声の魔法!🪄閑話休題・なぜ人の声は千差万別なのか
推しの声とあなたの声、実は同じ!?
前回投稿はこちら。
人の声は千差万別。誰ひとりとして同じ声ではありません。声だけを聞いて「あの芸人さんがテレビに出ているな」とか「私の好みの声!」などと判断できます。「イケボ」なんて言葉も最近は聞きますね。
でも、なぜ声は、こんなにひとりひとり違うのでしょう。
答えはこの「声の魔法」をここまで読んできた中にあります。
喉頭原音とは
ひとりひとり違う理由について解説する前に、まずは誰もが持っている声の源「喉頭原音(こうとうげんおん)」について知る必要があります。
vol.6やvol.7の、声がかすれたりうわずったり震えたりする症状が生じるときに登場した「喉頭原音」という言葉。声帯を見ながら確認していきましょう。
安静時は呼吸をするために開きっぱなしの声帯ですが、発声時には筋肉の力で動き、閉じます。このとき完全に閉じ切るわけではなく、声帯同士が近づいているイメージです。イラストの白い部分は粘膜で覆われています。イラストが声帯を上から見た図だとすれば、声帯の下は肺につながっています。肺から呼気が上がってきて、それが声の原動力になるわけですが、その呼気が声帯粘膜にぶつかると、粘膜が自然にぶるぶると震え出します。この現象をベルヌーイ現象と言います。
そして、これが摩訶不思議なポイントなのですが、粘膜が震えることで音が発生します。このとき生まれる音を「喉頭原音」と呼びます。
喉頭原音は例えるならブザーのような音。「ブーーーーーー」と一定の音がします。高くしたり低くしたりはできますが、ブザー音であることは変わりません。これが声の源です。声帯に異常があるときはかすれ声になったり、声帯が均等に震えなければ声がうわずったりすると話してきましたが、それはこの喉頭原音が綺麗に出せなくなるから起きる症状です。
なおこの喉頭原音には個人差はほぼありません。男性であっても女性であっても、子どもであっても高齢者であっても、同じようなブザー音が生まれます。人類一律同じ音。推しの声もイケボなあの人の声もあなたの声も、喉頭原音まで遡ればまったく同じ音を発しています。
ちなみに、この喉頭原音の原理を利用しているのが電気式人工喉頭です。喉頭(声帯)を摘出した人は声を出すことができなくなるため、変わりにブザー音を発する人工喉頭をのどの辺りに押し当てて、口パクしながら会話します。声帯がないため喉頭原音を作ることができませんが、その代わりを人工喉頭がしています。なお人工喉頭はほぼ一種類の喉頭原音しか出せませんので、高さをコントロールすることはできません。人工喉頭がロボットのような話し方になるのはそのためです。
喉頭原音を七色の声に変える魔法
喉頭原音は一種類。人類皆一律の音であると言いました。それがどうして千差万別の声になるのか。答えは「共鳴」です。
vol.8の共鳴の話のときに出てきた、人間の身体は楽器であるという例え話。のどや口が楽器で言うところの管になっているということでした。なお、こののどから口までの間のことを「声道(せいどう)」と言います。
声道の長さは、平均的な男性で17センチ。女性や子どもはそれより短くなる傾向があります。管楽器で言うと、トランペットよりもチューバの方が低い音が出せますが、あれはトランペットよりもチューバの方が管が長くできているからです。管が長ければ長いほど、音は低くなります。声も同じ。男性の声は、女性や子どもよりも低いですよね。
そして声道17センチはあくまで平均の長さであって、ここの個体差は大きく、さらに太さなど体積まで加われば、ひとつとして同じ楽器にはなり得ません。管が違えばその中でぶつかりながら共鳴する声もまた、どんどん違った音色になっていきます。喉頭原音は同じでも、その声質が人によって大きく変わるのはこうした理由からです。
例外をあげるとすれば双子の場合でしょうか。同じ身長・体重に加え同じ環境下で育つと、骨格そのものが似てきます。声道の長さや体積も似ていると考えるなら、声が似るのも頷けます。
人類一律皆同じの喉頭原音と、誰ひとりとして同じではない声道の関係。とても面白いと思いませんか?