもらいましょう。
生成AIを使って、クロノトープを移動する練習を
本記事では、言語習得におけるクロノトープという概念の重要性について述べましたが、学生や大人になっても、言語表現のクロノトープを、意識的に移動できるようになることは、2つの意味で重要なスキルです。
一つ目に、具体的な事例を抽象化し、より一般性・汎用性が高い知識へと移行できるようになるために重要です。例えば、「このタスクは難しいから、いくつかのサブタスクに分割してやってみるといいよ」という現在目の前にあるタスクについての表現を、「ここxいま」から離れた時間と空間の組み合わせにすると、「複雑なタスクは、サブタスクに分割するのが良い」と表現できます。このように、具体的な出来事を抽象化することで、場所や時間の制約を受けない、より一般的な知識として捉えることができるようになります。
二つ目に、一般性・汎用性が高い知識を、自分が存在する時空間に適応できるようになるために重要です。例えば、「複雑なタスクは、サブタスクに分割するのが良い」という一般的な知識を、今度は「ここxいま」に当てはめると、「この書類の整理は大変だから、種類ごとに分けて整理してみよう」という具体的な行動指針に落とし込むことができます。このように、抽象的な知識を具体的な状況に合わせて応用することで、問題解決能力や意思決定能力を高めることができます。
ただし、「ここxいま」に近い表現を離れた表現にしたり、逆に、離れた表現を近い表現にするのは、どのような言語的、もちくは、認知的な操作が必要なのでしょうか。
Cloran (2010)では、空間的な観点から文の中心的な要素と時間的な観点から、出来事の種類を以下のように分類しており、この分類を使って、文の主体と時間を表す表現の種類を変化させることで、「ここxいま」からどの程度近い、もしくは、離れた表現に言い換えるか操作できると考えられます。
では、この文の中心的な要素と出来事の種類の分類を考慮しつつ、「ここxいま」に近づけたり、離れたりする練習を生成AIとしてみましょう。まずは、「ここxいま」から離れていく練習です。以下のようなプロンプトをテンプレートとして使って、生成AIに言い換えをさせてみましょう。生成AIの言い換えを吟味して、指定した種類の要素や出来事の種類として表せているか確認してみます。これを何回か繰り返した後、自分でも「ここxいま」に近い発話を、「ここxいま」から離れた発話に言い換えてみましょう。
ちなみに、この入力値の場合、生成AIは以下のように言い換えました。
次に、「ここxいま」から離れた一般性・汎用性が高い知識を表す発話を、「ここxいま」に近い具体的な発話に言い換える練習をしましょう。今度は、以下のようなテンプレートを使って、生成AIに同様に言い換えさせて、それを自分で吟味します。先ほどと同様に、何回か繰り返した後、自分でも「ここxいま」から離れた発話を、「ここxいま」に近い発話に言い換えてみましょう。
このプロンプトには、以下のような言い換えを提案しています。
生成AIの良いところは、自分の状況や目的に合わせて、回答を提案してくれるところです。自分の身の回りのことや、興味があるけれど、普段難しくてちょっと理解するのが面倒な事柄などを、生成AIと一緒に「ここxいま」から話したり、近づけたりして、クロノトープを行き来してみるのは、どうでしょうか。知識習得の重要なスキルを、きっと身につけられると思います!
参考文献
Cloran, C. (2010). Rhetorical unit analysis and Bakhtin's chronotype. Functions of Language, 17 (1), 29-70.
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