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補遺:女子中学の入試考察(女子学院2024)

期せずしてスキマ時間ができたので、もう1校女子中学校の入試問題をみたいと思います。「女子学院中」も「有名難関中学」と聞きましたので俎上に上げます。

公立高校入試問題といっても差し支えないですね。

大問1は丸ごとそのまま高校入試問題ととらえればそこらあたりの公立高校入試問題レベルですね。
(1)の穴埋めは文字式の概念があったほうがいいでしょう。
(2)は円周角の定理と三角形の外角の大きさの求め方などがありますが、公立高校入試のチョイ難しい程度ですね。同じ長さの弧を切り取る弦の長さが等しいことから図中BPが正三角形の一辺の長さと等しくなることを発見するのがポイントだったのではないかと思います。ただし弧と違って弦の長さと対する円周角の大きさは比例しないことは注意しておきたいですね。
(3)は折り返しの問題ですが、ブルーの三角形が合同になります(∵二角挟辺相等)から、やはり二等辺三角形が現れることになります。ピタゴラス数の直角三角形(3辺の比が5:12:13)については中学入試で知識としてよく使われるものなのでしょう。数値は綺麗ではありませんね。
(4)は規則性、といってもこれはあまりにも容易に過ぎると思います。
(5)は3元一次連立方程式の問題だと思えばよいだけの話であって、算数の範囲内でゴチャゴチャやる必要はまったくありません。

一体何を問いたいのでしょうか?

大問2から4までまとめてしまいました。
大問2で私がよく分からなかったのは、「ケーキは必ず箱に入れ」という文言です。ではクッキーはどうなのか?と思ってしまいました。この文言だと『クッキーは箱に入れても入れなくてもよい』という解釈も成り立つと思ったからです。ただそう考えるとケーキ、クッキー、箱をそれぞれx、y、z個とし、
430x + 180y + 20z = 6290 ⇔ 43x + 18y + 2z = 629 と、
x + y = 19 ⇔ 18x + 18y = 342 を連立して、25x + 2z = 287という式が得られますが、x<19は当然であり、かつ、2z = 287-25x (=偶数)>0であることを考慮すると、x=11のときz=6(ちなみにy=8)で題意は満たされ、x=9のときz=31(z=10)なので、ケーキとクッキーを1つずつ箱に入れても箱が余るという状況(これ以降もxの値を減らしていくとzの値は増加する)になっておかしいというところまで考える必要があります。赤字の解答は、『  』で示した解釈を行わなかった場合でやっています。ケーキの個数を問えばその偶奇は自明なのに敢えてそれを問うているということは上述のように考えよということなのでしょうか。不思議な問題でした。解答の正当性と正統性は保証いたしません。
大問3の体積については。ここぞ!以前の稿でご紹介した「パップス・ギュルダンの定理」の真骨頂であります。秒で答えが求まります。面積については、平面部分(上と下から見える部分)については、それぞれ一つの円の面積として求めてしまうことができ、曲面部分は縦は図中から読み取れる値、横は円周となる長方形の面積として求められますが、「内側」を忘れる受験生は少なくないと思われます。要注意ですね。
大問4は単位換算とか面倒くさいですね。数値もきれいではない。こういう問題は私は好みませんが、辛抱して解きました。これも3元の連立方程式ということになりますね。解くのに少々技巧が要ります。2番目の式の両辺にv(v+116)を掛けたりして分母を払おうなどと考えるとvの2次方程式になってしまいます。ここでは b/(v+116) = B、c/v=C などとおいてまずBとCの値を確定させ、そのあとbとcをvの式で表して1番目の式に代入するとvの一次方程式になります。
これを方程式に熟達していない受験生はどのように解くのか、興味あるところです。きっと算数の世界での「エレガントな」解法があるのでしょう。それがいったいどうしたというのでしょうか(笑)。

コメントする気にもなりません。

大問5の(3)は正直自信がありません。開成の最初の問題でやらかしたことを考えるともっと少ない回数があるのではないかと思います。回数を減らすには圧倒的にAの操作をやることになるのですが、適度にBの操作を入れないと2024は実現できません。やはり手掛かりは2024=2^3×253で253が256に近いというところから考えることでしょう。256にしないで3小さい253を得るためには一つ前の段階である128から1を引き、これを2倍することで差が2となり、ここで1を引くことで差が3の253が得られるという判断です。

大問6ではこの図形の4回対称性から図中の優弧ACに対する中心角が270°であることから円周角ABCが135°となることが分かるので余弦定理を用いて正方形ADECの一辺の平方、つまり面積が求まり、そのまわりに4つくっついている三角形の面積は2辺の積に挟角の正弦をかけ1/2倍するという面積の公式を用いて求めました。三角比のチョット応用レベルの問題と見ていいでしょう。数学やってりゃチョット応用といえる問題を小6生に「別の方法」を使って解かせることにどんな意義があるのか、教えて欲しいですね。

大問7はまたまた既視感のある問題であります。確か麻布中学でしたっけ、川が出てきたのは。ここでも方程式が大活躍です。距離一定のときの時間と速さの関係は反比例となるので、時間の比と速さの比は逆比になります。
理由は簡単に説明できて、距離d、時間s、t(すべて正の数)とすると、速さはそれぞれd/s、d/tなので、速さの比は d/s : d/t = dt : ds = t : s となります(∵比の両項にstを掛け、dで割る)。こういうことはおそらく「知識」として「暗記」している受験生も多いのではないかと思います。すぐに証明できることをいちいち「暗記」していて、逆に理由が説明できないというような状況があったとしたら悲しいですね。

噂話として、3.14の倍数を暗記させる、という受験指導塾があるというのがありますが、そんなことに記憶力を使うことよりもっと有意義なことにその「容量」を振り向けた方がよいと思います。
円周率を何桁目まで覚えているかということが記憶力のモノサシになるというような類の話を聴いたことがありますが、そういった人がノーベル賞をとったという話は聴いたことがありません。
ノーベル賞受賞者の卒業高校をみると、野依先生が灘のご出身であることは申しておかなければなりませんが、ほとんどは公立高校であることを述べておく必要があるでしょう。権威なんてクソくらえという投稿もいたしました通り、私は「権威」というものを無批判に受け入れたりはしません。ここでノーベル賞を引き合いに出したのは、知的な世界における最高レベルの「権威」であるノーベル賞と灘中以下様々な国私立中学校の「権威」を並べてみた場合になんら因果関係が認められないということが言いたいからであって、ノーベル賞を無批判に称賛しているわけではないことはご理解ください。

先にみた桜蔭中学との共通性についていうと、男子中学よりも難易度は低いといえます。問題の洗練という意味でも劣後するのかなという感覚を抱きました。どうでもいい部分で話をややこしくして「難問」をつくっているという点も指摘できなくはありませんが、この点に関しては、灘中などにも見受けられることなので、「女子中学」だからということはいえないと思いました。

2024年度の中学入試問題を見てきて抱いた感想として申しますが、多感かつ知的好奇心旺盛な子供たちの大切な時期を、中学受験の試験対策に費やすことが果たしてよいことなのかどうなのか、一度考え直してみる必要があるのではないでしょうか。


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