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思春期の中学生がスクーターを乗り回すような暴走
靴の踵は踏んだまま。
紺で横に3本ラインの入ったジャージを履き、グレーの襟付きのトレーナー。胸ポケットには「赤LARKのロング」が入っている。黒のダウンジャケットを羽織り、黒褐色の顔には10センチはある顎髭を蓄えている。
鋭い眼光で切れ目。頭は禿げ上がっているが、貫禄を感じさせる顔面から薄毛の存在感はない。背中は盛り上がっていて恰幅もいい。
左手に持った杖を「ドンドンッ!」と叩き、地響きを鳴らしながら通路の中央を歩いていく。すれ違う利用者さんに睨みをきかしながら。
「どけ!このクソババア!」
「邪魔だジジイィ!」
「死にかけ!どけ!」
とドスを効かせ、思春期の中学生がスクーターを乗り回すような暴走で、デイサービスを歩き回る。タバコを吸いに行くために。タバコを吸うためにデイサービスに来ているといっても過言ではない。
そのおじいちゃん。
148cm。身長。
ちゃいちー。
背がちっちゃいものだから(ぼくは勝手にそう思っている)、他の利用者にマスコット扱いされている。
「うるさいハゲ!ジジィ!」だの、
「向こう行って!タバコ臭いから!」だの、
「外で過ごして、あんた何もしないんだから!」なんて言われて。
足が悪いものだから、杖をついて歩いていてもヨチヨチ歩き。歩幅は赤ちゃんのハイハイ並み。
「あんたが早く歩きなさいよ」だの、
「タバコ吸いに行くだけでしょ!邪魔!」だの、
「あんたより長生きするにきまってるでしょ!」なんて言われている。
女性の利用者さんは、容赦ない。
でも、ぼくはそのおじいぃが羨ましい。
キャラがあってイジられて。
なんだか嫉妬してしまうのだ。
ぼくはどんな年の取り方をしていくのだろうか。
おじいぃの入浴介助。
失禁しているリハパンを、ぼくはそっとゴミ箱に捨てて、
新しいリハパンに変えておいた。
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